第13話 無粋な邪魔

 地獄の日々の中で、ある程度の安らぎと言えば、屋敷の庭でのガーデニングや……


『旦那さん、大変そう……お姉さんたち、あんなに美人なのに怖いし……』


 情けない。まさかペットとなったスカイドラゴンの『スー』に餌をやっている間とはな。

 目の前で餌の野ウサギの肉を食べながら、大魔王たる自分が同情されてしまった。

 

「あは、ドラゴンってこうして見るとカワイイね! スーちゃん、いっぱい食べてね!」


 まぁ、安らぎと言いつつも自分の傍には常に誰かが居るので、真に一人になれる時間など皆無なのだがな。

 それにしても……


「ねえ、ジャーくんは今までペットとか飼ったことあるの?」

「いや……あくまで軍用で、愛玩用のペットはない」

「そっか~、私は小さい頃から犬とか猫を飼いたいな~って思ってて、戦争終わったら飼うぞーって思ってたんだ。まさか、スカイドラゴン飼うことになるなんて思わなかった~」


 と、嬉しそうに笑うシャイニ。

 ここで「ドラゴンどころか大魔王を飼っている」とツッコミは入れないでおこう。


「彼氏もできて、ペットも買って、皆と仲良く暮らせて……んふふ~、最高だよぉ~♪」


 それにしても、こうして笑うと、本当にまだ幼さも残る天真爛漫な少女にしか見えん。

 コレがふとしたことでアレになるなど、誰が想像できたか。


「あとは、早く子供が欲しいかな~♥」

「…………………」

「……ねぇ、ジャーくん……本番のエッチなことはさ……今まで生殺しで我慢してたけどさ~……もう、満月の日は我慢しないよ? んふふ~♥」


 いずれにせよ、恐ろしいことだ。

 生殺しで我慢?

 あれで我慢していたのか?

 いや、確かに一線はまだ超えてはいないが……


「えへへ、いっぱいするんだから! そして、このお腹に……ジャーくんと私の愛の結晶を……んふふふ、頑張る! 皆もデキちゃったら、生まれてくる兄弟姉妹も多くて大家族になって……うはぁ、考えただけで楽しそうだよぉ!」


 考えただけでも恐ろしい。

 唯一の救いは、満月の日であれば自分の体質も少し変化し、「子供はできにくい」ようになるということ。

 ただし、普段の自分と交われば、自分がコントロールしない限り確実に子供ができる。

 そのことだけは何としても隠し通さねば……



「シャイニ! アナタ! 急ぎ来てください!」



 と、そんなとき、血相を変えたアネストが慌てたように庭に飛び出してきた。

 何事かと思ったところ……


「どうやら先日の盗賊団の件……その流れで押し寄せた村人たちの掃除……じゃなく、対処。そして村人たちが全員引っ越したことで、少し面倒なことになりそうです」


 それは、自分はもう詳しく聞かないことにしていた先日の出来事のこと。

 隙を見て一度屋敷から逃げた自分が戻ってきたとき、この丘の上から見える近場の村。その村の住民たちが一夜にして引っ越したということだ。

 シャイニたちは喜んでいたが、村人たちが何の意味もなく全員引っ越すなどありえぬ話。



「私の広域結界に反応し、キルルにちょっと調べに行ってもらったら、どうやらこの地を収める王国の兵たちがこの地に向かっているようです」


「へ~……」


「その数は千ほどとのことです」


「ふ~ん……そうなんだ~」



 この地は連合加盟国ではないので、シャイニたちのことを勇者として知る者は少ないかもしれない。ただ、先日はこやつらも暴れすぎたのだろう。

 それによって、討伐隊が派遣されたわけか……とはいえ……千か……こやつら相手に……千……ムリだな。


「千人か~、話し合いで解決できなかった場合さ、ここで戦うことになっちゃうけど、千人だと戦った後の掃除とか大変そうだし、せっかくの綺麗な風景も台無しになっちゃうよね~?」


 そう、一人が一騎当千以上。それが五人だ。

 雑兵では相手にならん。

 案の定シャイニも討伐隊が派遣されたことよりも、戦闘になって、そやつらを返り討ちにした後のことを気にしている様子。

 そして……



「ええ。ですので……迎え撃ちにいきませんか? スーちゃんに乗ればひとっとびですし」


「あ、いいねー! ……でも、スーちゃんに流石に全員は乗れないよね? 三人ぐらい?」


「ええ、ですので――――――」

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