第16話 デート①

 日を跨ぎ、篠宮先生とデートする日がやってきた。


 思えば、休日に異性と出掛ける経験自体、初めてかもしれない。

 しかもその初めてが担任の先生って……。


 なにはともあれ、デートである。


 不慣れながらもキチンと髪型はセットしたし、街中にでても恥ずかしくない服装になっている、はずだ。忘れ物もないな? 


 幾度となく確認を繰り返してから、俺はショルダーバックを肩にかけて、玄関に向かう。

 スニーカーに右足を突っ込んでいると、リビングの扉が開いた。


「どっか行くわけ?」


 ぶっきら棒な物言い。

 腰に手を置いて、機嫌が悪いのが窺えた。


「え、ああ、ちょっとな」

「彼女とデート?」

「ま、まぁそんな感じ」

「ふーん」


 つまらなそうに鼻を鳴らすチサキ。


 ここ最近、なぜか兄に対して反抗期の傾向がある妹だ。

 下手に構わず、さっさと退散しておく方が吉だろう。


「じゃ、じゃあ俺はもう行くな」

「待って」

「ん?」

「それ、あたしも行っていい?」

「は?」


 俺は眉根を寄せて、ポカンと口を開けてしまう。


「なに呆けた顔してんの。あたしもお兄ちゃんのデートについてっていいかって聞いてんだけど」


 どうやら聞き間違いではなかったようだ。


 それだけに、俺の頭上には次から次へと疑問符が浮かび上がってくる。


「え、えっと……ダメだよ?」

「なんで?」

「なんでって……じゃあ、チサキが彼氏とデートする時に俺がついてってもいいのか?」

「あたし、彼氏いないし。そんなこと言われてもわかんない」

「え、お前、彼氏いないの?」

「は? たまたま彼女できたからって調子に乗んないでくんない?」


 チサキは頬を斜めに吊り上げると、ドスの効いた声を上げる。


 今のは聞き方が悪かった……。

 だが、単純に驚きだったのだ。そのせいで、つい思ったまま口を開けていた。


 兄の贔屓目かもしれないが、チサキは相当可愛い部類だと思う。

 それこそ、学年一の美少女くらいの称号なら手に入れてもおかしくない。


 てっきり彼氏の一人や二人いると思っていた。


「え、えっと、とにかく、デートに付いてくるとかやめろよな」

「……あ、そ。別に暇つぶししようと思っただけだし」

「暇つぶしで兄のデートついてこようとするなよ……」

「ふん」


 チサキは胸の前で腕を組むと、鼻を鳴らしながら視線を逸らした。


 本当に機嫌がよくないな……。

 さっさと出発しないと、面倒なことになりそうだ。


「……絶対、なんか騙されてるんだ。お兄ちゃんに彼女できるわけないんだから……」


 玄関の敷居をまたごうとすると、チサキがぶつくさと消え入りそうな声で呟いているのに気づいた。


「ん? なんか言った?」

「別に。なんも言ってない。さっさと行ったら?」

「お、おう。行ってきます」


 妹の眼圧にひるむ俺。

 兄として情けない限りである。


 さて、チサキに時間を取られた分、少し急ぎめで目的地に向かうとしよう。

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