第16話 話し合いはやっぱり…

 空から突如現れたスカイドラゴンを見れば、誰であっても身構えるものだろう。

 緊張して顔を強張らせるこの地の兵たちが、スーの背に乗る自分とアネストに気づく。


「た、隊長……あの背に……」

「うむ……少女と……魔族!」


 流石に自分の姿を見れば、緊張感もより一層増した様子。

 そんな一団に向け、アネストが……



「止まってください、王国の兵たちよ。私の名はアネスト。そしてこちらは私の主人です」


「「「「「ッッ!!??」」」」」


「あなた方が私たちの元へと向かっているようでしたので、こちらからお伺いしました」


 

 その紹介の仕方……


「は?」

「……しゅ、主人? カッコいい……」

「どういうことだ?」

「ま、魔族と……夫婦? ……美男美女の……」

「いやいや、冗談……もしくは操られているんじゃ!」

「なんと、あんな年端もいかぬ少女を……あ、あの、美形魔族!」


 やはり反応した様子。


「静まれぇ!」


 ただ、アネストの言葉にザワつきだす一団の中、先頭の隊長の女が隊の連中を制した。



「少女よ……そして、そこの魔族……一体どういうことか混乱するが……たしか噂では、美形の魔族に操られて暴れる五人の少女たちという話だったが……他の仲間は?」


「その情報は捏造です。私たちは操られてなどいません。私たち五人は私たちの意思で彼を愛し、彼に愛され愛し合い、静かに平和に幸せに生きたいと思っているだけです。それを邪魔するものは敵であり、邪魔をしないものたちに何もしませんよ。あと、全員ではこちらのスーちゃんに乗れないので、私たちだけで来ました」



 自分は別に愛していないし、そもそも操られているのは自分の方なのだがな……



「それに、見てください。彼を。こんなに素敵で美形で、ドラゴンすらも乗りこなし……そして優しいのです。少々照れ屋なところもありますが……だからこそ燃えるのですよ」


「た、確かに美形ではあるが……し、しかし……ぬぅ……」



 とりあえず、アネストの堂々とした振る舞いや言葉に隊長の女もどこか戸惑った様子。

 だがそれでも、ここで引くわけにはいかないと頭を振って、声を張り上げる。



「そうは言っても放置はできまい! そなたたち、先日どれだけのものを殺めたと思っている!」


「…………………」


「生き延びた者たちから、まさに地獄のような、悪魔のような所業と聞いている。仮にそなたたちが本当に魔族に操られていないのだとしたら、同罪ということになるぞ、それでもよいのか!」



 そう、例の女盗賊団たち……そして、自分が逃亡している間にも「何か」をしていたアネストたちのことを看過できずにこやつらは動いたのだ。

 ゆえに、最初から話し合いなど無意味。 

 それどころか……



「殺めたと言っても……害虫を駆除しただけであり、別にそれを殺したと言われましても……あなたたちも家の中に害虫が居たら始末するでしょう?」


「……な……に?」


「それと先ほどから、人の主人を魔族魔族魔族魔族と……そもそも魔族であることに何か問題があるのですか?」


「ッ!? な、何を言うか! 魔族など人類にとっての天敵! むしろそれを愛するだのなんだのと宣うそなたこそが異常であろう!」


「……………」



 嗚呼……もう、アネストの心が完全に冷めたようだ。

 実際にアネストは本当に相手が要求を呑むのであれば、本当に何もせずに平和的に笑顔で別れるつもりだったのだろう。

 だが、もはやこれで決定的だ。



「分かりました。では、あなたたちも害虫と判断し…………駆除させていただきます」


「「「「「ッッ!!!???」」」」」



 冷たく氷のような殺気が辺り一面に広がる。

 

「ぐっ、怯むな! 相手は二人とスカイドラゴン! だが、数はこちらが上! 今こそ我らの結束の力を見せてくれようではない―――――」


 その空気を察した隊長の女が慌てて兵たちを鼓舞しようとする――――が……


「じゃあ、判決死刑」

「がぺっ?!」


 次の瞬間、既に隊列の中にコッソリと潜んでいたキルルが、一瞬で女隊長の首を斬った。


「……え?」

「た、たいちょ……」


 そう、奴らの姿が見えた瞬間に、キルルは自分たちの元から離れて、隠密で奴らの中に紛れ込んでいたのだ。



「「「「隊長ぅうううううううううう!!!???」」」」



 そして、話し合いが決裂した場合、即座に奴らの頭を――――




――あとがき――

御世話になっております。

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