第39話 準備
連合軍が行軍中の大平原の先には広大な密林・樹海の地帯があり、切り倒して進むにしても、迂回して進むにしても、時間がかかるだろう。
ノロノロしているところを一気に狩り獲ってくれよう。
「アネストが一番魔法を使うことになるが……それをどれだけフォローできるかが他の四人にかかってる」
自分がそう言うと、合流地点で待っていたシャイニ、ディヴィアス、キルルは何の迷いもなく笑顔だった。
「おっまかせだよ!」
「ええ、楽勝よ」
「一気にやる」
と、笑顔だけでなく、自信も満ちている。
そしてそんなシャイニたちの足元には、先行部隊として山林に足を踏み入れていた数百人ばかりの連合軍の兵たちの死屍累々が積み重なっていた。
「感知部隊やら結界部隊やら連絡部隊やら、その他諸々の配置もジャーくんは分かったって♪ 本軍の大部分密林に入ったら……スパッとだね♪」
「そうだ。そして後は一気に……そして残りはジワジワと……それで大打撃を与えられるはず」
転がっているのは全て死体。どうやら、慈悲もなく殲滅したのだな。
「それにしても~。連合軍の総大将はラブリィちゃんのお姉ちゃんか~、今の私たちのことをどう思ってるのかな~?」
既に自分は父親や幼馴染とも縁を切ったことにしているシャイニが呟くと、ラブリィは笑顔で苦笑した。
「わかんない。お姉ちゃんも国や連合のことばかりで恋愛とか全然したことないから、私のことを応援してくれるんだったら助けたいな~……ジャーくんとエッチはさせられないけど、国なんか捨てて私たちとノンビリ暮らすとかね」
そうはならぬだろう。遠目から見たが、あの女自身に武の力はなくとも、その醸し出す空気や瞳は、そんな簡単に揺らいだり……いや……こやつらもついこの間まで全員同じような目をしていたのだったな……
「私もヴァギヌアとはちょっと戦いづらいかも……でも、やるしかないんだけどね」
そして、親しい間柄だったり家族だったりのものが敵に交じっているのはこ奴ら全員同じ。
ディヴィアスも少し複雑そうにそう呟いた。
「ヴァギヌアもこういう恋愛的なの否定派だから納得してもらえないだろうしね……でも、ヴァギヌアは処女で男性経験ないだけだから、ジャーくんに愛してもらえたらイチコロのような気がするけど……」
「ダメ。これ以上、ジャーくんとの回数や、チームでプレイするときの接触面積減るのヤダ」
「分かってるわ。私だって嫌だもの。でも、まだ私はシャイニのお父さんだった人や、王子のように、今の私やジャーくんを否定されたわけじゃないからね……」
そう、こやつらは敵には容赦ない。敵と見なせば本当に親兄弟仲間も殺す。
しかし、自分たちの敵とならないのであれば……まだそこら辺は完全には情を失っていない者たちは、少し迷いもあるのかもしれない。
その迷いをどうにかすれば、こやつらも少しぐらいは苦戦……
「迷いがあるなら作戦を変えることも可能だ。この作戦が実行されれば大半が死に、そもそもまともに遺体すら残らぬかもしれぬ。一気に狩る作戦のため、敵と舌戦する暇もない」
ここで折れてくれれば、こやつらの命令内容次第でこやつらに「万が一」を与える隙を作ることも……
「そうね。確かに、ハッキリと答えを知らないまま問答無用でヴァギヌアたちを殺すのは一生尾を引くかもしれない……でも……」
だが、そこでディヴィアスは自身の腹を撫でながら……
「だけど、その甘さでもしこの子に万が一が起こったら……私は何度生まれ変わっても後悔するわ」
そう来たか……
「なら、殺すわ。答えを知らないままでもいいから」
結局全てが裏目に出たか。
自分はこやつらがどうにか苦戦するように、悟られぬ範囲で揺さぶりなどをかけようとしたが、返って覚悟を固めてしまったようだ。
「むっ……おしゃべりはこれまでのようですね。ようやく見えてきましたよ」
そして、ようやく奴らもお出ましのようだ。
奴らもここの広大な密林・樹海は気づいているだろうし、斥候や先発部隊が戻らず、連絡も途切れている以上、自分たちが何かを仕掛けてくるならここだろうと最大級の警戒をしてくるであろう。
だが……
「先に確認したときから配置などに変更なし……だな。では、予定通りアネスト……『山』と『空』への準備を」
「ええ、アナタ」
「シャイニとディヴィアスは『地』への準備」
「「いつでも準備できてる!」」
「では、キルル……ラブリィ……敵の半数以上が樹海に入ったら……始めるぞ」
「「了解♥」」
いずれにせよ、圧倒的な差で殲滅することになるか……
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