第28話 帰宅
「ただいま」
俺は家に帰ってきた。すると……玄関に見慣れた人物が三人見えた。
「おかえり、佳音くん」
まず初めに、陽葵姉がニコリと。優しく、暖かく。微笑んでくれた。
「……おかえり、佳音」
「ん。おかえり、のんちゃん」
続いて、二人も。そう言って微笑んでくれる。
「ただいま、陽葵姉。月雫姉、空姉」
俺はそのまま陽葵姉に抱きついた。
「……!」
陽葵姉は一瞬、驚いたような顔をしたが。俺を優しく。抱きしめてくれた。
俺の力にも負けないくらい、ぎゅっと。力強く。
「……頑張ったんだね、佳音くん」
陽葵姉は。そう言って。優しく俺の頭を撫でてくれた。
「偉い偉い。よく頑張りました」
そのままそう言われ……俺は離れた。
「ありがとう、陽葵姉」
「ふふ、どういたしまして」
ずっと……長い間、よく陽葵姉に抱きしめられていたからか。陽葵姉の腕の中にいると、不思議な安心感があった。
その充足感と共に俺は微笑んだ。すると。
「か、佳音……私は?」
「ん。陽葵お姉ちゃんばっかりずるい」
横から。不満そうに二人がそう言った。俺はそれに微笑みながら。
まずは月雫姉に抱きついた。月雫姉は俺の腕にすっぽり収まる大きさだ。陽葵姉とは違うが……これはこれで落ち着く。
何より。
「ふふ」
すぐ近くで、月雫姉が普段見せないような、凄く嬉しそうな笑みを浮かべてくれるから。
自然とこちらまで笑顔になってしまう。
「あ、そういえば佳音くん。お父さんは?」
「ああ。少しコンビニに寄りたいと言ってな。もう家だと言うのに行ってしまった」
俺がそう言うと。陽葵姉は苦笑した。
「あはは……バレちゃってたかな、私達が待ってたの」
「ん。それよりのんちゃん。次私だよ」
「ああ」
俺は月雫姉から離れる。……月雫姉は、ご飯を取り上げられた子犬のような。そんな表情をしていた。
俺はまた抱きしめたくなる衝動をぐっと堪えながら。今度は空姉を抱きしめた。
……何かで、ハグはストレスを和らげる効果があると聞いた。確かにこうしていると多幸感に包まれている。
……ああ。陽葵姉達がかえってきてすぐにハグをしてきたのはこれもあったのだろうか。
そうして俺は……空姉からも離れた。
「ありがとう、三人とも」
「ううん。というかいつも私達が佳音くんにやって貰ってた事だもんね」
「ええ。……わ、悪くなかったから。またいつぎゅってしてくれても良いんだからね」
「ん。寝込みを襲ってくるのも可」
「いや、それはダメだろ……」
そうして俺は陽葵姉達と共にリビングへと向かう。
「おかえりなさい、佳音くん」
「ただいま。……母さん」
一度そう呼ぶと決めたのでそう呼んでいるが。少し恥ずかしい。
「良かった、帰ってきてくれて。三人とも玄関から動かなかったのよ?『佳音くんが帰ってくるまでここに居る』って言ってね」
「……そうだったんですか」
陽葵姉達を見ると苦笑いをされた。……まあ、立場が逆だったとして、俺も同じ事をしただろうが。
「……ええと、母さん……に会ってきた事なんですが」
「……今じゃなくても大丈夫よ? ほら、少し休んでからでも良いし」
俺はその言葉に。少し考えた後に頷いた。
「……そうですね。父さんが帰ってきてからにします」
俺がそう言うと、母さんは満足そうに頷いた。
「あ、佳音。ホットミルク入れてくるね」
「あ、ああ。ありがとう、月雫姉」
月雫姉はそう言って台所へと向かった。それを見た母さんが……クスリと笑った。
「本当は私がやらなきゃいけない事なんだけどね。月雫ってば、佳音くんと一緒に居るようになってから張り切っちゃってるのよ。楽しそうだから良いんだけどね」
そう言って……少し寂しそうに。母さんは笑った。
「……あれ? そういえば佳音くんってお母さんのご飯食べた事あったっけ?」
「……幼い頃ならあるぞ?」
俺を家から連れ出してくれて、しばらくの間陽葵姉達と共に過ごしていた時は。ご飯を作ってくれていた。
「……言ってたら食べたくなってきた」
「そうだね、久しぶりにお母さんのご飯も食べたいな。月雫が作ってくれたのもすっごく美味しいけど」
……と、二人が言うと。母さんは笑った。
それと同時に月雫姉が戻ってきた。
「はい、佳音。……どうしたの? 二人とも。そんなに見てきて」
「ん。月雫姉のご飯に不満は無い、というか美味しいから感謝してる。でも、たまにはお母さんのご飯も食べたい。そんな気分」
空姉の言葉に月雫姉はハッとした。
「……そういえば。私ずっと台所占拠してた。ごめんなさい、お母さん」
「月雫が謝る事は何も無いわよ。それにお母さんの負担がその分軽くなってるんだから。……でも、そうねぇ。お母さんも腕がなまってるかもしれないし。月雫、今度一緒にご飯作らない?」
「……! うん!」
そんなやり取りを見届けながら。俺は甘いホットミルクを口に含んだ。
……そうだ、終わったんだ。いや、終わりどころか。まだまだ始まりに過ぎないんだが。
やらなければいけない事はまだたくさんある。……でも、今じゃない。
俺はソファに持たれこもうとすると。陽葵姉が俺を見てニコリと笑い、肩をぽんぽんと叩いた。
「肩、使っていいよ。佳音くん」
「……お言葉に甘えさせて貰おう」
俺はゆっくりとホットミルクを飲み終えた後。陽葵姉の肩へ頭を預ける。
そのまま俺は、ゆっくりと。目を閉じたのだった。
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