第28話 担任の先生が告白されたらしい

「タクマくんのこと、彼氏だって紹介していいかな?」


 この先生は一体、なにを言っているのだろうか。


 俺はポツンとその場で立ち尽くしながら、戸惑いをあらわにする。


「い、いやいや、一番やっちゃダメなやつですよそれ。俺たちの関係はバレちゃいけないんです。この学校の先生に知られた暁には、一巻の終わりです」


 俺は至って冷静に説き伏せる。

 けれど、篠宮先生は挙動不審な様子のままで。


「う、うん。だよね」

「だったら」

「でもね、私に告白してきたのって、七宮先生、なんだよね」

「え、七宮先生って……」


 数学教師だ。

 ウチのクラスも担当していて、少しスパルタ気味なところはあるが、授業がわかりやすく生徒人気も高い。


 ただ、女性の先生だ。


 多様性の時代だし、恋愛感情の向かう先が必ずしも異性にいく必要はないと思っている。しかし、そういったイメージがなかった分、驚いてしまった。


「たはは……。前に飲み会で、男の人は苦手って話したことがあって、みんな女の子ならいいのにみたいなこと酔っ払って言っちゃったことあるんだよね。多分、キッカケはそれだと思う……」

「な、なるほど。でも、普通に断ったらいい話じゃないんですか?」


 告白してきたのが七宮先生ということで驚いてしまったが、告白を断れば済む話に聞こえてしまう。相手が異性だろうが同性だろうが変わらない。


「そう、なんだけど。どうにも七宮先生は私がレズだと思ってるみたいで」

「はぁ」

「で、諦めるためにも彼氏の顔を見てみたいって言われちゃって……」

「ま、まさか了承したんですか? それ」


 コクリ、と小さく首を縦にふる篠宮先生。


 俺が大学生とかで、篠宮先生と付き合っているならば、さしたる問題じゃない。

 けど俺はこの学校の生徒だ。そして、七宮先生も俺を認知している。


「だ、だからタクマくんに協力してほしくて……」

「いやこればっかりは、断ってください。やっぱり彼氏は見せられませんって」

「でも、それだと、彼氏って嘘を吐いて七宮先生の告白を断ったように感じないかな?」

「それは、まぁ……そうですね」

「だとしたら嫌だなって」

「気持ちはわかりますけど」


 だが、ことはそう単純ではないのだ。


 篠宮先生の気持ちはわかるが、感情論で突き進むべきではない。


「あ、それにね。他言はしないって約束してくれてるの! だから、私たちの関係が周知される心配はないかなって」

「そりゃ、まさか生徒と付き合ってるとは思わないでしょうしね……。もし、俺たちのことを知ったら手のひらを返すかもしれませんよ」

「うぐっ……」

「ちょっとだけ考えさせてもらっていいですか?」


 俺は顎に手を置き、篠宮先生に考える時間を要求する。


「あ、うん。それは大丈夫だけど」

「じゃ、放課後に結論出すので」

「わかった。ごめんね、急に引き止めちゃって」

「というか、引き摺り込まれた感じですけどね」

「ご、ごめん……」

「ホントですよ」


 篠宮先生は本当に、警戒心が薄すぎる。


 さて。

 そろそろいかないと、授業が始まってしまうな。


「あ、そだ」

「なんですか?」


 篠宮先生は俺の手をそっと握ると、上目遣いで見つめてくる。


「だ、大好きだよ。タクマくん」

「きゅ、急になんですか⁉︎」

「えへへ、言いたくなったから」

「と、時と場所を考えてください!」

「はーい」


 篠宮先生は一足先に、教室を出ていく。

 俺はすっかり赤くなった顔を冷やすため、しばらくこの場から動けなかった。


 おかげで、授業にちょっと遅刻した……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る