第9話 隙
「ガル、ルガ、クルゥゥ……」
盗賊団が連れてきたスカイドラゴンが怯えて縮こまっている。
飛んで逃げることもできないほどに恐怖している。
当たり前だ。
五人で力を合わせれば大魔王たる自分をも凌駕する5人だ。
たかがドラゴンの一匹程度で耐えきれるような存在ではない。
自分も甘かった。同じ人間同士殺すことは無いと高をくくり、それゆえの苦戦や生じる混乱の中でどうにかあのドラゴンにどこかへ連れて行ってもらい、離脱するという考えは一瞬で消え去った。
「さて、アネストちゃんの結界破ってくれちゃったあのドラゴンもヤッちゃおっか。ドラゴンスレイヤーの称号はもう持ってるからいらないけど、邪魔だしね」
「グルウウウッ!?」
そして、淡々とシャイニがそう告げ、怯えるスカイドラゴンに剣を振り上げようとしたとき……
「待て!」
「……ジャーくん?」
「そやつぐらいには慈悲を与えられぬだろうか?」
「……え?」
自分はシャイニを止めていた。
これは反逆ではないと宝玉も判断したようで、言葉を発することはできた。
「そやつも人間に望まぬ形で捕らえられ、買われ、飼われ、無理やり言うことを聞かされていたのだろう。女盗賊団は構わぬが……同じ魔物として、こやつが死ぬのは心が痛む」
嘘ではない。が、どうにか今後のことを考えこのスカイドラゴンは手元に残しておきたいという想いもなくはなかった。
勿論ダメもとではあるが……
「う、うう……ぐすっ……」
「え!?」
いや、え? そこで、シャイニが何故泣く!?
何故か急にシャイニが目元に涙を溜めて泣き出し……
「ジャーくん……あ、あなたという人は……」
「ジャーくんって……優しいッ!」
「こんなの、私たちの愛の巣で暴れようとした害虫だと思ってたけど……うん、うん!」
「ジャーくんの悲しむことはしない」
と、急に他の四人も泣き出し……自分に一斉に抱き着いてきて……
「ジャーくん! なんて優しいの! そっか、ジャーくんは優しい王様だったんだね! 彼氏が虫や動物に対しても慈しむ心を持っていて、もう、感動だよぉ! うん、この子は助けよう! ってか、私たちで飼おう!」
「あなたという人は、本当にやってくれますね! 私に惚れ直させるなど恐れ入ります! 分かりました。ま、ペットの一匹ぐらい居てもいいかもしれませんね。空も飛べて色々と便利かもしれませんし」
「もう、ラブリィはジャーくんだいすき~♥ うん、このスカイドラゴンくん……よし、スーちゃん! スーちゃんにしよう!」
「まったく……イケメンで優しい彼氏だなんて、ほんと私は幸せね。スーちゃん、これからはイイ子にしなさいよ~? イタズラしたり言うこと聞かなかったりすると、拳骨だからね?」
「スーちゃん、私たちが子供産んだらその子たちとも遊んでね」
笑顔でスカイドラゴンにそう告げる。
「ガウガウガウガウ!」
「「「「「お利口さん♪」」」」」
ある程度知能のあるドラゴンは人間の言葉を理解するため、スカイドラゴンことスーも、慌てて何度も頷いた。
そして、自分はドラゴンの言葉を理解しているため……
『うぇえええええん、こえええええ、このお姉ちゃんたちコエエエエエエエ!』
もう、誇り高いドラゴンの威厳も何もあったものではなかった。
ただ、その時だった。
「おい、魔族や化物がいるってのはあそこの屋敷か!」
「おい、あっちでスゴイ大きな……な、なんだぁ?」
「ど、ドラゴンが居るぞ!」
「先日、空き家に入ったお嬢さんたちが魔族に操られてるとか!」
「お、おい、何とか助けに行かねえと!」
「くそぉ、村の女共、武器を持てぇ!」
盗賊たちの何人かが村へ逃げ込めたのだろう。
そして騒いだ。
近隣の村からも続々とこの場に人が駆け寄る気配。
「あらら~、どうしよっか皆……大騒ぎになりそう」
「そうですねぇ……あとこの苦しめている害虫たちの処理もしないと言い訳が……」
幸運! ここだ!
「……あれ? …………あれ? ……ジャーくんは?」
悶え苦しむ女盗賊団たちの死屍累々に、勢いよく駆け付けようとしている村人たち。
そのことにどうするかと五人が考えている隙をついて……
「「「「…………え? ……ッ!?」」」」
反逆はできない。自害もできない。
しかし、移動は可能。
あやつらが『この敷地内から外に出ることは許さない』と自分に命じていなかったことが幸いした。
「ジャーくん……」
自分は離脱することができた。
「何しちゃってるのかなぁ? ……ニガサナイヨ?」
……かに見えた。
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