第41話 分断

 当初数万だった軍。しかし、どう見ても罠や戦闘を意識するしかない密林に警戒しすぎた。

 分散させて戦力を大幅に削ったその軍では……


「では、始めましょう。揺れ動く山というのもあるのですよ?」


 まずは、笑みを浮かべたアネストが動く。

 膨大な魔力を使い、地震のように大きな揺れを起こす。

 その揺れに密林の中にいた連合軍も即座に反応。


「揺れ?! 来る、全軍停止!」

「周囲に警戒! 魔導士部隊、を展開! 広域障壁を!」


 即座に味方を守るために大規模な魔法障壁を展開。

 その障壁の前には、流石のアネストも大魔法を連発しても簡単には崩せまい。

 だが、アネストがやるのは連合軍への直接的な魔法攻撃ではなく。


「ぬ、この揺れ、まだ……」

「一体何をする気……ッ!? ちょ、ま、待て!」

「あ……まずい!」


 深い密林の中にいた兵たちも、それは予想外だっただろう。


「ふふふ、あらかじめ、夫のアドバイスを元に山も崩れやすいようにしていましたのでね。ふふふ、魔法攻撃だけなら障壁を張れば防げるかもしれませんが、地形を一変させるほどの自然災害はどうします?」


 密林の中、魔法攻撃や伏兵からの強襲は予想できたかもしれんが、今の巨大な揺れで、山が突如土砂崩れを起こし、その土砂が一気に密林に無差別に雪崩れ込んでくる。


「こ、これは、まずいです!」

「狼狽えてはなりません! 魔導士部隊だけでなく、歩兵も密集し、流れぬよう堪えるのです!」

「これだけの土砂崩れであれば、敵軍もこの流れの中で攻撃は仕掛けれないでしょう! まずは軍の陣形が崩れないように!」

「結集し、土砂を受け止めよ!」


 木々を押し倒し、壁のように流れ込んでくる雪崩のような土砂を前に冷静に動く。

 うむ、優秀な指揮官たちもいるようだ。慌てずに、軍を乱さぬように統率する。

 だが、別にそれで構わぬ。

 こちらの狙いは別に、密林の中にいた軍を殲滅することではない。


「よし、土砂の勢いが止まった! 全軍、周囲を警戒しながら素早く奥へ走れ!」

「待て、まずは状況把握が先決だ! 本陣と連絡を」


 うむ、そうだろうな。

 こういう状況では、すぐに密林から抜けることの方が先決だろうな。

 まぁ、させぬがな。


「やりますね。山の罠だけでは総崩れはしませんね。では、空からも……っと、その前に夫と共同制作した回復薬♥ ん♥ ゴックン♥」


 アネストは連合軍を賞賛しながらも、蕩けた顔をしながら回復薬を飲み、味わい、いやらしく微笑みながら再び魔法を繰り出す。


「惑星魔法・シューティングスター」


 今度は天空から無数の光矢を降り注ぐ。

 

「隊長! そ、空から……魔法攻撃です!」

「ぐっ、来たか……だが、範囲も数もデカいが大した魔法ではない!」

「歩兵も楯を挙げろ!」


 アネストの広範囲の魔法攻撃。威力を抑えれば広範囲に攻撃可能。

 これにより、連中もさらに身動き取れなくなるであろう。



「なんだ!? 森の奥で戦闘が……ついに出てきたようだ!」


「本陣の守りを固めよ!」


「いや、今すぐ援軍に向かいましょう! 敵は大規模な攻撃を仕掛けてきています!」


「連絡部隊! どうにか中の隊と連絡を!」



 森の外に待機していた本陣も慌ただしくなり、そして中の様子を伺おうと……出てきたな……


「あは♥ あっちが魔法連絡部隊だね♪」

「混乱すると配置情報ガバガバ♥ 伝令含めバッサバッサ♥」


 こういった味方の位置すらも混乱して把握しきれない状況下では指揮系統の安定が鍵。

 なら、それを断ってやれば良い。

 緊急事態に将軍から伝令へ、そして伝令が魔法連絡部隊へと走り出し、位置を雄弁に教えてくれる。

 そこを、ラブリィとキルルが断つ。


「一撃全殺・ラブリィアローショット♥」

「飛苦無殺戮花」


 相手の感知の外からの遠距離射撃。

 ラブリィの神業のような弓で、キルルのクナイと呼ばれる独特な投げナイフのようなもので、ターゲットを射抜く。

 伝令役と、魔導士を。

 そうすれば……


「くっ、本陣へ連絡を……ん? おい、どうした? おい、誰か!」

「念話が……途絶えている! なんで?」

「おい、ちょっと待て! 今、全体はどういう状況なんだ!?」


 これまでの指揮系統を失って、戦場は大混乱。



「ふふふ、これで密林の中も外も部隊は状況も分からず、更には自軍の全体配置も状況も分からなくなりましたねぇ……そしてそこに、私がまだまだイキますよ?」


 

 そこに、密林の中に目がけてアネストが広範囲の魔法を一気に繰り出す。

 範囲を広げている分、威力は期待できないが、それでも奴らの足止めには十分。


「隊長、どうします?!」

「強力な魔導士……大魔王本人か……もしくは……」

「これではキリがありません! どうにか砲台となっている魔導士を探し出して、討ち取りましょう!」

「待て、慌てるな! 威力は大したことは無い。恐らく範囲を広げている分、威力が弱いのだ。我らならば魔法障壁と併せて盾を上にあげていれば耐え切れよう! それに、これだけ休みなく魔法を繰り出しているのだ、いずれすぐに魔力が尽きるであろう。それまで耐えるのだ! そして、急ぎ本陣との連絡回復を!」


 そう、今すぐ慌てて動き出す方が危険と判断し、むしろこの状況は大した脅威ではないので耐えようという判断だ。

 全体が足を止めた。

 さらに、足場の悪く素早い動きのできない密林では戻ってくることも簡単ではない。

 さて……



「じゃ、さっさと終わらせようよ、ディヴィアスちゃん♥」


「ええ、ジャーくんの前でカッコいいところ見せて、終わったらまた死ぬほどイチャイチャするんだから♥」



 あとは、さっさと人数が減り、味方が戻ってくることもない本陣を狩るだけだ。

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