第31話 いえーい、見てるー?

『シャイニよ……言っていることが理解できないのだが……』

『シャ、シャイ姉ぇ……な、何を、い、言ってるの? け、結婚……した? え……彼氏ができたとか、ど、どういうこと?』


 意味不明。理解不能。そんな様子で動揺するシャイニの父親と王子。

 当たり前のことだ。順を追って説明したところで理解が難しい話。

 だというのに、シャイニは……



「だ~か~ら~、そのままの意味だよ! 実は怒られるかもしれないけど、最終決戦で居なくなったのは、攫われたとかそういうことじゃなくて……私ね、駆け落ちしたの!」


『『ッッ!!??』』


「たぶん、その人との結婚を皆が認めてくれるのが難しいな~ってのと、まずは誰の邪魔もされない場所で勇者とか世界とか正義とかそういうのを忘れて、とことん好きな人とイチャイチャラブラブしたいな~ってのがあって♥」



 もはや、惚気話である。それを幸せそうに、しかも『このような行為』をしながら語っているのである。

 シャイニが『こういう状態』ということまではバレてないが、いずれにせよ蕩けた顔で報告するシャイニに、純真そうな王子の目に涙が溜まっている。



『な、なにそれ……ぼ、僕知らないよ……シャ、シャイ姉ぇにそんな人が居たなんて……だ、誰……どこの……誰に……』


「うん、私もその人のことは最初そういう対象で見てなかったの……でもね……口説かれちゃったの。もう、あんな真剣に口説かれちゃったらズキューンだよ♥ 私たちはソレを受け入れて、今は皆で毎日一日中朝から晩までイチャイチャしながら過ごしてるの……だから……もう皆にはソッとしておいて欲しいって、お願いをどこかのタイミングでしなきゃって思ってたの」


『そ、そんな?! く、口説かれたって……なんでそんなアッサリ……ぼ、僕は、僕は十年以上もずっと……ずっと……ずっと!』


「ちょ、タッくん何で泣いちゃうのぉ?! もう、まだ大事な報告もあるのにちゃんとお姉ちゃんの話を聞いてよ~」



 貴様が泣かしているというのに、この女は頭がおかしいのか?

 自分の言葉は勝手に解釈して思い込んだりしているのに、自身への純真な好意にはまるで鈍感とはどういうことだ!?


『っ、ま、待て、シャイニ……もはや、私も色々と混乱して……一体どこの誰とお前は……それに、『皆で』とはどういうことだ?』


 そして、頭を抑えながらシャイニの父がシャイニの言葉の疑問を口にした。

 


「うん。あのね、その人と結婚したのは私だけじゃないの。私と、アネストちゃんと、ラブリィちゃんと、ディヴィアスちゃんと、キルルちゃん、五人一緒にその人と結婚したの」


『……な……に?』


「いや~、一夫多妻は珍しくないとはいえ、まさか私たち五人が同じ人と結婚して本当の家族になるなんて思わなかったよ。でも、すっごい幸せだし、楽しいよ♪」


『ばば、ばかな!? ぜ、全員!? 5人全員だと!? ばかな、そんな勝手なこと許されるはずが……お前たちは自分がどういう立場か分かっているの?!』


「ぶ~、だから駆け落ちするしかなかったんじゃん」



 当然のことながらシャイニの父は驚いているようだ。

 当たり前だ。

 今の世の中、人類は男の数が激減していることで一夫多妻は珍しくないとのことだが、まさか一人の男に対して戦乙女勇者の五人が嫁に行くというのは、やはり前代未聞。

 そもそも五人ともそれぞれ別々の国で王族貴族関連の上流階級の身分ゆえ、簡単に自分の意志で結婚など許されないのだ。

 とんでもない事態に震えが収まらない様子のシャイニの父。

 そこでシャイニは更に……


「……ん♥」


 感じて……


『シャイニ、お前は自分が何を言っているか……いや、というより先ほどからどうした? 落ち着きがない様子で……』


 そこで、ようやく父は気づいたようだ。

 シャイニの違和感。ナニをやっているのかと。

 するとシャイニは……



「あぅ……んも~! そもそもタッくんとお父さんがいきなり連絡してくるからイケないんだよぉ~」


『『……え?』』


「ジャーくんも気にしちゃって焦らして焦らして焦らしてばかりだし~♥ うぅ~、もう開き直っちゃおっかな!」


『『ジャーくん……?』』



 すると、シャイニがニタリといやらしい笑みを……ま、まさかこやつ!? だ、ダメだ、そればかりは! こやつの父や王子がどんな精神的なダメージを負おうと関係ないが、このことが世界に吹聴されてしまえば―――――


「よーし、じゃあもう紹介しちゃう! 私が結婚した人を!」


 そう言って、シャイニは首から上だけを映していたペンダントをさらに上にあげて斜め上から「この状況」を映してピースした。



「いえーい、お父さん、タッくん見てる~? えへへ、私は今このように旦那様と超ラブラブ状態でした~♥」


『『ッッ!!!!????』』



 ……終わった……



『う、そだ……シャイ姉ぇ……うそだ……うそだあああああああああああああああああああああああああ、わああああああああああああああああああああああああああ!!!???』


『な、ばかな、ばかな! シャイニ、お、お前は何を……いや、待て! ま……魔族ッ!!??』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る