第43話 終幕
完全無防備となった本陣に甚大な被害を与える一撃。
密林に入っていた兵たちも流石に本陣を攻撃されていることに気づいただろうが、簡単に戻ってくることはできない。
一方でこちらは数百数千の兵たちを吹き飛ばすほどの一撃で、本陣の陣形をメチャクチャにし、さらに……
「か……あぅ……が……」
「っ……うっ……」
その中心部にいた二大巨頭でもある、ヴァギヌアとハーメシアも既に瀕死の状態で横たわっている。
「いんや~……ジャーくんの作戦とはいえ、こんな簡単にいっちゃいうとはね~」
「ええ。もっと苦戦してもよかったのだけど、圧勝だわ」
そんな瀕死の両者の傍らに降り立って、勝利の笑みを浮かべるシャイニとディヴィアス。
正直、本陣に壊滅的な被害を与えたとはいえ、兵たちも全員死んだわけではなく、数もまだいるために、まだ終わっているわけではない。
しかし、それでも連合軍はもう詰んでいる。
「おつ~」
と、そこへ二人の足元に空間の裂け目が出現し、そこからキルルが出現。
その手には……
「キルルちゃん、やっほ。そっちは?」
「ええ。シャイニが相変わらずのバカ威力でぶっ飛ばしちゃってメチャクチャになっちゃったけど……」
「問題なし。位置は把握してたから」
全身の衣服を剝ぎ取られた上で全身を鎖で縛られ、口に猿轡を噛ませて自殺できないようにした状態で、気を失った状態の連合軍総大将……
「セクシィ女王は捕獲した」
「お~、さすがキルルちゃん、おつー!」
連合軍の二大巨頭と総大将、それを手中に収めたこちらの勝利である。
「っ、ぐっ、一体……あ……大将軍!? それに、セクシィ女王!?」
「あ、ああ……そ、そんな……」
「嘘だ……ゆ、夢だ……こんなの……悪夢……」
激しく巻き起こった砂塵もようやく晴れて来て、生き延びた兵たちがヨロヨロと身体を起こすも、そこで兵たちが見たのはまさに悪夢。
勇者奪還のために乗り出した連合軍の本陣は壊滅し、そしてそんな自分たちを率いるセクシィ、ヴァギヌア、ハーメシアが倒れていて、その傍らで無傷で微笑み合っている堕ちた勇者たちがいるのだから。
「まだ何人か生きている人もいるけど……よーし、みんなー! 聞こえるー?」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
そのとき、絶望に染まって動けぬ兵たちに、シャイニが大声で語りだした。
「私たちはさー、もう放っておいて欲しいの! 魔王軍とか連合軍とか戦争とかじゃなく、私たちはもう愛する人と生きていくって決めたからさー! だから、もう諦めて放っておいてよー!」
全人類の希望でもあった勇者のドロップアウト宣言。
ただでさえ絶望だった兵たちに追い打ちをかける。
すると……
「ぐっゥ、う、ふざ、けるなぁ! シャイニ!」
そのとき、傷ついた体を引きずりながら、一人の男が前へ出てきた。
それは……
「あー……生きてたんだ……」
「なんという……お前は何ということを! もはや大罪という言葉すら生温い! この悪魔めが!」
激しい怒りと血の涙を流しながら叫ぶのは、シャイニの父親であるサンシャイだ。
「あれ? タッく……タンショウ王子は?」
「……あの爆発で頭を打ち……気を失っておる……お前の……お前の技の所為でな! 許さぬ……許さぬぞ、シャイニ!」
しかし、もはや父親と決別し、むしろ敵とすら見なしているシャイニの目は完全に冷めている。
「私だってあなたを許さないよ? 私の愛するジャーくんを侮辱し……それに……お腹の子供にまで――」
「黙れぇええええ! この悪魔、売女、外道、畜生、ゴミムシめが! もはや貴様など娘でも何でもない! 腹の虫ごと殺し――――」
それでもサンシャイの方が怒りは上であり、もはや完全に殺意の籠った目で、ボロボロの身体で剣を抜き、シャイニに向かって斬りかかり……
「……また言った……私の赤ちゃんを虫って! ゴミムシはそっちだよ……」
「かぺっ――――」
サンシャイの首が宙に舞った。
「あ……う、あ……あ」
「さ、んしゃい、しょ、しょうぐ……」
「ばかな、だ、だって、だって、シャイニ様はサンシャイ将軍の実の……」
まだ生き残りがいようとも、これが決定的となった。
娘が実の父親の首を躊躇いなく刎ねる。
地獄以上の悪夢の光景に、絶望した兵たちはもはや武器を落として身動き一つ取れなかった。
「あら、どうやらもうこれで終わりみたいね」
「楽ショー」
そんなシャイニの所業に、これで完全なる勝利と確信したとディヴィアスとキルルは笑みを浮かべて拳を握る。
「おーい、ジャーくぅ~ん、もうこっちは無事だよー! 安心して降りて来て、ご褒美のチュウしよー♥ 降りて来て、チュウしなさい♥」
「あっ、ずるいわよ、シャイニ! 私が先よ♥」
「じゃあ、私はエッチする♥」
そして、これで終幕だと、地上からシャイニたちが笑顔でこちらに手を振りながら呼んでくる。
自分はその言葉に逆らうこともできず、ただ、スーと共に地上へ降り立つしかなかった。
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