第25話 不機嫌な妹

「お兄ちゃんはこっち」

「あ、ああ」


 時は流れ。

 出前で頼んだピザが到着した。


 チサキはダイニングテーブルの一角に腰を据え、隣に座るよう指示を飛ばしてくる。


 少しでも歯向かえば、噛み付いてきそうな雰囲気。

 ここは素直に言うことを聞いた方がよさそうだ。


「……お兄ちゃんの彼女さんも、どーぞ食べてください」

「あ、うん。ありがと……。というか、敬語使わなくて大丈夫だよ?」


 チサキはいつの間にか、篠宮先生に対してタメ口になっていた。


 しかし、今になって再び敬語に逆戻りしている。


 チサキはプイッとそっぽを向くと。


「いえ、歳上には敬語を使うべきだと思うので」

「私は全然気にしないよ」

「あなたがどう思ってるかは関係ないです」

「そ、そっか。私はもっとチサキちゃんと仲良くしたいな」

「なんでそんな話になるんですか。あたしは仲良くしたいなんて思ってないです」

「うっ……」


 ツンケンした態度で、篠宮先生を突き放すチサキ。


 篠宮先生は視線を落として額に影を作ると、苦い表情を浮かべた。


「そんな言い方ないだろ。お前、ちょっと感じ悪すぎるぞ」

「……ふん」


 見かねた俺が注意するも、鼻を鳴らして素知らぬ顔を浮かべるだけだった。


 まいったな……。

 チサキは篠宮先生のことを敵視しすぎている。


 仲良くならなくても問題はないが、険悪な関係が築かれるのは避けたい。


 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、和やかとは程遠いギスついた空気に包まれていた。




「た、タクマくん……。どうしたら、チサキちゃんと仲良くなれるかな?」


 昼食が終わって少し経った頃。

 相も変わらず、シルクと戯れている篠宮先生が俺に相談してきた。


 ちなみにチサキは、ソファに寝転がりスマホに釘付けになっている。


「そう、ですね……。正直、下手に刺激しないのが一番な気がします」


 現状、仲良くするのは難しい様相を呈している。


 それならば、下手に刺激するような行動をしない方がいい。


「そっか……。チサキちゃんって好きなものとかある?」

「え、ああ……アイツ、かなりゲーム好きですよ。最近はめっぽうソシャゲにはまってるみたいです」

「ソシャゲ、か……。あっ、良いこと思いついたかも!」

「え? ど、どこ行くんですか?」

「ちょっと出かけてくる。すぐ戻ってくるから!」

「は、はぁ」


 すっくと立ち上がり、荷物を持ってリビングを出る篠宮先生。


 一体、何を思いついたのやら。


 と、篠宮先生がいなくなったことに気づいたチサキが口を開く。


「なに、お兄ちゃんの彼女、もう帰ったの?」

「いや、ちょっと外に用があるみたいだ」

「ふーん」

「その態度、少しは改善できたりしないか?」

「する気ないから。てか、お兄ちゃんの彼女と仲良くするとか、絶対無理だし」

「なんで?」

「な、なんでって、そんなの……」


 チサキはほんのりと頬に朱を差し込むと、挙動不審に目を泳がせる。


 今日のチサキはずっと変だな……。


 それから5分ほど、篠宮先生がいない時間を過ごす。


 と、リビングの扉が開いた。

 そこから現れたのは、頬を上気させた篠宮先生。


 篠宮先生は一目散にチサキの元に向かう。


 篠宮先生、なに考えてるんだ? 


 チサキのことは刺激しない方がいいと思うんだけど。


「ち、チサキちゃん!」

「……な、なんですか?」


 チサキの顔に戸惑いの色が浮かぶ。


 篠宮先生はチサキに目線を合わせると、ポケットから長方形の厚紙を取り出した。


「ご査収ください」

「え、それって……プリペイドカード⁉︎」


 …………。


 な、なに考えてんだよ、あの先生……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る