第20話 修羅場?
「貴方よりもずっと濃い絆で結ばれてる女ですけど」
篠宮先生とデートをしていたら、妹と出会した。
学校関係者ではないとはいえ、デート中には会いたくない相手。
この場をどう乗り切るか頭をフルで回転させているところで、チサキが誤解を生みかねない発言をしてきた。
途端、冷えた空気がさーっと周辺を包み込んでいく。
「どういう、ことかな? 説明してもらっていい?」
篠宮先生は微笑を湛えながらも、一切笑っていない目で俺を見つめる。
心なしか、瞳の奥が黒く濁っていた。
「え、いや、誤解してますよ。こいつは俺の──」
「ねぇタクマ。あたし、のど乾いたんだけど」
「は? タクマ?」
「なに、自分の名前忘れたの?」
確かに俺の名前だが……。
今朝まで、チサキは俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでくれていた。
急な名前呼びに、戸惑うのは仕方のないことだった。
「へぇ、仲がいいんだ……」
篠宮先生の目の色がさらに黒ずんでいく。
まずい、本格的に誤解されている!
「はい。一つ屋根の下に住んでますし」
「ひ、一つ屋根の下⁉︎」
「一緒のベッドで寝たこともあります」
「一緒の……べ、ベッド⁉︎ わ、私だって、一緒にソファに座ったことくらい……」
張り合ってどうするんだよ……。
てかチサキのやつ、なに考えてんだ。
兄妹だし、昔は同じベッドで寝てた時期もある。
だが、こんな言い方をされては誤解されてしまう。
俺とチサキは全然似ていないしな。
「なに誤解生むようなこと言ってんだよ、チサキ」
「お兄……タクマは黙ってて」
キッとただでさえ猫っぽい目を尖らせ、ぴしゃりと言い放つチサキ。
威圧的な様子に、俺の身体が萎縮してしまう。というかこの視線、さっきも感じたやつだ。殺気の正体って、チサキだったのか……?
「あなたよりも、私はよっぽどタクマのこと理解してますから」
「ず、随分と喧嘩腰だね。タクマくんとはどういう関係なのかな?」
「言うつもりはありません。あなたこそ、タクマとはどう言う関係ですか?」
「私は、タクマくんの、か、彼女だけど」
篠宮先生は頬に朱を差し込むと、照れ臭そうに返答する。
チサキは頬をヒクヒクと歪ませると、下唇を強めに噛んだ。
そうして一歩、前進すると、胸の奥底から絞り出すように。
「あなたみたいな美人が、お兄ちゃんの彼女なわけないでしょ!」
……ん?
お、おっと。
なんかめっちゃ失礼なこと言ってないか? この妹。
「え、び、美人なんてそんな……」
「謙遜とかいらないですから」
「謙遜なんかじゃ……」
「とにかく、あたしのお兄ちゃんからお金を搾取しようとするのはやめてください! お兄ちゃん、見た目通りお金持ってないですから!」
チサキは俺を背中に隠すと、敵意を剥き出しにして篠宮先生を睨みつける。
ど、どうやら色々と誤解を解く必要がありそうだが。
とりあえずこの妹は、兄に対する敬意が足りなすぎる。
「え、お金取ろうなんて考えてないよ? というか、今、お兄ちゃんって」
「あっ……い、今のは言葉のあや的なやつで」
チサキは慌てて口を塞ぐと、サーッと一雫の汗を頬から流した。
俺は小さく嘆息すると。
「えっと、こいつは俺の妹のチサキです」
「ちょ、黙っててって言ったじゃん!」
「た、叩くなこら」
「……むぅ」
頬を膨らませて不満そうな顔をするチサキ。
はぁ。
面倒なことになっちまったな……。
────────────
新作短編投稿しています。
よかったらぜひ!
恋人ができたとドッキリを仕掛けた結果、幼馴染の機嫌がめちゃくちゃ悪いんですけど
リンク↓
https://kakuyomu.jp/works/16817139558613046292/episodes/16817139558613442900
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます