第8話 お姉ちゃん

 勉強は大事だ。定期テストでは自分の成長が点数となって現れるので嬉しいし、成績にも繋がる。


 暇さえあれば……という訳では無いが、毎日勉強時間は取るようにしている。


「ふわぁあ」

 ふと、欠伸が出た。時刻を見ると……もう十二時前だ。

 もう少しやったら寝る準備をしよう。と考えていた時だ。


 コン、コンと。扉がノックされた。


「……? どうぞ」

 また珍しい時間だ。俺は扉を向いてそう言った。入ってきたのは。


「あ、やっぱり勉強してたんだ。佳音くん」


 陽葵姉だった。オレンジ色のパジャマを着ているが……胸の辺りがパツパツであり、凄い事になっている。


「……陽葵姉? どうしたんだ?」

「佳音くんと一緒に眠りたいなって思っただけだよっ!」


 はい?


「ごめん、陽葵姉。なんて言った?」

「……? 佳音くんと寝たいなって言ったんだよ?」


 ……。


「あのな? 陽葵姉。俺ももう高校生で「えいっ!」この姉妹は話を最後まで聞かないな!?」


 最近も似たような事があったぞ……?


 というか……もう。脳が溶けそうだ。なんでおっぱいってこんな柔らかいん……?


 ん?


 思わず俺は疑問に思った。……柔らかい。いや、おっぱいはみな等しく柔らかいのだが。違う。いつもはもっと……こう、隔たりがある。まさか……


「ひ、陽葵姉……着けてない?」

「うん!」


 とても良い笑顔で。陽葵姉はそう言った。途端に意識をしてしまう。


 このパジャマの下には……何も着けられていないのだと。


「私、おっぱいが大きいから良い感じのナイトブラが無いんだよ」

「……月雫姉とか空姉は?」

「ふふ。気になる?」

 陽葵姉はニヤリと。妖しげに笑う。その時やっと自分が何を聞いたのか理解し、思わず顔を覆った。


「……なんでもない」

「教えても良いんだけど、佳音くんが大変な事になっちゃいそうだからやめとくね。……あ、でもそうだね」


 陽葵姉が俺の鼻をつん、と指先で突く。


「もし私に似合いそうな。出来ればオレンジ色のナイトブラがあったら教えてね、佳音くんっ!」


 そんな機会はなかなか無さそうだが……という言葉を飲み込んで頷く。


「それじゃあお話もこれぐらいにして。おいで、佳音くん」


 陽葵姉は俺から離れてベッドに座り。自分の膝をポンポンと叩いた。


 ……え?


「い、いや。陽葵姉?」

「お勉強も大事だけど、休むのもすっごく大事なんだよ。ほら、早くおいで」


 俺は素直に頷けなかったが……その圧に負けて。俺は陽葵姉の隣に座った。


 すると、陽葵姉は俺の頭を持って。その柔らかい太腿へと置いた。


「お姉ちゃんは頑張る佳音くんが好きだよ。でも、あんまり頑張りすぎないで。適度に休まないと」

「……俺はまだそんなに頑張ってないぞ」

「ううん。頑張ってるよ。お姉ちゃんはなんでもお見通しなんだからねっ」


 陽葵姉が俺の頭を優しく撫でてきた。


 ……今なら。聞いても良いだろうか。


「陽葵姉。どうして俺に……そんなに優しくしてくれるんだ?」

「んー? 佳音くんだからだよ。……って答えは求めてないよね」


 陽葵姉の手がピタリと。俺の頭の上で止まった。


「……私達が絶対に思い出させる。その時に全部分かるよ。……じゃないと。もし、今私達が話して佳音くんが思い出したら。傷つくと思うから」


 どうして傷つくのか、とか。疑問は増えるばかりだ。……でも。俺の為に言ってくれている事だけは分かった。


「……陽葵姉がそう言うのなら」

「ふふ。ありがと。……大丈夫。何があってもお姉ちゃん達は味方だからね」


 陽葵姉はそう言って。また、優しく俺の頭を撫で始めた。それと同時に俺の胸をとん、とんと叩き始める。


 子供にやるようなそれに思わず抵抗しそうになったが。それより早く、眠気が襲いかかってきた。


「陽葵……姉。それは……少し恥ずかしい」

「良いんだよ、佳音くん。ここには私以外誰も居ないんだから。おやすみ」


 その言葉を最後に。俺は意識を失ったのだった。


 ◆◆◆


「大丈夫。お姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね」


 佳音くんの頭を枕に寝かせ。一人、そう呟いた。


 可愛らしい顔ですやすやと眠っている。その顔を見ると、嬉しくなる。それと同時に……少し。心が痛んだ。


「……私が。私達があの時居なかったから」


 思わず自分の唇を噛み締めた。今更何を言ってるんだって。自分でも思う。でも、そう思わずには居られない。


 その脚や腕には……小さいけど、無数の傷痕がある。それを撫でると、佳音くんはくすぐったそうに身を捩った。


 一度、長く息を吐いた。


「……大好きだよ、佳音くん」


 私はその頬にキスをして。眠ったのだった。


 ◆◆◆


「んんぅ……」

 やけに寝苦しい。暑いのもそうだが、苦しさがある。動けない。


 ……まさか、金縛り?


 そう思って目を開ける。すると。


「……佳音くぅん」

「こーら、佳音。そういうのは二人で……」

「……すやすや」


 俺の右隣から陽葵姉が。左からは月雫姉が抱きついていて。俺に覆い被さるように……空姉が眠っていた。


「うっ……」

 空姉のパジャマも月雫姉のパジャマもとある部分がはち切れんばかりになっている……そのボタンの隙間から、水色のものと黒色のものが覗いた。


「ひ、陽葵姉の言ってた事は……そういう事か」


 それから目を逸らしつつ、俺はどうしようかと辺りを見る。時計を見ると……そろそろ起きる時間だ。


 とりあえず、空姉をどかそう。


「そ、空姉。そろそろ起きる時間だぞ」

「……すやすや」

 空姉は心地良さそうに寝息を立てている。そして、身を捩った。


「ぅ……」

 時間は朝だ。……起きた時にそうなってしまっているのは仕方ないとして。

 それが空姉の……どことは言わないが。擦られるのは色々とまずい。


 しかし、空姉は何度も身を捩る。不自然な程に。

「……空姉? 起きてないか?」

 ぴくりと空姉の眉が動いた。


「……ほら、起きてくれ。空姉」

「す……すやすや」

「今起きてくれたら額にキスでもしようと思っていたんだが。寝てる間にするのもな」

「おはよう、今起きた」


 空姉はさも今起きたかのようにそう言った。そして、顔を近づけてくる。


「ん」

「……まあ、言ってしまったからな」

 大人しく諦め……俺はその額にキスをした。


「ん……」

 いつもより嬉しそうにしている空姉を見ていると……俺の両隣から視線を感じた。


「おはよ、佳音くん!」「……おはよ、佳音」


 両隣からそう言われ、顔を近づけてくる。……仕方ない。


 手早く二人の額にキスをして。……すると、今度は三人にキスをされて。


 本当に、こんな所を学校の生徒に見られたら殺されそうだ。


 そうして、また新しい朝が始まったのだった。



 ……ちなみに、どうして空姉と月雫姉が居るのか尋ねると。

『陽葵姉だけずるい』『べ、別に。陽葵姉が羨ましかったから眠りに来たんじゃないんだからね』

 と返されたのだった。

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