第30話 不憫
こやつ、正気か?!
実の親や幼馴染に対して、この状態で……
「ジャーくん、少しシーだからね。でも、ちゃんと私を……『気持ちよくかわいがってて』くれないとダメだよ?」
「ッ!?」
待て、一体どうしろと!?
しかも、貴様の親ということは連合の重鎮で……もし自分が「こんなこと」をしているとバレてしまったら。
「お~い、お父さ~ん、タッく~ん! 聞こえるー? おーい!」
『ッ?! シャイ姉ッ!?』
『おお……おお! シャイニ!?』
そんな自分の心配など知らずに、シャイニはアイテムを『自身の首から上』を映すようにして声をかける。
そう、首から下は今とんでもない格好になっているがゆえに……そして、向こうもまたそんなことを知らずに……
『よかった! よかった、ぐひん、ぐすっ、良かった……シャイ姉ぇ、無事だったんだね!』
「タッくん……」
『馬鹿者め……心配かけおって……しかし……しかし無事で何よりだ、シャイニ……』
「お父さん……」
童顔でシャイニたちよりも明らかに年下と思われる少年と、威厳に満ちた将の空気を纏った中年の男。
シャイニの幼馴染とシャイニの父親。
二人とも安心したのかその瞳から涙を流している。
流石にその二人の涙を見て、シャイニも少し目元を潤ませている……
「うん……ごめんね、心配かけて……二人にはちゃんと連絡しないとって思ってて……」
『いいんだよ、シャイ姉! 僕は、シャイ姉が生きてさえいてくれれば……でも、どうやらシャイ姉は本当にこのトティモトーイ大陸に居たんだね……ぼく、シャイ姉が行方不明って聞いて、ずっとずっと……』
「タッくん……」
『シャイニよ。王子はお前たちが行方不明となり、それ以来まともに食事も採られず、眠ることもできず、それだけお前たちをずっと心配してくださったのだ……まぁ、私たちも同じだがな』
「お父さん……うん……ごめんね……あん♥ もっと、早くに、ん♥ 連絡とればよかったね……」
『うん、でもいいんだ、シャイ姉が無事で……でも、シャイ姉、大丈夫? すごく顔も赤くなって、どこか体調悪いの?』
「ううん、元気だよぉ! 元気ビンビンで、うん、ビンビン♥」
『うむ。魔王軍に放っていた間諜から得た情報は間違っていなかった……して、シャイニよ。他のアネストたちは? そして……近くに魔王軍は? 拘束されたりしていないのか?』
この親不孝め! 罰当たりめ! こやつ、涙ながらに感動しながら、それでもちゃっかりと、自分との接触に興奮して……地獄に落ちるぞ、貴様ぁ!
「うん、アネストちゃんもラブリィちゃんもディヴィアスちゃんもキルルちゃんも、みんな超元気だよ! あと、『魔王軍』もいないし、全然問題なしだよぉ! 出かけるのも自由だしね~」
『おお、それは重畳! 良かった……希望は潰えていなかったということか……ん? しかし、それならば……なぜお前たちは帰ってこない? 情報では、お前たちは……その……大魔王に……その……』
「あは、ヒドイことされてるって思ったの? も~、そんなことないよぉ!」
『ん、そ、それならば尚更良かったが……ならば、本当になぜ……』
そんな娘の痴態にもまだ気づかず、父としてだけでなく軍関係者として安堵するシャイニの父親。
ただ、無事であり、しかも魔王軍に捕らえられているわけでもないのであれば、今どういうことになっているのだ? と、父親が首を傾げている。
『シャイ姉、無事だったなら、早く帰ってきてよぉ……』
「タッくん……」
『僕ね、ずっとずっと言えなかったことがあって……でも、シャイ姉が帰ってきたら今度こそ勇気を出して言いたいことがあったんだ……絶対に言おうと思っていた大事なこと……でも、こんなことになって……早く伝えられなかったことを後悔して……だから、絶対に言う! だから、シャイ姉、帰ってきて!』
王子の悲痛な叫び。
何という……不憫な……すると、シャイニは……
「うん、実はね、私もお父さんにも……そしてタッくんにも言わなくちゃいけないなってことがあって……早く言いたいことがあったんだ……私のね……勇者としてではなく、女の子の人生……け、結婚とかさ……」
『ふぇ!? シャ、シャイ姉、そ、そそ、それって……けけけ、結婚!? じゃ、じゃぁ、シャ、シャイ姉も……ぼぼ、僕のこと――――』
嗚呼、王子が顔を真っ赤にして狼狽えて……勘違いしている。
『お、おお、これは、私は居ない方がよかったですかな? 王子』
『ももう、将軍!?』
父親も何やらニヤニヤしている。
まずい、シャイニ、言うな。
死ぬぞ、その王子! 自殺するぞ!?
「あのね、お父さん、タッくん……私ね、彼氏ができて、その人とそのまま結婚しました!!!!」
『『…………え゛?』』
嗚呼……完全に予想外だったであろう二人は、シャイニの言葉が理解できない様子。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます