第36話 最終回 幸せ

 あれから色々な事があった。陽葵は無事大学に合格し、卒業……の時に告白の列が出来たり。月雫や空の時も同様だった。……全て俺が追い返したのだが。


 そして、俺達も無事志望校へと合格をする事が出来た。陽葵は英語が得意なのでそこを伸ばせる大学へ。月雫は料理の専門学校。空は経済学部。……そして俺は、IT関係の資格が取りやすい大学へと。



 皆別々の大学にはなってしまったが。そんなに遠い場所では無い。……父さん達の力もあり、俺達はシェアハウスをしながら生活をしていた。


 四人でバイトをしてお金を貯めながら。それぞれのやりたい道へと……一緒に進む。


 まずは陽葵が卒業し、持ち前のコミュ力を活かして外資系企業へと入社した。運良くホワイト企業であり、ちゃんと休みも貰えるし定時には帰れる。

 次に月雫。大学を卒業した後は友人のカフェを手伝ったり、そのうち自分でもお店を持ちたいとの事。……その友人。俺の友人でもあるのだが、どうやら親がプロ料理人だったらしく、伝はあるらしい。


 そして……空はとある有名企業の経理をする事になった。資格を多く取っていた事もあり、なかなか稼げると喜んでいた。職場も良い環境らしい。


 そして俺は……IT関係の道へと進み。とある企業のシステムエンジニアとなった。完全に年収だけで選んだのだが、家からでも出来る仕事だ。


 もし大変ならば……というかブラック企業ならば皆転職は考えようと言っていたのだが。皆本当に運良く、悪質な会社に引っかかる事も無かった。


 そして……俺が働き始めてすぐ。俺は陽葵と籍を入れた。つまり、結婚である。


 ここはどうするべきかちゃんと四人で話し合った。……三人は俺と居られればそれで良いと言っていたが。陽葵が一番しっかりしているからと陽葵と籍を入れた。


 もちろん夜の方もしていて……これは陽葵だけでなく、三人と。仕事で疲れそうなものだが。三人とも帰ってくると元気になり、意気揚々と襲いかかってくるのだ。……まあ、俺もあまり人の事は言えないのだが。


 そうして……籍を入れてすぐの事。


 俺達は結婚式を挙げる事にした。四人で。



 ……普通は無理だと思うだろう。俺も無理だと思った。そうだとしても、三人とそれぞれで結婚式らしいものを挙げたいと思っていた。この時、先程も述べた友人が出てくる。



 その友人だが、父の方がかなり顔が広いらしく……そしてとても良い人で。俺が頼み込むと、式場と司会の手配をしてくれたのだ。


 そして……式当日。


「……さすがに緊張してきたな」


 親戚などは呼べない。……三人のお嫁さんと一人のお婿さんなど。喜ぶ人の方が少ないだろう。


 だから、俺の父さんと母さん……そして、俺を産んでくれた母さんと。その友達夫婦。妹やその友人達も来てくれた。


 それと……あともう一グループ友達が居る。こちらは高校生の頃。街中で出会ったのだが、先程話した彼同様に何故か親近感を覚えて仲良くなった。……どうやら彼もこっち側らしい。やけに個性的な幼馴染や妹と一緒に居た。


「続いては新郎新婦の入場です」


 来た……。


 まず、俺は陽葵と歩き始める。陽葵はそっと俺の腕に手をかける。


 式場へ入るとわあっと拍手の音が響いた。俺達はその友人――水音みなと未来みくる達の所で礼をし。そして……父さん達の所で礼をする。


 父さん達は俺達を見て微笑みながら……目の端から涙を流していた。


「良かった……佳音が幸せそうで。……本当に良かった」

「ええ……陽葵もすっごい楽しそうで……陽葵も綺麗になって、佳音くんもたくましくなって……」


 その言葉に微笑み……俺達は歩き始める。



 そして、最後に。母さんの所でお辞儀をする。


「……佳音。陽葵ちゃんも。……ありがとう。元気な姿をみせてくれて」


 母さんは……無事、お酒から抜け出せる事が出来た。最初は危ない時もあったが。今では顔もふっくらとして、仕事もちゃんとしている。


 今でも時々会い……もし子供が出来たら。ちゃんと抱っこしてもらう予定だ。


 そうしてその後は陽葵を連れて祭壇へと向かい。そこに立ってもらった。ベールで顔はうっすらとしか見えないが……。それでも分かる。


「……陽葵。本当に綺麗だよ」

「ふふ。佳音くんもすっごいかっこいいよ。頑張ってね」

「ああ」


 俺は陽葵の言葉に頷いて。また入口の方へと戻った。……間抜けなように見えるだろうが。これで合っている。



「続いても。新郎新婦のご入場です!」


 その言葉と共に、俺は歩き始める。


 今度は――月雫と。改めて、同じ道を辿る。



 結婚式……と言っても正規のやり方は出来ない。俺の腕は二つしかないし。無理に皆と歩こうとすれば見栄えも悪くなるだろう。人前式の形にすればある程度自由が効くのだ。


 また同じ道を辿って、礼をする。水音達はずっと笑顔で拍手をしてくれ……父さん達は相変わらず泣きながら笑っていた。


「……佳音、私ね」


 小声で月雫が俺を呼んだ。


「すっごい幸せだよ」

「……ああ。俺も幸せだ」


 そうして微笑み合い。……陽葵の隣に月雫が並んだ。


 最後は……空だ。


「ね、のんちゃん」

 腕を差し出そうとすると……空はじっと、俺を見た。


「大好きだよ」

 そう言って一度、俺に抱きついた。俺はその背中に手を回す。


「ああ。俺も大好きだぞ」


「それでは!最後の新郎新婦のご入場です!」



 俺は空と共に。歩き出した。


 そうして……また礼をし。陽葵達の元へ向かう。


 四人で並び終えると……司会の人が口を開いた。


「それではこれより。新郎佳音と。新婦陽葵、月雫、空の結婚式の開始を宣言致します」


 司会の人の言葉にぱちぱちと拍手の音が響く。……それが止むのを待って。司会は続ける。


「それでは最初に。新郎新婦による誓いの言葉です。よろしくお願いします」


 司会の言葉に。俺達は頷き。まずは俺が前に出た。


「本日。私達四人はここに夫婦の誓いを致します」

 次に。陽葵が前へ出る。


「私は。何があっても佳音くんを絶対に幸せにする事を誓います」

 そして、また俺が前へ。

「私は。これからは三人を幸せにする事を誓います」


 次に、月雫が前へ。

「私は。毎日美味しい料理を作り、佳音を元気づけることを誓います」

 俺がその言葉に応える。

「私は。毎日日々の感謝を伝え、毎日愛を示す事を誓います」


 最後に。空が前へ出る。

「私は。のんちゃんの日々の疲れを癒す事を誓います」

「私は。三人に支えられながらも。支え、決して倒れない事を誓います」


 俺の言葉と共に。全員が前に出る。


「「「「私達は私達の幸せを掴み取る事をここに誓います」」」」


「新郎、黒井佳音」

「新婦、黒井陽葵」

「同じく新婦、黒井月雫」

「同じく新婦、黒井空」


 そして……四人でお辞儀をする。会場を大きな拍手が包んだ。


 それが止むと……。


「それでは。新郎新婦による指輪の交換。そして、誓いのキスとなります」


 司会が指輪の用意をし。俺達の隣に立った。まずは俺が指輪を取り。


「陽葵」

 そう名前を呼ぶと、陽葵が前に出てくる。俺はその白く柔らかい手を取り。



 その薬指にすっと入れた。そして……陽葵が俺の手を取り。司会から受け取った指輪を薬指に嵌めた。


 俺は次に。陽葵の顔にかかっているベールを上げた。



 いつも可愛いが……メイクにより、今日は美しいという言葉が似合う。……思わず息を飲んでしまうくらいに、陽葵は綺麗であった。


「とても綺麗だよ、陽葵。大好きだ。……今までありがとう。そして、これからもよろしくな」

「……うん。これからもよろしくね、佳音くん」


 その唇へ……俺はキスをした。静かに、唇を押し当てる。


 ……数秒程経ってからやっと、俺は離れた。陽葵はずっとニコニコとしている。


「月雫」

 名前を呼ぶと、陽葵が下がり。月雫が前に出た。俺はその細く、繊細な指を手に取り。……薬指へと指輪を嵌めた。


 そして。月雫も……俺の薬指へ。二つ目の指輪を嵌める。


 俺はそれを見届けて。顔にかかっているベールを上げた。


 月雫も同様に……メイクをしていてより大人らしく、綺麗になっている。


「月雫。……とても綺麗だ。これからもずっと一緒だからな。大好きだぞ」

「うん……ずっと、死んじゃった後も一緒だからね」


 その言葉の返事は……キスで返した。長いものでは無いが。それでも気持ちは伝わったようだ。月雫もニコニコと良い笑顔を見せてくれた。


 最後に……空だ。


 俺はその小さな、暖かい手を取り。薬指へと指輪を嵌める。同じように、空も俺の左手の薬指に指輪を嵌めた。これで三つ目だ。


「空」


 俺はベールを上げ――息を飲んだ。


 今までで……一番の笑顔。幸せを噛み締めるような、見ているだけで幸せになれる。そんな笑顔を空は見せてくれる。


「愛しているよ。……これまでも、これからも。ずっと、大好きだ」

「ん。私も大好き。これからも……ううん。これからはもっと大好きになれるはずだよ」


 空へ微笑み。俺は……口付けをした。


 数秒の後に俺は離れる。



「これから先もずっと、俺は陽葵が、月雫が、空が大好きだ。今以上にもっと幸せにするからな」

「うん! 改めて言うね。私も大好きだよ!」

「私も。……大好きだよ、佳音」

「ん。四人でもっと幸せになろうね」


 そう言って笑い合うと。会場に盛大な拍手が満ちた。


 何があっても、陽葵と。月雫と。穹と一緒なら幸せになれる。


 その確信は揺らぐ事が無い。だって――





 大好きな人と一緒に居られるだけでも幸せなのだから。



 これから先。三十代、四十代のおじさんになっても。百歳のおじいちゃんになったとしても。俺は変わらず陽葵を、月雫を、空を愛し続ける。願えるのならば――来世まで。



 きっと、出会えるはずだ。俺達なら。



 俺は陽葵達を見て。心の底から大好きだという気持ちを溢れさせて笑ったのだった。








――学校では陰キャでオタクな俺ですが、家に帰ると巨乳の義姉達が甘やかしてきます<完>

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