第23話 希望の忠臣

――大魔王様、僕です! フェイトです!


『数分待て、フェイトよ。すぐに終わる』


 遥か昔、戦火の街にて気まぐれで拾った魔族の子。

 とびぬけた才能を開花させ、自分の右腕まで一気に上り詰めた天才魔戦士。

 そして、自分に対する半ば崇拝に近い忠誠心を持って尽くした、あやつからの念話。


 やはりあやつは生きていたか。


 そして、自分の存在を感知した。


「ジャぁ~くぅん♥」

「ふぁっ、ちょ、アナタ、きゅ、急に勢いが!?」

「ひゃぁん♥ ジャーくん、まっ、ふぁーん、蕩けちゃうよぉ♥」

「キスと指だけで、わ、ジャーくん――――ッ!」

「飛ぶ!!??」


 トロトロに蕩け切った小娘五人を、もはや容赦なく昇天させる。

 あやつからの念話。この機会を逃してはならぬ。

 そのためにはこやつら全員を失神させる。

 自分はありとあらゆる技術を持ってして、五人の小娘たちの意識を飛ばした。


「ふぅ……さて……」


 テーブルの上で痙攣しながら失神し、あらゆるものを剥き出しにして、衣服全てを床に散乱させているダイニングから少し離れ、自分は心の中で改めて奴へと声がけする。



『フェイトよ。聞こえるか?』


『大魔王さまぁぁあああああ、う、うう、ご、御無事で……』



 顔が見えずとも泣いているというのが分かる。

 まぁ、こやつは自分のためなら笑って死ぬことはできるほどの忠誠心を持っているからな。

 


『軍の状況は?』


『あ、はい、ぐすん……今は人類、魔王軍、ともに勇者と大魔王様の安否不明ということで、互いに牽制と探り合いという状況で、一応手は止まっています……』


『そうか……』


『そ、それで、大魔王様は一体どうされたのです? 先ほどから聞いておりましたが、何やら勇者たちと一緒の御様子で……そ、その、だ、大魔王様が、え、え……』 



 状況は大体予想していた通りの展開。

 流石に両軍の総大将とも言うべき大魔王と五人の勇者不在は戦争の手を止めるほどの事態ということか。

 ただ、その報告を言い終えると、フェイトは何やら恥ずかしそうにゴニョゴニョと……いや……待機させている間に、先ほどの行為を聞いていたのだろうな。


『な、何やら、だ、大魔王様が、そ、その勇者たちを、え、えっちなことしてよがらせて……ひょっとして、だ、大魔王様、ゆ、勇者たちを監禁して、て、てごめに……』


 基本、フェイトは非常に生真面目な男。このような話題に免疫がない様子だ。

 だが……



『それは勘違いだ。監禁されているのは自分の方だ』 


『ふぇ?』


『フェイトよ……信じられぬかもしれぬが……実はあの最終決戦、そなたたちが連合軍の精鋭部隊と交戦中……別動隊として自分の下へと辿り着いた五人の戦乙女勇者と自分は戦い……敗れたのだ』


『ッ!? そ、そんな……だ、大魔王様が……そ、そんな……う、うそです……そんなこと、そんなことぉ!』



 フェイトは自分を絶対的な存在と思い込んでいるところがあり、その自分が敗れたということを信じられず、再び嗚咽が聞こえてきた。



『も、申し訳ありません、大魔王様。自分が……自分が人間どもを早々に蹴散らしさえすれば、う、うう、……この罪は死んで償い―――』


『よせ。敗れたのは自分だ。そなただけの所為ではない』 


『し、しかし……』


『よい、それよりも話を聞け。信じられないのはこれからだ』


『?』



 もし、止めるのが少しでも遅ければ、こやつは本当に自害していただろう……だが、今こやつにそんなことをされるわけにはいかぬ。

 こやつは希望なのだから。



『敗れた自分に、勇者たちがトドメを刺し、そこですべてが終わるはずだった……のだが……その、本当に信じられんかもしれないが……その……』


『大魔王さま?』


『自分は五人に……異性として惚れられてしまったようなのだ』


『……はい?』 


『そ、そして、自分に惚れたこやつらは……大魔王であり、魔族である自分と添い遂げることを世界は許されないと判断し……異大陸の辺境で……か、駆け落ちをと……』


『……………へ?』



 いや、そうであろうな。そういう反応が来るのは当然だ。

 正直、自分にとっても屈辱的なことを事細かく説明せねばならんな。

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