第35話 初めての――

「……父さん達が旅行に行く?」


 夏休みも中盤に差し掛かった頃の事だ。いきなりそう言われた。寝耳に水である。


「ああ。実は半年ほど前にくじでペアチケットが当たってたんだけど、今まではお父さん達も佳音に付きっきりで居ないと少し怖くてね。期限も迫っていて……良いかい? 佳音」

「あ、ああ。大丈夫だ」


 もちろんそれは大丈夫なのだが……


「何日くらいなんだ?」

「一週間くらいを想定しているよ。……もちろんお金とかは多めに置いていくから」

 ……そちらの心配は別にしていないのだが。


 つ、つまり……陽葵姉達と一週間、四人きりなんだよな。


「……それと。お節介かもしれないけど、これだけは言わせて欲しいんだ」

「……? なんだ?」

「避妊はするようにね」

「なっ……」


 父さんの言葉に俺は言葉を失いながらも。丁度その事を考えていて……


 その日から父さん達が旅行へ行く日まで。ずっと、頭の中からそれは離れる事が無かった。


 ……つい。必要な物を買ってしまうぐらいに、気分は昂ってしまっていた。使わないなら使わないで良い。……ただ、何かあった時の備えとして。


 ……大丈夫。バレなければ変に思われたりしないはずだ。


 そうして、父さん達が向かう日が来た。


 ◆◆◆


「気をつけて行ってきて。父さん、母さん」

「気をつけてね、お母さん、お父さん」

「ああ、ありがとう。行ってきます」

「はい、行ってきます。留守番も頼んだわね」

 俺達は父さん達が行くのを見送った。ちなみに、ペアチケットを二人で行くよう勧めたのは陽葵姉達らしかった。……確かに、二人でどこかへ行くなどは見た事が無かった。もう心配をかけさせる事も無いだろうし、俺としてもそうしてくれる方が嬉しい。


 そして……。


「あ、わ、私。お昼ご飯作ってくるね」

「分かった。リビングで待ってるな」


 月雫姉がそう言ってキッチンへと向かった。俺もリビングへ向かおうとすると……陽葵姉と空姉に腕を取られた。


「ん、一緒に行こ、のんちゃん」

「……ああ」


 そのまま俺達はリビングへと向かった。


 お昼はオムライスであった。……それは良いのだが。上にケチャップで書かれていた文字が……


『YES』だったのだ。俺もそう詳しい訳じゃ無いが。確かこれってそういう時の合図では無かっただろうか。


「月雫お姉ちゃんのむっつり」

「む、む、むっつりじゃ……ないし」


 今回ばかりは月雫姉の声も小さい。俺はオムライスを食べている間……少し考え事をしてしまっていた。



 最初は誰を誘うべきなのか、とか。そもそも俺達はまだ高校生で、とか、


 どうするべきなのか頭の中をぐるぐるしている間に……お昼は食べ終わってしまった。


 食べ終わってから。俺は気づいた。


 今食べていたオムライスの味も分からなくなるくらい、俺はその考えにリソースを割きすぎていた。

「……ぁ。ごめん、ごめんなさい。月雫姉。考え事をしていて、ちゃんと味わう事が出来ていなかった」


 俺は素直にその事を告げて謝罪をする。……月雫姉はきょとんとした顔をしていた。


「……あれ? もしかして佳音、気づいてなかった?」

「……?」


 その言葉に今度は俺が首を傾げる。すると……月雫姉はにこりと笑った。


「佳音ってば、食べながらもちゃんと『美味しい』って言ってたよ。だから怒ったりしてないし……ううん。無意識の内でもちゃんと美味しいって思ってくれてたって事だから。嬉しいんだよ」


 俺は月雫姉の言葉に目を見開いた。


「そう……だったのか」

「うん。……じゃあお粗末さまでした。片付けるね」

「あ、待って、月雫。……ちょっと四人で話したい事があるの」


 お皿を持とうとする月雫姉を陽葵姉が止めた。月雫姉は……顔を赤くしながらも頷き。そして、座り直した。


「……あのね、佳音くん。これは月雫と空と話した事なんだけどさ」

「……ああ。なんだ?」


 俺も改めて座り直し、陽葵姉を見た。


「まず、ね。……今日、佳音くんと。……え、えっちな事、したいって思ってるの」


 唐突な……しかし、予想していたその言葉に……俺は思わず喉を詰まらせた。


「……そ、その。すまない。こういう事は俺から言うべきだった」

 あまりがっつき過ぎてはいけないと思っていたが。……言わせてしまうのは良くないだろう。もっと俺が気を利かせなければ。


 その事に反省していると、陽葵姉はぶんぶんと首を振った。


「う、ううん! ……私達からお願いしたい事があったから。……佳音くんに負担をかける事になるけど」

「……なんだ? なんでも言って欲しい」


 なるべく陽葵姉達の願いは聞き届けたい。陽葵姉は一度深呼吸をして……。









「……初めては。四人でしたいの。月雫や空と……私の。三人の相手をして欲しい」







「……へ?」



 思わず俺は間の抜けた声を上げて。言葉を続ける。


「さ、三人の……?」

「うん。……あのね。佳音くんが一人一人と向き合いたいのは分かってるよ。……でも。一日空けるとかだと、二日目とか三日目の人が凄い悶々としちゃうと思うから。もちろん、その。佳音くんが物理的に無理だって言うなら諦める……けど」


 俺は……その言葉を聞いて考えた。


 確かに。陽葵姉などはもう受験もあるから、一日一日が大切なはずだ。……かと言って、それで陽葵姉を贔屓するのも……もちろん悪い訳では無いし、月雫姉や空姉も理解してくれるだろうが。違う気がする。


 それに……。

「……物理的にも不可能では無い。その、こういう事を話すのはあれだが。三回は……余裕だと思う」


 陽葵姉達は魅力的な女の子だ。……正直、三回で鎮まるとも思えない。


「ほ、ほんと? じ、じゃあ……」

「ああ。分かった。……今日、だな。準備をしておく」


 俺がそう言うと、三人の顔はパッと輝いた。


「う、うん! 私も準備……しておくね」

「わ、私も……しておくからね」

「ん。楽しみにしてる」


 陽葵姉と月雫姉は緊張して頬を赤くしながら。……空姉は平静を装っているが、その耳は赤い。


 そうして。今日。事が決まったのだった。


 ◆◆◆


 こん、こんと扉がノックをされる。


「ど、どうぞ」


 声が上ずらないように気をつけながら俺は言う。そうして入ってきたのは……


 陽葵姉と月雫姉。そして、空姉だ。三人はとても薄手のネグリジェを着けている。……その透けた所から、色とりどりの凝った装飾の下着が見えて。


「ど、どうかな? 佳音くん。三人で……頑張って選んだんだ」

「……凄く、綺麗だと思う」


 三人とも、身長は様々だが。スタイルはモデル顔負けだ。……その、大きくて視線が引き寄せられる。


「ふふ、ありがと」

 陽葵姉が柔らかく笑い。……そして、空姉が俺をじっと見てきた。

「ん……ね、のんちゃん。最初は陽葵お姉ちゃんね。……次は月雫お姉ちゃん、最後は私。って順番にしたいんだけど。良い?」

「……良いのか?」


 この中だと……空姉が一番こういう事に興味を示していた。それなら最初は空姉……になると思っていたのだが。


「ん。陽葵お姉ちゃんがお手本を見せてくれる」

「わ、私も初めてだから。上手く出来るか分からないけど……お、お姉ちゃんだから! 頑張るよ!」


 ……どうやら、三人で話し合って決めたことらしい。月雫姉もこくこくと頷いている。


「……ありがとう。俺のやりやすいようにやってくれて」

 俺一人なら誰かを選ぶ……という事に悩み。それで良かったか、その後も悩む事になっただろう。


 不甲斐ない事ではあるが……その配慮が嬉しかった。


「ううん。……皆で幸せに、だからね。あんまり佳音くんの心に負担もかけないようにしないと。……でも、体の方の負担は少し頑張って欲しいかな」

「……ああ、ありがとう。大丈夫だ」


 その分、頑張ろう。


 陽葵姉が俺の隣に座る。


「あ、そうだ。月雫と空と話したけど。……これからは私達の事、名前で呼んで欲しいな」

「……話したんだな。分かった、陽葵。月雫と空も。名前で呼ぶよ」

「う、うん。……まだちょっとむず痒いけど」

「ん。悪い気はしない。というか嬉しい」


 二人の言葉に微笑みながら……俺は改めて、陽葵姉を見る。


「……陽葵」

 そのまま俺は両手を広げる。陽葵は俺に……抱きついた。


 そして視線が合い。……自然と唇を重ねる。


「か、体、触るぞ」

「うん。……か、佳音くんの好きにして欲しいな」


 俺は陽葵のその言葉にまた心臓を跳ねさせながら……ゆっくりと。その体へと触れる。


「んっ」


 最初は肩に。そこから少しずつ位置を下げていく。……当然そこにはとても柔らかくて重量のあるものがあって。それに手を重ねると、暖かさと共にドクドクと心臓の音が聞こえてきた。


「……凄く、ドキドキしている」

「ふふ。……一緒だね」


 陽葵が俺の胸へ手を当ててそう言った。



 そうして。俺は陽葵の体を触る。……その反対に、陽葵も俺の体へと触れる。



 準備を終わらせ。……必要の無くなった服を脱ぐ。


「綺麗だ、陽葵」

「か、佳音くんも……筋肉、付いてるんだね」

 お互いの体をまじまじと見つめてしまう。


 今まで……なるべく見ないようにしていた。その姿はとても綺麗で……やはり、視線がとある部分に吸い寄せられてしまう。


 ……やはりお、大きい。


 そんな俺の視線に気づいてか、陽葵がにこりと笑った。


「ふふ。佳音くんもちゃんと男の子なんだね」

「そう言われるのは心外なんだが。俺も男だ」

「そうだね。でも、改めてちゃんと反応してくれるのは嬉しいな」


 陽葵はそう言って。俺の肩をとん、と押した。俺はそのままベッドに倒れ込んだ。


「わ、私がお姉ちゃんなんだから。ちゃんとリードするからね!」

 そのまま陽葵は……てらてらと光り、どろどろになっているそれを押し当ててきた。


「ひ、陽葵……無理はしない方が。それと、最初くらいは俺が上に……」


 ……いや。こっちの方が陽葵の好きに出来るし、その方が良いのだろうか。



 ……俺からすると。陽葵は多少無理をするかもしれないし。


「……分かった。じゃあ陽葵、頼む」

「ま、任せて! えっと、多分この辺……ッ」


 陽葵がそれを掴んで誘導しているが、それだけでもやばい。


 陽葵はにこりと俺に笑いかけ。



「じゃあ、入れるね」



 その言葉と共に――勢いよく。



 俺達はお互いの初めてを。交換したのだった。


 ◆◆◆


「ひ、陽葵!? 大丈夫か!? ご、ごめん。上手く制御出来なくて……」

「ん、うぅん……らい、じょうぶ」


 今、陽葵はベッドにだらんと横になり……ほわほわとした顔で横を向いていた。


 ……途中までは良かったのだ。陽葵が慣れるまで、血が止まるまで待って、少しずつ動いて……。


 しかし、陽葵は途中でダウンしてしまった。痛みででは無かったのが何よりだが……『好きに動いて良いよ。私は大丈夫だから』と言われ。……本当に好き勝手に動いてしまった。


「ひ、陽葵お姉ちゃんのあんな顔……初めて見た」

「……」

 そんな俺達を見て空はそう言って。……月雫は顔を真っ赤にしながらもじっと見ていた。


 陽葵を見ると……まだ少し惚けていたが。『行ってあげて』と声を出さずに言っていた。……俺は頷き。


「月雫」

「は、ひゃい!」


 名前を呼ぶと、ぴょんと飛び跳ねた。


「……来てくれないか?」

 そう言うと、月雫はこくこくと頷いててくてくと歩いて……俺のすぐ隣に座った。


 その緊張を解すように、まずは抱きしめた。


「……怖がらせてごめんな? なるべく優しく出来るよう頑張るから……」

「う、ううん! 違うの、怖いとかじゃ……ううん、ちょっと怖いけど、そういう意味じゃなくて……」


 そのまま月雫は俺にぎゅっと抱きついた。


「……ひ、陽葵姉がすっごい気持ちよさそうだったから、私もおかしくなっちゃうんじゃないかって。……と、とにかくね、佳音」


 そのまま月雫が俺へともたれかかって。


「私の事もき、気持ちよく……してください」


 その言葉にまた俺は……我を失う事となったのだった。


 ◆◆◆


「ぅ……ぁ、かの、ん。すご……い」


 ……またやってしまった。


「月雫、凄かったね。私もまだ足ガクガクだよ」

 そんな月雫を陽葵が介抱してくれていた。それにホッとしながらも……それを見ていると。また元気になってしまった。


 本当に節操がない。……というか何でこんなに元気なんだと自分でも思っていると。


「ん。じゃあ次は私」


 空が俺の膝に顎を乗せた。


「……空?」

「のんちゃんのすっごいことになってるから。一回鎮めてあげようかなって」


 その言葉と共に空の顔が近づいてきて――


 俺はまた未知の感覚に襲われ。空は楽しそうに……それを飲み込んだ。


「ん。のんちゃんのえっちな味がする」

 と、そう言って……空は頬を赤くしながら笑った。


 当然それでも鎮まる事はなく……というか、余計元気になってしまい。空と致したのであった。


 ◆◆◆


 その後、空がダウンした頃に陽葵が復活し、陽葵がダウンした後は月雫が復活し、また月雫がダウンした後は空が――とループが続いた。俺自身もよくついていけるなと自分で思いながらも、さすがに限界は来て。


 その頃にはもう……日が昇っていた。何時間していたんだと自分でも戦慄する、


「あはは……私、今日はもう立てないや」

「わ、私も……先にカレー作っといて良かった。カツとかチーズとかアレンジも効かせられるし」

「ん。のんちゃん絶倫……」


 空の言葉に苦笑しながら……俺は、どんどん重たくなってきた瞼に耐えられなくなってきた。


 それでも――最後に言いたい。


「陽葵、月雫、空」

 名前を呼び、俺は手を伸ばした。……三人は俺の手に手を重ねてくれる。


「これからもずっと、一緒に居たい。大学生になっても、大人になっても――おじいちゃんになっても」


 その手をぎゅっと握り。


「その為に、俺は理想の俺になる。……まだまだ時間はかかるだろうが。支えて欲しい」


 その俺の言葉に三人はぎゅっと手を握り……返事を返してくれる。


「うん! ……支えるよ。それで、佳音くんが理想の大人になったその後も……ずっと」

「ふ、ふん! 言われなくたって支えてあげるわよ! ……途中で嫌って思っても簡単に離してなんかあげないんだからね!」

「ん。のんちゃんならなれる。……私も理想の大人になる。それで、皆と……陽葵お姉ちゃんと月雫お姉ちゃんと。のんちゃんと幸せに暮らす」

「ああ……ありがとう」


 俺はその言葉を聞きながら……内から溢れ出そうになるものをどうにか堪えながら、目を瞑った。


「絶対に……絶対、幸せにするから」


 俺がそう言うと同時に。三人は俺に近づき……抱きしめてくれたのだろう。全身が暖かく包まれた。


 そのまま俺は――深い眠りに入る。


 この幸せが続くと良いな……違う。続かせるんだと、決意を固めながら。

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