第36話 担任の先生は生徒と付き合っているらしい
「な? 知ってるか? 篠宮先生の噂」
「え、なにその噂」
「生徒と付き合ってるって話だぜ」
「ま? それ普通にやばくね?」
「ほんとな。やべーよ」
体育祭まで三週間を切ったある日。
ウチの高校では、とある噂が蔓延していた。
事前に、妹からそれとなく噂の存在は聞いていたが、かなり広まってきている。
しかも、ふんわりとした内容ではなく、篠宮先生が、ウチの学校の生徒と付き合っているといった趣旨の噂だ。
どういう経緯で、誰が発端で流れたのかはわからない。
事実無根であればスルーすればいいが、困ったことにこの噂は正しい情報しか流れていない。
人の噂も七十五日、なんて言うが、二ヶ月半もの間、この噂を放置することはできない。
かといって、打破する方法も思いついていなかった。
どうにか俺の手で、解決したいが──。
と、篠宮先生と女子生徒が話しているのが目に止まった。
「ねっ、篠宮先生。あの噂ってほんと?」
「たはは……。さすがに生徒と付き合ったりはしないよ」
「でも、目撃情報あるし」
「ぶふぅ、ごっ、こほっ」
「大丈夫?」
「う、うん。それより目撃情報って?」
「身長は170くらいで、細身で、癖っ毛っぽくて、顔はけっこうイケメン? って話だよ」
「へ、へぇ……。でもそれで、生徒って決めつけるのはどうなのかな?」
おい、こっち見んな。
チラチラと篠宮先生が視線を送ってくる。
俺はあさっての方を向いて、知らないふりをする。
「否定はしないんだ。そんな人知らないって」
「……あ、いや、そんな人知らないなぁ」
篠宮先生は相変わらず、ポンコツを発揮していた。
あれでは隠せるものも隠せそうにないな……。
ともあれ、篠宮先生と付き合っている男が俺ということは判明していないようだ。
これを不幸中の幸いと考えて、一層、身を引き締めておく必要がある。
しばらくは、篠宮先生との接触も断つ必要があるだろう。
★
「──ということで、しばらくは直接会うのは控えましょう」
放課後。
俺は噂の件で、篠宮先生と通話していた。
スマホ越しに、篠宮先生の声が伝わってくる。
「会えないの? どうしても?」
「はい。どこから流れたのかわかんないですけど、さすがに今回ばっかりは」
経緯はどうあれ、非常にまずい状態だ。
火に油を注ぐ真似だけはできない。
自然と、興味が薄れていくのを待つしかない。
「……私、禁断症状出ちゃうよ」
「我慢してください。こうして電話ならできますから。それに一応学校でも会えますし」
「それは、そうだけどさ」
「なので、しばらくは電話だけで」
今できる最大のコミュニケーショは電話のみだ。
これ以上は求めない方がいい。でなければ、命取りになる。
「タクマくんは平気なの?」
「いえ、平気って訳じゃないですよ。ただ、事情が事情なので」
「タクマくんはすごいね。なんか、いつも私ばっかりワガママ言ってる」
「あぁ、まあ、そうかもですね」
「私ばっかり、タクマくんのこと好きなのかな……」
「え?」
「ううん、なんでもない」
「そ、そうですか?」
煮え切らないが、仕方あるまい。
ともあれ、体育祭が目前に迫れば、この噂への関心も減っていくだろう。
そう、希望的観測をするしかない俺だった。
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