第31話 ウワサ

「埼玉県教育委員会は、その女性教師を懲戒免職処分にしたとのことです。キッカケは今年の七月、男子高校生と偶然──」


 テレビの中にいる美麗な女性が、透き通るような声でつらつらと原稿を読み上げる。ソファに座る妹のチサキは、ぽちぽちとスマホをいじりながら、ニュースを右から左へと聞き流していた。


 俺はといえば、夏場のペットボトルくらいダクダクと汗を掻き、口の中を乾かしていた。


 なんだこのニュース!

 めちゃくちゃ気になるんだけど! 


 当事者が俺と篠宮先生と言われても、なんら疑いを持たないニュース内容だ。


 まぁ、ここは埼玉県ではないから、無関係なのは間違いないのだが。


 俺はすっかり勉強の手を止め、テレビに釘付けになる。


 と、そんな俺の様子を気にかけたチサキが、怪訝そうに見つめてきた。


「なんか面白いニュースでもやってるの?」

「あ、いや、そんなことはないけど」

「あー、そゆこと。ま、くれぐれもお兄ちゃんはニュースになったりしないでよ」

「あ、当たり前だ。そもそも、花澄さんは別の学校の教師だからな」


 チサキにはそういう体で話を通している。

 さすがに同じ学校に在籍していることは言えない……。


「ならいーけど。てか、最近ウワサで聞いたんだけどさ」


 チサキは仰向けになってスマホをいじりながら、淡白に切り出した。

 俺は小さく首を傾げながら。


「ウワサ?」

「お兄ちゃんの学校、先生と付き合ってる生徒いるってホント?」

「は? な、なんだよ、それ」

「や、あくまで人伝いに聞いただけだし、何も証拠とかないけど。ただ、そーゆう話聞いたから」


 俺と篠宮先生のことを、実は知っている人間がいるのか? 


 七宮先生の性格からして、「他言しない」と約束した以上、言いふらすとは思えない。


 いや、今この場で考えても仕方ない。


 そもそも、俺たち以外にも、教師と生徒で付き合っている人間がいるかもしれないし。


「そんな根も葉もないウワサ、聞き流した方がいい」

「ま、そーだね。ただ、火のないところに煙は立たないからさ」


 チサキの何気ない発言に、ピクリと俺の肩が上下する。


 ちなみに、篠宮先生と付き合い始めてから、早いもので二ヶ月近く経っていたりする。


 最近はどこか気の緩みもあったし、警戒心を改める必要がありそうだな……。

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