第28話 家族

 どれだけ性も根も果てたとしても、尽きることはない。

 そのためなのか、自分の眠りは浅い。

 ここ数日、深い眠りに入ったことは皆無。

 それだけこの状況に心が一切安らぐことはないからだ。


「んちゅっ♥ ジャーくぅ~ん、おはようのべろちゅーだよぉ♥」


 それでも浅い眠りから覚めて朝が来て、目を覚ました自分がまず第一に口にするのは、五人のうちの誰かの唇、舌、唾液である。

 今日はシャイニだった。


「ん~……アナタぁ……はっ! あ、シャイニ……う~、先を越されました……なぜです、シャイニ! 寝坊の常習者だったあなたが結婚してからいつも早起き!」

「ふぁぁ~、シャイニちゃんに今日の目覚めの一杯を取られちゃったよぉ~! でも、ラブリィは他の所から摂取♥ 搾りったて~♥」

「っ、くっ、出遅れたわ! キスがだめでもコッチは……って、あー、キルルッ!?」

「確保済み♥」


 そして、朝食の前に目覚めの絡み。

 気持ちが悪い……昨日も汗や互いの液に塗れるほど淫らなことを夜通し行い、その後そのまま寝たために自分たちは衛生的ではない。

 まぁ、たまにそのまま風呂場に行って、風呂場でもすることはするので何も変わらんのだが……


「ぷはっ、満喫満喫♥ いや~、んふ~、ニヤけちゃうな~、幸せすぎて」

「あっ、交代ですよ、シャイニ」

「はいはい、どーぞ」


 堪能したと満面の笑みのシャイニ。その後にアネストが自分の唇を吸ってくる。

 そして、シャイニはそのまま立ち上がり、窓のカーテンを開けて日差しを浴びながら伸びをして、そして腹を擦ってまたニヤけた。


「お父さんとお母さんはラブラブだよ~♥」


 と、既に宿った種に向かって語り掛けるシャイニ。

 何という悍ましい……だが……自殺も出来ぬ以上は、ただ自分は待つしかない。



「っと、そういえばさ~、私たちのお父さんとお母さんはそろそろ私たちが生きてること知ったかな~? ジャーくんがフェイト星将とコソコソしてたじゃん?」


「ぷはっ、ええ、そろそろでしょうね。お父様やお母様たち、そして連合の幹部連であれば、私たちがこの大陸に居ると知れば、流石に魔力感知捜索を始めるでしょうし、先日のこの国の兵たちとの小競り合いからも、そう遠くない未来に……あっ、アナタぁ、唇乾かしてしまい申し訳ありません。また、潤いを♥ んちゅっ♥」


「だよね~。流石に連合に知られると色々とメンドクサイし~、私たちが連合と小競り合い始めたら、その間にフェイトたちがジャーくんを誘拐しようとするみたいだし……やだなー」


 

 そう、今の唯一の希望はフェイトたちがウマくやってくれることを祈るのみ。

 こやつらの父や母はまさに前時代から自分たちと戦ってきた者たちであり、魔族に対する敵意などはこやつらの比ではない。

 もし、自分の娘たちが魔族であり、しかも魔王である自分と交わり、子作りをしているなどと知れば絶対に黙ってはいない。

 娘たちを救出のためか、それとも断罪するためか、いずれにせよこやつらが自分を奪いに来るものを全員敵と見なすという以上、身内であろうと戦闘は不可避。

 そうなれば……


「ぷはっ、ゴックン……♥ あ~、今日も美味しかった~……っと、で、お父さんたちの話? まぁ、私も子供が生まれたりしたら流石に報告ぐらいはしたいけどさ~」


 朝の摂取を完了したディヴィアスも話に加わる。

 やはり、狂ってしまっていても、実の家族に対して当然のように情を持ち合わせているようだ。


「あと友達とかにもさー、何も言わずに結婚して子供作っちゃったし、死んだと思って心配されたままだろうしさ~」

「うん、ディヴィアスちゃんの言うとおりかな~。私もさー、幼馴染の――――」

「あっ、そうだ! そういえば……!」

「え?」


 と、そこでディヴィアスが何かを思い出したかのように手を叩き、そしてニヤニヤしながらシャイニの肩を叩いた。



「そういえばシャイニは故郷の国の王子さまはどうしたの~? ほら、幼馴染の~お守りとか貰ってたじゃ~ん、あのちょっと頼りなさそうでヒョロッとしてる……」


「うん、『タッくん』ね。別にどうもないけど? でも、タッくんにも結婚報告とかしとかないとね♪ 幼馴染で、私にとって弟みたいなものだし!」



 そのとき、どこか懐かしそうな表情で頷くシャイニを見て、「そんな男が居ながら、何故こんなことに?」とその王子を恨まずにはいられなかった。

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