第11話 辱

 寒気がした。

 戻ってきてしまった……命じられた以上は戻ることしかできない自分が、奴らの待つ屋敷に着いた瞬間、自分は目を疑った。


「ア……ジャーくんだぁ……ヤットカエッテキタ~♥」


 屋敷の前で待つ5人。

 その瞬間、満面の笑みを浮かべた5人の瞳に一切の光が無いこと……ではない。自分がもっとも寒気がしたのは、屋敷の光景だった。


「こ、これは……元に戻っている……」


 アレほど凄惨極まりない阿鼻叫喚の地獄と化した屋敷の周囲。

 盗賊団の全ての女たちが倒れ、血を流し、悶え苦しんだ現場。

 死体も、血も、そして息のあった女たちも誰一人居なくなっていた。

 踏み現れた庭なども全て『何もなかったかのように』綺麗に元に戻っていた。


「グッドタイミングだよ~、ジャーくん……お片付けが『全部』終わったところだしね♪」

「ええ、大変でしたよ。掃除をして、植物を元に戻したりするのや、『ゴミを全部焼却』するのも」

「でもぉ~、ラブリィたちとジャーくんの愛の巣だもんね! きれ~~いにしないとね♥」

「本当よ。でも、これで少しはジャーくんも安心してくれるわよね」

「ジャーくん、おかえり」


 そして、五人は一斉に自分に向かって駆け寄り……


「でも、心配させたオシオキシナイトネ」

「ッ!?」

「ジャーくん、抵抗したらダメだから」

 

 駆け寄って、まずシャイニが自分の両手足を一振りで切断した。


「ぐぬっ、あ……ぐっ!」

「再生はさせませんが、止血はしておきます。とりあえず、ジャーくんはしばらくベッドからの移動を全て禁じます」


 そう言って、切断面に治癒魔法をかけてくるアネスト。

 これでは走ることは不可能。

 こやつらめ……



「痛いでしょ? でも、私たちはもっと痛かったんだよ? ジャーくんの……『自己犠牲』に」


「……なに?」


 

 だが、今は痛みよりもシャイニの意味不明な言葉に意識を奪われた。



「ジャーくんが人間に見つかったら、私たちに迷惑がかかると思ったんでしょ? だから私たちの前から黙って逃げようとしたんでしょ?」


「…………?」



 いや、普通に自分は逃げようとして……



「あなたは大馬鹿です! 愛する者を失う悲しみがどれほどか、私たちはあなたが居なくなってようやく気付いたのです! あんな悲しい思いはもう嫌です! 私たちが勇者だったばかりに、あなたは……ぐすっ」


「ジャーくん、ラブリィたちは人類よりジャーくんを選ぶよ。ジャーくんに手を出そうとする人間はみんな敵。ジャーくんの憂いは全部ラブリィたちがお片付けしちゃうから」


「さっきの投影魔法で私たちに気づいた他の連中もいつか来るかもしれないけど、そのときは全員また片づければいいし、何だったら引っ越しっていうのも悪くないわよね」


「どこに行ってもどこまでも一緒」



 こやつら、自分が逃げたことを都合のいい様に解釈を……ここまで阿呆に狂ってしまったというのか?



「とりあえず今日からしばらく、ジャーくんは逃げられないし、私たちが協力してゴハンもアーンしてあげないと食べられないし、お風呂も一人で入れないし、おトイレもいけないよね? ぜ~~~~~~~~~~~んぶ、私たちがやってあげるから♥ 彼女なんだから当たり前だよね♥」


「ッッ!? な、ふざ、やめよ! そ、そんなこと、そのような辱めを自分にするというのか?! そんなこと許さぬぞ!」


「アナタ、これはお仕置きなのです。あなたがちゃんと私たちの気持ちを理解してくださるまでそのままです。アナタがちゃんと分かってくだされば、角はダメでも手足ぐらいは元に戻してあげます」


「ぐっ、離せ! 離っ、むぐっ!? んっ、んぶっ!?」


「ジャーくんをハグハグからのスリスリだよ~ぉ♥♥♥ あふ~~~、ジャーくんとのハグもスリスリも気もちよくて食べちゃいたいよぉお~~♥♥♥ えへへ、でもいいんだよね? だって彼女さんなんだし、何でもし放題だよねぇ~♥ これからもういっぱいしちゃうぅ♥」


「っ、ふざけたことを……くっ……殺せ」


「あは、あの強く逞しかったジャーくんが何もできないなんて……もうさ……お仕置きなんだし……ご、強姦はダメって協定だったけどさ、お仕置きなんだし、もうちょっとキス以上のことしていいと思わない? 勇者と大魔王……どんな子供が産まれるかも凄い気になるし♥」


「そ、そなた、本気か! やめよ、人と魔が交わって子をなど……まさか本気ではあるまいな! そのようなこと許さッ、ふぐっ、あ、ぐっ!?」


「はあはあ、我慢無理♥」



 こうして、意識が目覚めた初日の逃亡は失敗に終わった。



「あは、いいよね~。私も実はもう我慢できなかったし~♥」


「子はかすがいとも言いますし、アナタも子供ができれば落ち着くかもしれませんしね」


「やった♥ ラブリィも大賛成~♥」


「じゃあ、そういうことで……!」


「ずっこんばっこ~ん♥」



 そして仕置きとして自分は、数千年生きた中でもっとも悍ましく下品な屈辱を―――させぬ!



「ま、待て! もし自分とそなたたちが交われば、そなたたちの身体はただではすまんぞ! それでもよいのか!?」


「「「「「え……?」」」」」


「自分のような魔族の中でも最上位の種族の体液は、貴様ら人間たちにとっては強すぎる成分ゆえに浴びたり接種すれば肉体に強いリスクが伴う! 本来は角でコントロールしたり、それが弱まる満月の日でないと自分と交わったらどうなるか分かっているのか!?」



 これは本当だ……嘘ではない……ただし……ただでは済まないリスクというのは、『確実に妊娠する』というものなのだがな。

 ただ、この言い回しであればこやつらも自分との交わりに一歩引いて……



「「「「「ジャーくん……黙っていれば私たちが死んでいたかもしれないのに……私たちを守るために♥♥♥」」」」」



「………」



 そう解釈されてしまったか。

 ただ、これで少しは猶予が――――

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