第10話 声
「どうしよう、ジャーくんが逃げちゃった!? なんで、宝玉はどうなってるの!?」
「まさか……自害や命令違反や反逆という埋め込んだものに対する攻撃はできなくても逃走はできる……と?」
「うそ……ジャーくんが!? ニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイ、スーちゃん、今すぐジャーくんの匂い追いかけて!」
「ふざけないでよ、どうしてジャーくんが逃げるのよ! 私のこと好きなのに、なんで!?」
「ジャーくん……ジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくんジャーくん……ドウシテ?」
「お嬢ちゃんたち、大丈夫かい!」
「おばさんたちが来たからもう安心しろ!」
「しかし、ドラゴンが……」
「何とか追い払わないと!」
「うわ、な、なんだこれ!? ひ、人がいっぱい……し、死んでる?」
「お、おえぇ!」
「くそ、魔族の仕業か! 出て来い、魔族、殺してやるぞ!」
「魔族は捕らえて火あぶりにしてやる!」
「魔族は殺せ! 殺せ!」
「「「「「あ……そっか……コイツラノセイカ……」」」」」
甘く見られたものだ。
確かに角を失っては魔力が制御できずに魔法が使えない。
しかし、魔法が使えなくとも、素の身体能力だけで自分は誰にも負けぬ自信がある。
全力で駆け抜ければ、谷も山も川も軽々越えられるのだ。
奴らの命令の声が届かぬほど遠くへ逃げ、早々に魔王軍の残存兵と合流する。その上でこの宝玉を取り外す方法を探る。
それに、この角が再生さえすれば自分の力ならば自力で取り外すこともできるはず。
そうなれば自分の勝ちだ。
バカな小娘たちだ。いくらでも自分を殺すことも可能な状況だったというのにな。
しかし、こうなってしまえば、自分も改めて大魔王として再び暴れてくれよう。
戦乙女勇者たちよ。人類の滅亡は全て貴様らの所為。
後悔するがよい。世界よりも私情を優先したことを。
「だいぶ来たな。あの屋敷からこれだけ離れれば、アネストの感知魔法でも捉えきれぬ。自分の正確な居場所が分からねば、キルルの時空間魔法で追いつくこともできぬ。距離が離れすぎれば、この宝玉を埋め込んだ者たちにも居場所が分からぬというのも炎竜王の時に実証済み」
陽も完全に沈み、辺り一面が闇夜になった。
こうなれば更に奴らの追跡からも逃れられる。
「この大陸には来たことは無いが、方角は分かる。ふっ……この大魔王がコソコソと逃げ回るというのも恥ではあるが……小娘共に飼われるよりはマシというもの」
まだ気を抜くわけにはいかないものの、こうも早く奴らの手から逃れられるとは思わなかった。
すると……
『わ~、私が空に映ったー! ねえねえ、ほら見てぇ!』
『仕方ないでしょう。他に方法がないのですから』
『すごーい!』
『う~、でも、これ世界中が見てるんでしょぉ? 恥ずかしいなぁ』
『我慢』
空を覆いつくす巨大な五人の娘たち。
「なっ、なん……だと? いや、あれは……」
戦乙女勇者たちが巨大化?
違う。アレは空に自身の姿を投影する魔法だ。
互いの軍の将も、あの魔法で彼方までいる兵たちに声が届くように演説したりしたものだ。
「あやつらめ……アレでは流石に奴らのことを知っている者たちにまで知られるぞ? 自分たちが生きていることは内緒だったのではないのか?」
隠れて住む……はずがこのような目立つ行動をしたことに呆れてしまう。
とはいえ、あんなことをしても奴らの視界にこちらが映っているわけではない。
だから仮に今の自分の姿が見つかる心配は―――
『じゃぁ、いくよー! せーの!』
『『『『『ジャーくん、今すぐ帰って来なさ~~~~~~い!!!!』』』』』
その叫びが大陸中に響き渡り……
「……あ…………」
そうか、直接近くに居なくとも、奴らの声さえ聴いてしまえば自分は―――――
体が勝手に今来た道を戻り始めてしまい、それに抗うことは自分にはできなかった――――
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