第21話 担任の先生と妹①
喫茶店に移動してきた。
木製のシックなテーブルに案内され、俺が椅子に座り。
篠宮先生とチサキがソファで隣り合わせで座っている。
どっちが俺の隣に座るのかで軽い口論が勃発したためだ。
折衷案として、篠宮先生とチサキがソファに座ることになった。
「……まず初めに聞きたいんだけど、なんで誤解を生みかねないこと言ったんだよ」
俺はコーヒーをちびりと含んでから、単刀直入に切り出す。
うっ、苦いなこれ。
「お兄ちゃん、絶対騙されてるから」
「は?」
「こんな美人が、お兄ちゃんの彼女なわけないじゃん。そもそも、お兄ちゃんに彼女ができること自体おかしいんだから」
「し、辛辣すぎないかな」
さすがに目から汁が出てきそうだ。
そりゃ、モテない人生だったけど。
妹からもらったバレンタインチョコを、一個とカウントする程度には残念なやつだけど。
俺が言葉の刃に切り裂かれていると、篠宮先生が困ったように表情を強張らせながら。
「誤解してるよ、チサキちゃん。私、タクマくんのこと騙そうとか考えてない。ちゃんと、真剣に交際してる、から」
「馴れ馴れしく名前で呼ばないでください」
「あ、ごめんね。じゃあなんて呼べばいいかな?」
「呼ばなくて大丈夫です。金輪際、お兄ちゃんから身を引いてくれれば結構ですから」
チサキはツンケンした物言いで、敵意を剥き出しにする。
どうやら本格的に俺が騙されていると思っているようだ。
もし、篠宮先生が彼氏からお金を吸い取るような性悪女なら、俺と付き合ったりはしないだろう。
高校生の経済力なんてたかが知れている。
だが、おそらくチサキは、篠宮先生のことを社会人とは思っていないのだろう。
同年代だと勘違いしている節がある。まぁ、誤解されても仕方のないポテンシャルの持ち主ではあるのだが。
「チサキ、ちょっと思い込みが激しすぎるぞ」
「……そんなことないし」
「じゃあ、花澄さんのこといくつくらいだと思ってる?」
「え? お兄ちゃんと同い年……いや、敬語使ってるから一つ先輩とか?」
「花澄さんは、にじゅ──」
「わああぁぁああ⁉︎ 女性の年齢いったらダメって習ってないのかな! タクマくん!」
篠宮先生は燃えるように顔を熱くすると、慌ただしく俺の口を塞ぎにかかる。
周囲に居合わせた人が、ぎょっとしていた。
「す、すみません……つい」
「ついですまないからね!」
ピンと人差し指を突きつけて、俺に注意してくる篠宮先生。
お、おお……。
なんか怒られるのも新鮮で、いいな……。
とか呑気なことを思っていると、チサキのパチパチとまぶたを瞬かせながら篠宮先生を見やる。予想よりも遥かに大人だったことに驚いているみたいだ。
「まぁとにかく、経済力という面で花澄さんは俺よりよっぽど力がある。そもそも、俺から搾り取れる金なんて雀の涙みたいなものだ。騙す価値がない。違うか?」
「……それは、そう、だけど」
視線を落とし、不服そうではあったが、納得してくれる。
しかしチサキはむっと唇を尖らせると、俺の目を見て。
「じゃあ、どうやって知り合ったの?」
「え、あ、ああえっと、海でナンパした的な」
「は?」
「だからナンパしたんだ。俺が、花澄さんを」
付き合うきっかけになったのは、間違いなく海でのナンパだ。
あれがなければ、教師と生徒のままだっただろう。
チサキは俺からナンパという単語が出てくると思わなかったのか、小さい口をポカンと開けてしばらくその場で放心していた。
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