第7話 虫

 強力なドラゴンを従えた大盗賊団。

 武装して、屋敷の周囲全体を取り囲んでいる。

 だが……



「もう、なんなのー! 私たちは平穏に過ごしたいのに、いきなり盗賊来るとか何でー!?」


「やれやれですね……せっかくの結界ですが壊されそうですね。張りなおすのは容易いですが、今後まとわりつかれるのも面倒ですし……」


「もう、ラブリィは怒っちゃったぞ~! お仕置きしちゃうぞ!」


「彼氏と二人で料理しているところに、よくも邪魔してくれたわねぇ!」


「判決成敗」



 この場に居るのは何万人もの魔王軍に正面から戦い、あらゆる修羅場を乗り越えて、大魔王である自分をも打倒した人類最強の5人。

 たかが盗賊程度など千人居たところで相手になるまい。

 重要なのは、いかにドサクサに紛れられるかどうかだ。


「ガルラアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 スカイドラゴンのブレス。

 その威力は上級魔法クラスの威力がある。

 並の人間では百人がかりでも倒せぬ力を持ったあのドラゴン。

 さらには、相手が盗賊とはいえ「人間」であるならば利用できる。

 何故ならば……


「やるしかないね、皆。でもさ、分かってるとは思うけど――――」

「ええ、分かっておりますよ、シャイニ。相手は私たちと同じ人間です」

「うん、ラブリィも手足だけを狙うよ」

「私たちにできるのは倒して捕らえて、国にでも引き渡すだけ。追い払うだけでも良し」

「人間同士で殺し合うのはダメ」


 そう、この小娘たちは勇者。

 しかも根はお人よしの甘ったれた勇者だ。

 相手が盗賊であろうと、人間を殺したことなどはないのだ。

 つまり相手に対する慈悲を持っている。

 この『相手を殺さない』という枷は意外と面倒なもの。

 圧倒的な力差があるがゆえに、手加減を必要とする。

 ならば、そこに必ず隙が生じる。

 この場から、自分が離脱するための――


「っしゃぁ、邪魔な結界も破れたことだし、おーい、出て来いよぉ!」


 女盗賊団のボスと思われる、ハルバードを担いだ巨漢の女が前へ出てそう叫んだ。

 筋肉質で、長身で、かなり鍛え上げられて実戦経験も豊富そうだ。


「おらぁ、ボスが出て来いって言ってんだよぉ! 火ィつけんぞォ!」

「姐さんの命令に逆らうと、どうなっても知らねーぞー」


 おまけに、品のない連中たちとはいえ人望はありそうだ。

 盗賊とはいえ、軍に入ればそこそこ名を馳せる戦士にか将になれたであろう。


「やれやれ、出よっか。庭がメチャクチャにされるのも嫌だし」


 とはいえ、そんな脅しにまるで動じることなく、溜息吐きながら告げるシャイニに、他の者たちも頷き、自分たちはとりあえず屋敷の外へ。

 すると……


「おっ、なんだよぉ、中にいたのはガキじゃねえかよ!」

「あ? 金持ちのお嬢様たち姉妹か?」

「おい、嬢ちゃんたち~、ママとパパはいないのか~い?」


 中から出てきたシャイニたちに少し意外そうな反応を見せる盗賊たち。

 どうやら、勇者であるシャイニたちの顔も知らんようだな。

 ただの小娘たちと見て笑っている。

 ただ……


「ぬおっ!?」

「おっ!」

「あっ!」

「ひゅー、おおお、おおお!」


 盗賊共は自分を見て、一気に笑みを浮かべて……


「ひゅー、男だー!」

「しかも、上玉! うひょー、マジかよ、こりゃついてるぜ!」

「かー、この嬢ちゃんたち、こんな良い男を囲ってたのかぁ?」

「うひひひひ、よだれ出てきた~」

「あれ? ってか、あの男……よく見たら……魔族?」

「本当だ! 魔族っすよ、姐さん!」

「ってこと、田舎のお嬢様が魔族の性奴隷でも買ってるって感じか?」


 なんと下品な女たち……地上の、人類の女たちはもはやこのようになってしまったのか?

 嘆かわしい。



「カカカカ、ひゅ~、いいねぇ! 良い男がいるじゃねえかァ! よっしゃ、その男は頂いていくぜぇ! そんで、死ぬまで犯しまくってやらぁ!」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


「楽しみだぜぇ! ゼッテー孕んでやるぜぇ! 魔族の男ってよ~、性欲ヤベエらしいじゃねえかよ! くひ~、一度ヤッてみたかったんだよぉ!」


「「「「「ッッッ!!!????」」」」」



 そしてボスの女も、いやらしい笑みを自分に向けながら、品のない言葉を叫んだ。

 ただ、その瞬間、シャイニたちの肩がピクリと動き……


「げ~、またボスが最初すか~? あたいらにも分けてくださいっすよー!」

「あの、ボスぅ、私、まだ犯した男の子に孕まされたことなくて、妊娠してみたいんですけどぉ!」

「姐さ~ん、あたいらの分も、その男の液を残しておいてくださいっすよー!」

「う~、股がムズムズしてきたぁ!」


 ただ、そのことにも気づかずにゲラゲラと笑う女たち。

 すると……


「…………ジャーくんを……?」


 それは、自分も初めて見た。

 常に明るく天真爛漫という言葉がピタリと嵌る、あのシャイニの瞳が黒く染まって光を失っている。

 シャイニはそのままボスの女に近寄り……


「あん? なんだー、お嬢ちゃん。先に死にてえのかぁ? 安心しな。まだ殺さねえ。私はな、恋人の目の前で男を犯すのが大好きでな! お前の目の前でその男―――――――がぺ? ……え?」


 首を刎ねた。


「……あ、あで?」


 まだ意識もあり、自分がどうなっているかも気づいていない様子のボス。


「ッッ!? え、え!?」

「な、え、ひ、え、え!?」

「ボ、ボスッ!?」

「姐さん!?」


 突然首を刎ねられて、ボスの女の首が宙を舞い、一瞬で驚愕に染まる盗賊団。


「ジャーくんは私たちの彼氏だよ? 何を言ってるのかなぁ?」


 そして、刎ねられた首が地面に転がり……


「わ、た、ひ……な、なんでばあああああああああ!!??」


 首だけになってもあまりの斬れ味ゆえにまだ意識があるようで、だがようやく自分の状態に気づき、最期の声を上げ――――


「うるさい」

「がひゅッ!?」


 転がった頭部を、シャイニは剣で串刺しにした。


「……な、に?」


 自分も驚きを隠せぬ。

 何の躊躇いも慈悲もなく、シャイニが人間の首を刎ねた!?

 今までそのようなこと聞いたことも無い。

 それどころか、他の仲間たちもそのことを一切非難しないどころか……



「人間は殺さない……というのは考える必要なさそうですね」


「うん。ここには害虫さんしかいないから、人じゃないね」


「それもただの虫じゃないわ……よりにもよって人の彼氏を……犯すですって? ジャーくんを、犯すですって!?」


「判決。強姦魔は死刑」



 アネスト、ラブリィ、ディヴィアス、キルルもまた瞳のハイライトが消え―――


「ひっ?! な、なん、こいつら!?」

「や、ひ、やめ――――!?」


 虐殺行為が始まった。

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