第30話 告白
俺は扉の前で深呼吸をする。
俺は今から。告白をする。三人の義姉に。
昔、約束をしたから。……もう一度会った時、三人をお嫁さんにする、と。
幼い頃の約束、今はそんなの無効だと言われればそれで終わり……であったのだが。三人は本気だった。……俺も、記憶を失っていなければ。本気だったはずだ。現に、今。本気で考えているのだから。
一度、約束をしたからには。責任を取らないといけない。男として、人として。
……と、言ったものの。そうした理由だけではない。独占欲がないと言えば嘘になる。
もちろん、それで陽葵姉達を過度に縛るつもりはないのだが……。
どんな理由にしても。陽葵姉達からも求められているのなら、期待に応えたい。いや、応える。
「……よし、行こう」
俺は高鳴る心臓を押さえ。自分の部屋だが――ノックをしてから入った。
「あ、おかえり。佳音くん」
待っていて欲しいと言ったからか……陽葵姉達はちゃんと待ってくれていた。
しかし――いつもに比べて。少し、雰囲気が違った。どこか緊張しているような空気が流れている。母さんが言った通りだ。
俺は一度。皆を見渡した。
「陽葵姉、月雫姉、空姉。話があるんだ。とても――大切な」
俺が言うと……陽葵姉の顔が固くなり。月雫姉がソワソワとし始めて、空姉はじっと俺を見た。
俺は三人の向かいに座り。そして。
まずは、陽葵姉を見た。
「俺は、陽葵姉が好きだ。いつも俺をほめてくれて、甘やかしてくれて。ハグをされるのは少し恥ずかしいけど、それ以上に心が暖かくなって。テストで上手くいかない時があっても、優しく慰めてくれて。どうすればいいのか、課題点を一緒に考えてくれる。思わず甘えたくなってしまうぐらい優しくて。全てを包み込んでくれる陽葵姉が大好きだ」
陽葵姉は最初は驚いた顔をしながらも……顔を真っ赤にしながら。優しく微笑んでくれた。
俺は次に、月雫姉を見る。
「俺は月雫姉が好きだ。素直じゃない所もあるけど、大事な時には勇気をだして、素直になってくれる。いつも美味しいご飯を作ってくれて、教えてくれる時も分かりやすいし、丁寧だし。それで、月雫姉は言葉に反して凄く優しく頭を撫でてくれて。俺はそんな可愛い月雫姉が……大好きだ」
月雫姉も最初は驚いた顔をして。でも、少しずつ顔が赤くなって、最終的には涙目になりながらも……ずっと、俺を見ていた。
そして、俺は空姉を見る。
「俺は空姉が大好きだ。細かな気遣いが出来て。俺を甘やかしてくれながらも……甘えたりもしてくれる。ちょっと過激な事もするけど、でも、分別はちゃんと分かっているし……その、俺が喜んでるのも分かっていてやっている。学校でも、最初の頃は俺が他の男子に囲まれないようすぐに来てくれた。人の感情を読み取って、行動してくれる。そんな優しい空姉が大好きだ」
空姉は相変わらず表情の変化が乏しいように見えたけど……でも、その口の端がひくひくとしていて。耳も真っ赤で、嬉しいという事が丸わかりだ。
最後に、俺は三人を見て。
「俺は三人が大好きだ。誰か一人とかではなく、三人が。……俺はまだ、三人に比べて平凡だ。でも、これからは誰にも負けないくらい努力をして、絶対に三人を幸せにしてみせる」
そのまま俺は……一人一人と視線を交わした。
「だから、俺と付き合ってください!」
そのまま俺は。頭を下げた。程なくして、月雫姉の声が聞こえてきた。
「佳音、頭。上げて」
その言葉を聞いて。俺は頭を上げた。
「佳音。私はね。佳音が大好き。ご飯を食べたらちゃんと毎回美味しいって言ってくれるし、時間があれば食器洗いとか準備の手伝いもしてくれる。佳音からしたら当たり前の事なのかもしれないけど。その当たり前が私にとって、すっごく嬉しい事なの。……それに、その。普段の甘えてくる姿もすっごく可愛くて、でも最近は体つきが良くなって、男らしくもあって。……そ、そういう所も大好きよ」
月雫姉からの、直球な好意。……そして、その言葉に俺の顔が火照っていくのが分かった。
そんな俺を見ながら。次に空姉が口を開いた。
「ん。私は甘えてくるのんちゃんも、甘やかしてくれるのんちゃんもどっちも好き。それで、ちゃんと約束を守ってくれて。一緒にいて楽しくて。ちょっと無理なお願いでも、笑って聞いてくれる。優しくて、かっこいい。そんなのんちゃんが大好き」
そう言って……空姉はニコリと笑った。自然な、柔和な笑み。
その言葉も嬉しく思ったが……どんどん顔が赤らんでいる気がする。
そうしていると……陽葵姉がくすりと笑いかけてきた。
「ふふ。私もね、佳音くんの事。大好きだよ。昔から――ずっと。優しい所とか、かっこいい所とか。全部見てきたから。記憶がなかった時も、佳音くんはすっごくかっこよくて。学校でも私達を受け入れてくれたの、すっごい嬉しかったんだよ。……もう、好きなところを挙げればいくらでも話せちゃうくらい――私は。私達は佳音くんを愛しています。だから……」
そのまま陽葵姉が、月雫姉が、空姉が近づいてくる。
そして、笑顔で。
「「「よろしくお願いします」」」
そう言って、頭を下げた。俺は堪らず……そんな三人を抱きしめたのだった。
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