第14話 ラブレター
「ラブレター?」
「はい。帰るときに見つけて」
場所は篠宮先生の自宅。
ここ最近はほぼ毎日のペースで訪れている。
教職を終えて二十時近くになって帰ってきた篠宮先生に向けて、俺は放課後にあった出来事を話していた。ちなみにここ最近、俺の帰りが遅いため、家族間では俺に彼女ができたのではないかという疑惑が浮かび上がっている。まぁ、それに関しては事実だし、下手に否定するつもりはない。担任の先生と付き合っていると話す気はさらさらないが。
というかここ最近、妹がいつになく機嫌悪いんだよな……。反抗期だろうか。
話が逸れたな。元に戻そう。
「最初はイタズラかと思ったんですけど、俺にイタズラするメリットがよくわからなくて」
今日の放課後、俺の下駄箱の中にラブレターが入っていたのだ。
中身を確認したところ、俺に向けた内容であり、好意を剥き出しにしたものだった。
恋人にしてくれるなら、記載してある連絡先に一通ほしいと書かれている。
「確かに。イタズラにしてはタチが悪いっていうか、こんなイタズラをする目的がよくわからないよね」
「はい。そもそも、そんな偏差値の低い人間がこの学校にいるとは思えないですし」
仮にも進学校だったりする。
ふざけていい時と、ダメなときの見境いは取れている人間ばかりだし、問題行動を起こす人間はパッと思いつかない。それこそ、生徒と付き合っている篠宮先生が問題行動の筆頭になってしまうだろう。
「まぁこの前、
「うっ……。あれは何回もごめんねって謝ったじゃん。てか、タクマくんは少し消極的なだけで目立たない生徒じゃないと思うな」
「そうですか?」
「うん。いつも寝癖立っててわかりやすいし」
俺の頬がみるみるうちに熱くなっていく。
俺は重度のくせっ毛だ。重力に歯向かうように、髪の毛が至るところに翻っている。
ただ面と向かって指摘されると小っ恥ずかしかった。
彼女もできたことだし、いい加減、身なりには気をつけないとな……。
「す、すみません。これからは気をつけます」
「ううん。可愛くていいと思う!」
「ぜ、絶対直します!」
「えぇ、可愛いのに」
篠宮先生は残念そうに呟く。
可愛いではなく、カッコいいと思われる人間でありたいものだ。
「てか、話逸れましたけど、これどうしたらいいと思いますか?」
ラブレターの行く末について、相談する。
差出人は不明。
付き合うつもりがあるなら、連絡を寄越してほしいという内容だ。
逆に言えば、このままスルーすれば何事もなく済むわけだが。
「タクマくんはどうしたいの? ……私よりも若い女の子と付き合えるかもしれないよ?」
篠宮先生はぽしょりと寂しそうに問いかけてくる。
確かに、このラブレターを本物だと仮定した場合、同い年あるいは歳の近い女子と付き合うことが可能だろう。
だが、俺はこのラブレターを見てもなんら心を動かされなかった。
少し前なら、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいただろうけどな。
「いや、付き合う気はさらさらないです。……俺には、花澄さんがいますし」
「……っ。そ、そっか」
「でも、もしこれが本物なら無視するのって申し訳なくて。断るにしても、キチンと誠意をもって断りたいなって」
このまま見なかったことにするのは簡単だけれど、それをしたくない。
篠宮先生は視線をそーっとそらすと、こめかみのあたりをポリポリと掻きながら。
「ご、ごめんね。タクマくん」
「え? どうして花澄さんが謝るんですか?」
「それ、書いたの私なの」
「は?」
「だ、だって、心配なんだもん! 学校行けば、私より若い子がいっぱいいて、ちょっと前までこんなこと思わなかったのに、心配で心配が心配なの!」
国語の教師とは思えない語彙力で、いかに心配していたかを伝えてくる。
「そ、それでどうしてラブレターを書くなんてことに至るんですか」
「ホントはもっと若い子の方がいいのかなって。もし、これでタクマくんが書いてある連絡先に連絡したら、タクマくんの気持ちがわかると思ったから……」
やり方こそ遠回りしていたが、俺の気持ちを確かめたかったということらしい。
俺は首筋をぽりぽり掻きながら、篠宮先生の手をそっと握る。
「もう少し危機感持って行動してください。ラブレター入れるところ誰かに見られたらどうするんですか」
「ご、ごめん」
「俺は、他に好きな人つくるような器用な真似できませんから。その、安心してください」
「うんっ、わかった」
照れ臭さを押し殺しながら、はっきりと俺の気持ちを伝える。
篠宮先生はこくんと大きく首を縦に下ろした。
「あ、でもね、そのラブレターに書いた内容はホントのことだからね」
「え、じゃあこの、私の全てを知られてもいいっていうのも……?」
篠宮先生は小さく首を縦に下ろす。
おっと、この先生、ほんとにダメな人だ……。
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