第42話 無慈悲
「派手な攻撃に惑わされるな! あの魔法の範囲は広いが防げぬものではない! まずすべきは連絡回復と自軍の配置確認! 慌てて密林に我らが入っても、自軍の位置を把握できねば混乱するだけ! 現場の指揮は各々の部隊長にさせよ!」
将軍ヴァギヌアが動揺する兵たちへ一喝。
このまま密林に全軍で突入ということもしないようで、全てはこちらの思惑通り。
あとは……
「まだ私の魔力感知の結界にアネストたちは引っかかりませ……ん? いや、これは!」
そのとき、自分たちの位置を探ろうと広大な魔法感知網を展開していた大魔導士のハーメシアが気づいたようだ。
もう、こちらも気づかれて一向に構わん。
「ッ、上です! 上空から突如結界内に……!」
「なに!?」
そう上からだ。
感知網の網のギリギリ外……スカイドラゴンのスーに跨って上空で待機していた我ら……
「じゃぁ、ジャーくんは危ないから待っててね♪ ちゅっ♥」
「掃除してくるわ! ちゅっ♥」
二人は「行ってきます」と言いながら左右から自分の頬に口づけをし、そのままスーから飛び降りて地上へ。
「どりゃああああああ! シャイニングバーストブレイドー!」
「はああああああああ! 落龍烈破!!」
輝く太陽の剣に膨大な魔力を込め、さらには最高潮に達した魔力を纏った拳が同時に連合軍本陣へと降り注ぐ。
それぞれシャイニとディヴィアスの最強級の技。
強力無比な破壊力を込めた力。
出し惜しみもせずに初っ端から繰り出す。
「この反応は……シャイニ!? ディヴィアス!? ……まずいです! ぜ、全障壁魔導士、至急上空へ結界……ッ、く、連絡が……」
いち早く気づいたハーメシアだが、気づいたところで連絡網を絶っているので、その指示伝達は間に合わない。
「ならば私が! 全ての天地変動すらも拒絶せよ、ギガライトリフレクションッ!!」
そしてこちらも流石だな。大魔導士ハーメシア。
アネストが台頭するまでは人類最強の魔導士だっただけはある。
本陣上空を覆うほどの巨大で強固な最強級の障壁を展開。
「そりゃあああああああ!」
「えええええええええい!」
その障壁に構わず、シャイニとディヴィアスは突っ込んだ。
激しい衝突音と眩い閃光が世界を駆け巡る。
「ハーメシアッ!」
「大将軍!?」
「「「「ハーメシア様ッ!!??」」」」
この瞬間、ようやく自分たちが上空から、しかも勇者二人に襲撃されたのだと本陣全体が理解した。
そして、あやうく気づかぬまま自分たちが被害を受ける前に、ハーメシアが守ってくれたのだと。
だが……
「ぐっ、つっ……い、いけません! な、なんという威力!?」
いかにハーメシアとはいえ、相手は大魔王たる自分を倒し、更には禍々しい力まで覚醒させたシャイニとディヴィアスの二人がかり。
最強魔法障壁が徐々にガラスのようにひび割れしていく。
「あ、あああああ!? だめ、ふ、防ぎきれな……っ!」
あまりの衝撃と力に、何とか堪えようとするも、ハーメシアが上空に掲げた両手から血が滲み出る。
食いしばった口元からもだ。
このままでは破られる……だが、その時だった。
「させんっ!」
もう一人の英雄が上空へ飛んだ。
「よく防いだ、ハーメシアよ!」
「っ、ヴァギヌア……」
ハーメシアの障壁が粉々に砕け散った。
だが、それと同時に割れた障壁の向こうから、現在連合軍最強の女将軍ヴァギヌアが槍を振りかぶる。
「シャイニィ! ディヴィアスゥ!」
憤怒に染まった表情で声を荒げ……
「あらら……先輩だ~」
「ふん、やっぱり来たわね」
対するシャイニとディヴィアスは既にハーメシアの魔法障壁を破るのに魔力を大量に消費。
このままでは穿たれる……のだが……
「「ほんと、ジャーくんの予想通り! 流石は夫♥」」
こうなることは自分も予想できていた。
「ラブアローショット♥」
ハーメシアの感知網の範囲外からの超遠距離射撃。
「ッッ!!?? がっ!? な、なに!? これは……」
ヴァギヌアの腕を矢が射抜いた。
意識が完全に上空に、そして視界に映るシャイニとディヴィアスしか見ていなかったヴァギヌア。
だが、流石だな。
咄嗟に腕を出して頭部への一撃を防いだ。
「えへへ~……流石先輩だね、頭を狙ったのに防がれちゃった~……でも、サポートはこれで十分だよね♪」
そう、頭部を狙った。
もしヴァギヌアが防がなければ、確実に矢はヴァギヌアの脳天を射抜いて殺していた。
そのことにラブリィは一切の躊躇いも情けも無かった。
それは……
「先輩、残念ね!」
「ッ、ディ―――――」
「天空雷神踵堕としッ!!」
ディヴィアスも同じ。
ヴァギヌアがラブリィの矢に射抜かれて、カウンターが不発に終わった直後、無防備なヴァギヌアに向けて蹴りの一撃。
これはまともに入った。
激しい轟音とともに、ヴァギヌアが勢いよく大地に叩きつけられる。
「ヴァギヌアッ!?」
「将軍ッ!?」
「そ、そんな、あれは……シャイニ様と、ディヴィアス様!?」
「ほ、本当だったんだ……二人が洗脳されているというのは……!」
返り討ちにあったヴァギヌア。
顔を青くするハーメシア。
そして、話としては聞いていたものの、実際に自分たちを攻撃したシャイニとディヴィアスに動揺を隠しきれない本陣の兵たち。
そこに……
「よ~~~っし、もう一回、イッちゃうぞー!」
シャイニが空中で態勢を立て直してもう一度剣を振りかぶる。
「ぐっ、い、急いで皆さん、シャイニに攻撃を! 大丈夫、先ほどのシャイニングバーストブレイドでシャイニ自身も相当魔力を消費し、あの威力の技はもう出せませ―――――」
一度目は防げたが……もう二度目は防げまい。
「精なる愛の薬で回復♪ ん、ごきゅ♥ ごきゅ♥ よーーーーっし、全快ッ!!」
用意していた薬で魔力を全快にさせたシャイニはもう一度同じ技を繰り出す。
「え!? そ、そんな……ッ!?」
シャイニの魔力が回復したことに気づいたハーメシア。
だが、もうどうすることもできない。
「全軍、撃てぇええええええ!」
「「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」」
まだそのことに気づいていない他の兵たちは、逃げずに、ハーメシアの指示通りに一斉に上空目がけて矢や魔法を放つが、その全てを粉砕する――――
「シャイニングバーストブレイドォォオオオ!!!!」
無慈悲な光が全てを飲み込んだ。
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