第44話 最悪の結末
もはやここまでくれば、連合軍側には怒りすらも込み上げてこないようだ。
もう何もかもが分からなくなり、ただ絶望するだけ。
「「「ちゅ~~♥」」」
大魔王たる自分が現れ、さらにはそんな自分に勇者たちがまとわりついて、下品で淫らな顔でキスをしてくる。
しかもそれを、大量の死骸もあるこの場でだ。
「おやおや、終わったようです……ね……って、あなたたち! 何をしているのです!」
「あーーーー、ラブリィが来る前にイチャイチャ始めてるー!?」
そして、この場にそれぞれの役目を終えたアネストとラブリィも駆けつけ、自分たちの交わりに不快感を示しながらも、駆け寄って抱き着いて参加してきた。
「ジャーくぅん、これで私たちの勝ちだよね~」
「ええ、圧勝です。人の恋路を邪魔する者たちは蹴散らしました」
「さっそくラブラブしよぉ~」
「ねえ、今日もかわいがってね? んふ」
「憂いもなくなったし、最高記録に挑戦!」
まとわりつく五人は無傷。それどころか、疲労も何もない。
この状況下でも既に全員とも薬を飲んで魔力も全快状態。
結果的に、連合軍の数万の軍は五人に掠り傷一つ負わすこともできなかったのだ。
「おい……まだ大半の軍は密林の中だ……戻ってこられ、態勢を立て直されたら……」
とはいえ、まだ軍自体は残っているのだ。
あまりこの場でノンビリしているのはどうなのだと自分が告げると、流石に五人も不服そうにしながらも、自分から離れて溜息吐いた。
「だよねー。どうする?」
「もう指揮官も居なくなりましたし、殲滅します?」
「でも、時間かかるよー。いくらアネストちゃんの魔法でドカンドカンやっても」
「むしろ、ここから私たちが攻撃すると、この人たちも自分の身を守るために立ち上がって、結局戦うことになるわ」
「それは面倒くさい」
そう、今戦意を失っている連中を立て直すにはセクシィたちの代わりとなる将軍が必須だが、それが無い今、たとえ数だけ残っていても絶望した兵たちは立ち上がらない。
しかし、流石にこちらが攻撃をしかけたら、大半は散り散りに逃げるかもしれないが、それでもかなりの数が自分の身や命を守るためにも抵抗されるだろう。
軍としての動きもなく、ただ戦うだけの子供の喧嘩のような乱戦になるかもしれないが、正直下手に策を弄されたりするよりも、数で囲まれて押される方が面倒である。
よって、こやつらにはこれ以上の攻撃をせず、その上で退却させる方が良い。
ただし……
「でもさー、傷を治されてまた立て直して戻ってこられるのも面倒だしー」
「ですね。そのためには……やはり……」
この場で退却させても、また決起して戻ってこられるのも面倒である。
それを避けるためにも、大軍を率いることのできる人材である……
「お姉ちゃん……それと、先輩二人には……ね?」
ラブリィが微笑みながらもゾッとするような冷たい言葉でそう告げる。
それは、今回軍を率い、そしてシャイニたち五人を失った連合軍に残る唯一の希望であり最大戦力、格を持った、セクシィ女王、ヴァギヌア、ハーメシアの三人をこの場で……
「ッ、……き、さま……ら」
「「「「「あ……」」」」」
そのとき、横たわっていたヴァギヌアとハーメシアが意識を取り戻してシャイニたちを睨んだ。
もっとも、身動き取れぬぐらいに弱っているがな。
さらに……
「ん、ぐっ……」
「あ、お姉ちゃんも気づいたんだ」
「っ!?」
総大将であり、ラブリィの姉であるセクシィも目を覚ましたようだ。
その瞳は涙を流し、しかし怒りも入り混じり、何か言いたそうにしている。
そんな姉の猿轡をラブリィは解いた。
すると……
「……殺しなさい……ラブリィ」
「お姉ちゃん……」
「もう……この世は……人類は終わり……終わらせたのは……あなたたちよ……ラブリィ」
「……」
「私は……その責任を取る……もう……何もかも……」
抗うこともしない。
もうどうしようもないのだと、セクシィも絶望して死を望んでいる。
「ぐっ、そ……そんな……女王……うぅ……ぐっ……」
「っ……ここまで……ですか……」
瞳だけはまだ殺意があったものの、セクシィの完全なる敗北宣言に、ヴァギヌアとハーメシアもまた心が折れたようで、ガックリと項垂れた。
「……殺せ……」
「……私たちも……その代わり……兵たちの命はどうか……」
そして、二人ももう屈服し、死を望んだ。
最期に兵たちの命を望みながら。
すると、シャイニは……
「みんな聞いたー? そういうことだからさー、セクシィ女王、ヴァギヌア先輩とハーメシア先輩は、あなたたちがこの大陸が出ていくまで捕虜とします!」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
「あなたたちがちゃんと出ていかなかったりしたら……分かるよね? 今、生き残っている人たちは全員生きて帰っていいよ! その代わり、連合や各国に伝えて欲しいの! もう、私たちには構わないでって!」
三人を捕虜とすることで全員を生かす条件を提示した。
大人しくすれば、生きている者たちをこれ以上狩り取ることはしないと。
そう、まだ何千人と生きている兵たちを、生かしてまた新たなる脅威となることを考えるのではなく、この大勢の者たちに恐怖と絶望を与えてそれを故郷や世界に広めることを選んだ。
もう二度と自分たちと戦おうなどと思わないように。
「じゃあね、ばいばーい!」
「私たちは元気に暮らします。道中お気をつけて!」
「みんなー、故郷に帰ったらみんなによろしくねー!」
「パパたちにもね!」
「じゃねばい」
こうして、残った兵たちは絶望を植え付けられながら撤退をするしかなかった。
密林に入っていた兵たちも総大将や将軍が倒れたことを伝えられ、踵を返し、この大陸から出るべく来た道を逆走する。
「ぐっ、殺しなさい……ラブリィ……私を……」
「捕虜などと生き恥を晒す気はない……殺せ」
「もう、希望も……ないのね……」
一方で、捕虜となることを受け入れずに死を望む三人。
何だったら舌を噛み切って自害しそうでもある。
すると……
「お姉ちゃん……ん~……なんだかな~」
ラブリィは少し不満そうな表情を浮かべて……
「思えばお姉ちゃんも可哀想だよね……子供の頃から戦争で、女王の仕事もいっぱいして、それでこんな最後なんて……先輩たちも、恋とか、男の人とのエッチとかまだ…………………あっ、そうだ!」
だが、急に何かを思いついたかのようにラブリィは微笑みながら手を叩き。
「三人もジャーくんとエッチして赤ちゃんデキたら考えも変わって、むしろ私たちの味方、家族になってもっと幸せになれちゃうんじゃないかなー!」
と、最悪のアイディアを出してしまった。
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