第19話 デート④
「えへへ、癒されるね」
「そ、そうっすね」
現在地はペットショップ。
篠宮先生は、だらしなく頬をゆるめながらショーケース越しにいる猫を堪能していた。
確かに猫の一挙手一投足には目を見張るものがある。癒し効果があるのも納得だ。
が、それ以上に猫でテンションを上げている篠宮先生の方が破壊力抜群だった。
どうしよう。
この人、めっちゃ可愛い……。
篠宮先生のこんな顔知ってるの、学校の中じゃ俺くらいだろうな。
「そんなに猫が好きなら、家で飼ったりはしないんですか?」
「ウチのアパート、ペット禁止だから」
「なるほど、それじゃ無理ですね」
「うん。ペットありのとこだと、結構家賃上がるし……」
篠宮先生は困ったように呟く。
「世知辛いですね」
「ほんとね。物価は上がるし、スマホ代とかWi-Fiとか月々にかかるもの多いし、光熱費もバカにならないし、ただでさえ生活苦しいのに貯金もしないといけないし、あ、あと奨学金の返済とかもあったりするからね。ホント、世知辛い! それなのに、公務員は副業しちゃダメとか言われてるからね!」
「お、おお……色々溜まってますね……」
「ご、ごめん。なんかつい」
「いえ、俺でよければいつでも愚痴聞きますよ」
「ほんと? ありがと。じゃあこれからは時々、吐け口にさせてもらうね」
大人になるというのは中々に大変みたいだ。
高校生でも大人の仲間入りできているかと思っていたが、全然そんなことはない。
俺なんか、テスト勉強にひぃひぃ言っているだけだ。
日々の生活における苦労は、子供と大人では雲泥の差である。
「あ、というか、タクマくんは猫派だったりする?」
「そうですね。どちらかといえば。ウチでも一匹飼っているので」
「え? 飼ってるの⁉︎」
「まぁ、はい。全然俺には懐いてくれないんですけど」
猫を飼っていることを告白すると、篠宮先生はグッと前のめりになり、鼻息を荒くした。
「なんでもっと早く言ってくれないの⁉︎」
間近に顔が迫り、顎を引く俺。
「き、聞かれなかったので……」
「見たい。撫でたい。貢ぎたい!」
「いや、さすがにウチに招くのは難しいというか」
よほど猫が好きみたいだ。
だが、さすがに篠宮先生をウチに連れていくことはできない。
親や妹がいない時間をピンポイントで狙えば不可能じゃないが、相応にリスクの伴う行為だ。
残念だが、諦めてもらうしかない。
「そ、そっか。……そうだよね」
「はい。こればっかりは」
「あ、じゃあ家庭訪問って体にするのはどうかな?」
「どんだけウチの猫見たいんですか。高校で家庭訪問って、よほど問題行動している生徒じゃなきゃ行われないですよね?」
「担任の先生と付き合ってるキミは、十分問題児だと思うなぁ」
「アンタがいうな」
俺はジト目で冷たく指摘する。
一体どの立場で言っているのやら。
「うっ……。タクマくんって、たまに冷たいツッコミするよね」
「そ、そうですかね」
「うん。まぁ、そういうの嫌いじゃないけど」
「嫌いじゃないんだ……」
M気質でもあるのか?
ほんのりと頬を赤らめて、照れ臭そうにこめかみを掻く篠宮先生。
その様子に呆れを覚えている時だった。
スタスタと、こちらに近づいてくる足音がした。
篠宮先生に気を取られていたせいか、その音に気がついたのは俺の背後に迫った時。
「ねぇ、こんなとこでなにしてるの?」
「ち、チサキ……?」
声につられて振り返る。
するとそこには、金髪のサイドテールを揺らした妹の姿があった。
何食わぬ顔で俺と篠宮先生を交互に見やるチサキ。
篠宮先生がなにがなんだかわからず、困惑していた。
「え、えっと、この子はタクマくんのなに?」
「ああえっと、こいつは──」
「貴方よりもずっと濃い絆で結ばれてる女ですけど」
え?
いや、なんでそんな誤解の生みそうな言い方を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます