第34話 キス?
「──という感じでして」
「今すぐ断ってきて!」
放課後。
クラスメイトの加原さんから告白された件を、俺は篠宮先生に話していた。
話を聞き終えるなり、篠宮先生は血相を変えて咆哮する。
ちなみに場所は篠宮先生の家。
時間帯は20時を少し回ったところだ。
「できれば穏便に断りたいんですけど、状況的にややこしくて……」
俺はカノジョを強くほしがっており、そのために外見を気にし始めた男ってことになっている。
客観的に見て、加原さんの告白を断る道理がないのだ。
お試しみたいな感じでいいとまで言われている以上、断る理由が見つからない。
篠宮先生と付き合っていることを話せれば簡単だが、それは自らの首を苦しめているだけだ。
「そう、かもだけど……。じゃあ、付き合うの?」
「え、いやそれはあり得ないです。俺には、花澄さんがいますし」
即答する俺。
篠宮先生は少し嬉しそうに頬をゆるめるも、すぐに口元を引き締めて。
「でも、本当は若い子の方がいいんじゃないの?」
「怒りますよ。俺、本気で好きですから。花澄さんのこと」
「……た、タクマくん」
「こうして二ヶ月近く付き合って、今ではちゃんと花澄さんのことが好きだって自信をもっていえます。年齢なんて些細な問題です」
「そっか。うん、ありがと」
篠宮先生は安心したように頬を綻ばせると、俺に身を寄せてくる。
肩にコツンと頭を乗せてきた。
甘い香りが鼻腔をつき、俺の心臓の鼓動を早める。
ちなみにだが、こうして二ヶ月近く付き合っているものの、まだキスすらしていなかったりする。
このくらいのスキンシップが限界だ。
根本がヘタレなんだろうな……。
そのせいで、肝心な一歩を踏み出せていない。
「というか、花澄さんはいい加減自覚を持ってください。HRのとき、目配せしてきましたよね?」
「うっ……。だって、タクマくんの顔見れて嬉しかったんだもん。学校内で普通に話すタイミングないし、もう行動で示すしかないっていうか」
なにそれ、かわいい……。
ちょっと我慢できなくなってきて、俺は篠宮先生の背中に手を回す。
「ひゃっ、な、なに⁉︎」
「花澄さんが可愛すぎるのがいけないんです。ちょっと抱きしめさせてください」
「……っ。わ、わかった」
「ったく、リスクのある行動は慎みましょう。いいですか?」
「うん。……極力、気をつけるね」
「必ずです」
「は、はい」
篠宮先生はそっと俺を抱き返してくる。
恋人だからできる密な接触。
今だけは教師とか生徒とかどうだっていい。
なんとなく悪くない雰囲気な気がするし、一歩踏み込んでもいいだろうか。
背中から肩へと手の位置を移動する。
顎を引いて、間近に篠宮先生の目を見つめた。
ほんのりと上気した頬。
おそらく俺も同じくらい赤くなっていることだろう。
何か言おうかと思ったが、言葉必要なさそうだった。
篠宮先生がそっとまぶたを落とす。
無防備な顔を前にして、俺は徐々に顔を近づけていき──
──ピンポーン
ピタリと身体を硬直させた。
インターホンの音が室内を木霊する。
「え、えっと、出てくるね」
「は、はい」
くそ、タイミング悪すぎんだろ!
せっかくのキスできそうなタイミングを逃してしまった。
俺は重たく息を吐く。
ここまで進展の遅いカップルも珍しいだろう。
肩を深く落とす俺だった。
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