第15話 妹
「じゃ、また明日ね」
「はい。また」
夜も遅い時間(といっても21時を少し過ぎたあたりだが)になり、俺は篠宮先生の家を後にした。
ちなみに今日は金曜日だったりする。
また明日、ということは詰まるところ、休日に会うということだ。
ちなみにその明日は、デートをする予定である。
色々とリスクも考えたが、このまま自宅に引きこもるだけの恋人関係というのも侘しいし、なにより篠宮先生がデートをしたがっている。いや、この言い方はよくないな。俺だってデートしてみたいのだ。
リスクが完全にないわけじゃないが、明日はメガネを外してコンタクトにしてくれるみたいだし、学校関係者が少なそうな場所に行くから過度に心配しなくても大丈夫だろう。
──そんなことを考えつつ、明日のデートについて想いを馳せていたら自宅に到着した。
薄水色の一軒家。
リビングから電気が漏れている。
俺は玄関のカギを開けて中に入った。
「……ん?」
玄関に入るなり、俺の頭上に疑問符が立っていた。
普段よりも靴が少ないのだ。
パッとみた限り妹の靴しか見当たらない。
俺は怪訝に思いつつ、リビングの扉を開けた。
するとソファのところでぽちぽちスマホをいじっている妹──チサキを発見する。
「ただいま」
「ん」
チサキは、こちらに目もくれず、ひたすらにスマホに視線を向けている。
少し前は「おかー」くらいは言ってくれていたから少し寂しい。反抗期なのかな。
「母さんは?」
「友達と予定」
「父さんは?」
「知らない。残業じゃないの」
端的に回答をくれる。
なるほど、だから母さん達がいないのか。
俺は冷蔵庫に向かうと、手近のコップをとり麦茶を注いでいく。
「てか、お兄ちゃんさー」
「ん?」
「なんか最近帰ってくんの遅くない?」
チサキは依然としてスマホをいじりながら、俺の帰りが遅い理由を訊ねてくる。
ちょっと前まで、夕食前には帰宅してきてたからな。
この疑問を抱くのは至極当然だ。ただ、その理由を聞いてきたのは今日が初めてだった。
ちょうど、母さんも父さんもいないから聞きやすかったのかもしれない。
わざわざ隠しても変に怪しまれるくらいなら、正直に話した方がいいだろうな。
もちろん、恋人が担任の先生だということは伏せるが。
「あぁ、彼女ができたからな」
「…………」
数秒、静寂がリビングを包み込んだ。
チサキはソファに座りながら彫刻のように身を固める。
「へ、へぇ。そーなんだ。お兄ちゃんと付き合ってくれる物好きいるんだ」
「いたみたいだな」
「どんな人? 写真とか見せてよ」
「いやそういうのは──」
「見せてって言ってんだけど」
ギロリと猫のように目尻を尖らせ、ぴしゃりと冷たい声をぶつけてくる。
ひ、久々に妹と目が合ったな。
てかなんで怒ってんだよ、こいつ……。
俺はコップに入った麦茶を一気に飲み干すと。
「いや、そういうの恥ずいから無理」
「は? お兄ちゃんが恥ずいとか、どーでもいいから」
「てかなんでそんな機嫌悪いの? なんかあった?」
「……っ。なんもない!」
絶対なにかあるとしか思えない言い方だった。
激昂する妹の気迫を受けて俺はたじろぐ。
「え、えっと俺はもう寝るから。あんま夜更かしすんなよ」
「なっ⁉︎ 待って! まだ話は終わってないんだけど!」
妹の甲高い声を背中で受けながら、俺は逃げるように自室に向かうのだった。
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