第31話 順番決め

「え、えっとね、佳音くん……その、いきなりなんだけど……」


 陽葵姉はもじもじとしながら。何かを言おうとしていた。俺は何を言いたいのか察した。……というか、今日話したかった事のもう一つだ。

「……その事も少し、話したい。……二度目は俺から、という事だが」


 それは言わずもがな……キスの話だ。あの時。陽葵姉達は俺を慰めて、落ち着かせるためにキスをしてくれたが。俺からすれば。もっとちゃんとした場面で……したかった。三人の初めてがこんな形で失ってしまうのは……。


 ……まあ、過ぎ去ってしまった事は仕方ない。でも、だからこそ。


「そっちは……一人一人と向き合ってしたいと考えてる。その、だな」


 俺は顔が熱くなるのを無視しながら。三人を見た。



「……す、少し張り切ってしまって。もう……陽葵姉と、月雫姉と空姉との……デートプランとかを考えてしまってたんだ。ええと、もちろん四人ではなく二人で……なんだが。その時でも……構わないだろうか」


 話していてまた耳が熱くなっていくのが分かった。……ああ、だめだ。完全に一人で盛り上がっていると思われる。実際それで合っているのだが……。


「……もう、佳音くん。そういう所だよ」

「……ほんとそう。佳音ってば……」

「ん。のんちゃんらしい」

「い、いや。その。すまない」


 思わず反省していると。陽葵姉に鼻をちょんとつつかれた。


「違うよ。佳音くんのそういう所がかっこいいんだよ。ちゃんと私達の事を考えてくれて。……それってね。とっても嬉しいんだよ」


 陽葵姉はそう言って。俺を抱きしめた。


「こんな事されたら。もっと好きになっちゃうじゃん。……陽葵姉! 次私の番!」


 俺は続けて。月雫姉に抱きしめられた。月雫姉の暖かく、優しい手のひらが俺の頭を。優しく撫でてくれる。


「さ、さっきのは私も。その、言い方が良くなかったと思うから。……わ、私も。嬉しかった。……佳音がちゃんと、真剣に私達の事を幸せにしたいって思ってくれてるのが。伝わったから」

「月雫姉……」

 目をじっと合わせて。そう言ってくれた月雫姉を見て。俺の頬は緩んだ。


「で、でも! 私達だって佳音の事、幸せにしてみせるんだから! 覚悟しておいてよね!」

「……ああ。楽しみにしてる」

「ん。次は私の番」


 そして。また俺は場所を異動することになる。今度は空姉に……横から抱きしめられた。


「のんちゃん、私ものんちゃんがそこまで考えてくれてたって分かって。嬉しかったよ?」

「そ、そうか……なら良かった」

「ん。だから、楽しみにしてるね」

「……ああ。頑張る」



 俺は空姉の言葉に頷いた。


「そういえばのんちゃん。初めは誰と、とか決めてるの?」

「……うっ」

「決めてないんだ」

「そ、その。……最初は陽葵姉が良いかと思ったんだが。しかし、最初はどうしても……不慣れだろうし。選ぶ、というのが失礼な気がしたんだ」


 考えすぎなのだろうが。どうしてもそれが頭によぎってしまい、決められなかった。かと言って、あみだくじとか運任せに決めるのも違う気がした。


「陽葵お姉ちゃんは最後がいいと思う。……今回、陽葵お姉ちゃん。すっごい頑張ってたから。最後って特別な感じがするし。月雫お姉ちゃんはどう思う?」

「……そうね。佳音が一番大変な時に支えてたのが陽葵姉だから。私は良いと思うわよ? ……最後の方が、佳音も慣れてエスコートしやすくなるはずだもんね。……最後の方がかっこいい佳音が見れるよ。も、もちろん普段からかっこいいけどね!」

「ち、ちょっと。あの時は。私じゃなくて二人が居ても同じことしてたはずだよ!」

「ん。でも、実際に居たのは陽葵姉」


 空姉は陽葵姉を見て。ニコリと笑った。


「きっとのんちゃん、最後だからとびっきりすごくしてくれるはずだよ? ね? のんちゃん」

「……最後だから、とかではなく。ちゃんと誠心誠意込めて、三人と向き合うつもりだ。出来れば、全員の心に残るように」


 誰か一人を贔屓する。そんなの……三人を幸せになんて出来ていないだろう。


「ん。のんちゃんならそう言うと思った」

 空姉はニコリと笑って。陽葵姉を見た。


「でも、陽葵お姉ちゃんは最後! それでいい?」


「……うん、分かった」

 陽葵姉は

「じゃあ後は最初か二番目ね。……わ、私は最初でも良いけど?」

「……むっつり」

「む、むっつりじゃないし!」

「でも、それで良いよ。私は真ん中ね」

「……良いの?」

「ん。私は月雫お姉ちゃんが素直になってくれて嬉しいから」


 空姉の言葉に……月雫姉が目を見開いた。


「……もう、空ってば。分かったから。私も……出来るだけ素直になるから。空はもう気を使ったりしないで」

「……? 家族に気は使わないよ? 私は月雫お姉ちゃんが嬉しい方が好きだからやってるんだよ? ……のんちゃんだって、陽葵お姉ちゃんだって。もちろんお母さんとお父さんも。笑顔の方が私は嬉しいから」


 屈託のない笑顔。……陰り一つないその笑顔に俺は思わず……抱きしめた。



「ひゃうっ……の、のんちゃん?」

「……俺も。空姉達が笑顔の方が嬉しいぞ」


 そのまま俺は空姉の肩に頭を置いて。


「月雫姉も陽葵姉も空姉も……絶対に幸せにするからな」

「ん。みんなで一緒に幸せになろうね、のんちゃん」


 耳元で空姉の柔らかい声が聞こえ……そんな俺達を丸ごと。陽葵姉と月雫姉が抱きしめてくれた。


 最初は……月雫姉と。週末に、駅で待ち合わせをする事にしたのだった。

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