第29話 弟みたいな

「私が聞きたいのは~、その王子がシャイニのお婿さんにとか結婚とかそういう話にならなかったのかってことよ~」


 淫乱淫らな行為をやり続けながらも、その合間に幼き少女のような恋話を挟むこの落差は何なのかと思いながらも、ディヴィアスの言葉にシャイニはキョトンとしながらも……



「あ~、そういえばあったよ~。お父さんと国王様も仲良かったし、タッくんも今よりもっと小さいときは『シャイ姉ぇと結婚する』な~んて言ってたし~」


「へぇ~、そうなんだ! それでそれで?」


「うん、私も『大きくなったらね』とかって言ってたけど、子供の頃の話だし~、ちょっと大きくなったら『そんな昔の話は僕覚えてないよ』とかってムキになって否定するちょっと生意気な子になっちゃったけど~でも、もーそんなのどうでもいいし、私にはジャーくんがいるもん!」



 幼き日の約束ということであまり重く捉えていないようだが……しかしそれは……



「そういえば、最終決戦行く前にタッくんが、帰ってきたら大切な話が~とか言ってたけど何だったんだろ?」


「「「「……シャイニ……それって……」」」」


「?」



 サラリと言ったシャイニだが、他の四人は分かったようで呆れたような顔をしている。

 自分もそう思う。その大切な話とやらは流れ的にプロポーズ的なものだと思うのだが……


「落ち着いたら、お父さんとお母さんとタッくんにはちゃんとジャーくんと、妊娠のことも教えないとな~。みんな、祝福してくれるかな~?」


 たぶん……全員発狂すると思うが……



「って、ジャーくんごめんね~。家族みたいなものとはいえ、ジャーくんの前で他の男の子のお話しちゃって、でも、私が世界で一番愛しているのはジャーくんだからね! お詫びに……もう一回してあげる♥」


「ッ、や、め―――」


「ん――――♥」



 いずれにせよ、もうシャイニにとってはその過去や繋がりは今の自分との関係より優先するものではないのだと、再び自分に身を寄せながら、いやらしくまとわりついてきた。

 ただ、その時だった。



――シャイ姉ぇ……聞こえない? シャイ姉ぇ、無事だったら返事して! シャイ姉ぇ!


――シャイニよ、聞こえぬか? どうか無事ならこの父にお前の声を聞かせてくれ、顔を見せてくれ、シャイニよ



 唐突なことで、自分たちは全員ベッドから一斉に身を起こした。


「え? な、なに?! 今のは……」

「今の声は……念話? ……屋敷の近くには誰もいませんが……」

 

 そう、唐突にシャイニを呼ぶ声がどこかから聞こえた。

 しかし、これは頭の中に話しかける念話ではない。

 むしろ……


「あっ、見てよ、シャイニ! ほら、あなたの脱ぎ捨てたパンツの下……何か光ってる!」


 ディヴィアスの言葉に全員が床に顔を向ける。

 脱ぎ散らかされたシャイニのオレンジ色のショーツが発光……その下には……


「ん? もう、せっかくジャーくんと一つになってるときに……あれ? これ……あっ、タッくんからもらったお守りだ」


 そこにあったのは一つのペンダント。いや、それは……



「マジックアイテム……ペアリングコール……一つの魔法石を二つに砕き、それを加工することで、ソレと同じものを持っている者同士は離れていても互いの姿を石に映し出して会話することができる……」


「ふむ、ジャーくんの言う通りですね……って、シャイニ。あなたこんなものを持っていたのですか?」


「え?! そうなの? タッくんそんなのくれたんだー……知らなかった」


 

 ということは、先ほどの声は……しかも、声がしたということはつまり……



「あら? でも、これはまずいのでは? たしか、そのアイテムは海を挟んだり違う大陸だったりと、距離が離れすぎていると繋がらないのですが……『同じ大陸』に居れば大体は繋がるアイテム」


「え?! じゃぁ、今のタッくんとお父さんの声……だったし……それじゃあ……」


「ええ。どうやらフェイト星将からの情報を得たのか、この大陸に足を踏み入れたのかもしれませんね」



 つまり、フェイト、よくぞやってくれた!

 これで一つ希望が見えてきた。


「え~、それじゃあ、ラブリィたちのパパやママたちも?」

「うそ、そうなのかな?」

「……めんどくさくなってきた」


 そして、いつかこうなることは分かっていたものの、これだけ早くなるのは小娘たちには想定外だったようで、少し悩ましい顔をしている。

 いいぞ……少しずつだが―――



「ん~……ま、いいや! とりあえずせっかくだし、私の元気な姿を見せてあげちゃおっと♪」


「……ッ!? ちょ、おい、そなた、待て! 出る前に、まず、自分から離れ―――」



 しかし、楽天的なシャイニは、裸のまま、しかも自分と『こういう状態』のまま、ペアリングコールを出ようと―――

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