第26話 担任の先生が妹に貢ぐ件
篠宮先生がチサキに貢いでいた。
頭が痛くなるような光景を前に、俺はただただ唖然としていた。
「これ、もらってくれないかな?」
「え、で、でも……」
チサキは困惑を瞳に宿しながら、どうするべきか正解を教えてほしそうに俺を見つめてくる。
「えっと花澄さん、なに考えてんですか……」
横槍を入れると、篠宮先生はこちらに振り返ってきた。
「だって、チサキちゃん……。ゲームが好きだって聞いたから」
「それでどうしてプリペイドカードを差し出すことになるんですか……」
「チサキちゃんと仲良くするキッカケになれればと思って……」
「いやもう買収にしか見えません」
「そうなの⁉︎」
「き、気づいてなかったんですか……」
天然というか、なんというか。
純粋にチサキと良好な関係を築きたい一心だったんだろうけど、それにしたってやり方が間違えすぎている。
俺がほとほと呆れていると、チサキがポツリと口を開いた。
「わ、訳わかんない。あたし、仲良くなんかしたくないですから」
「うっ……。そ、そっか」
「まぁ、もらえるものはもらいますけど」
「ほんと? じゃあこれ」
「ど、どーも」
「どういたしまして」
篠宮先生からプリペイドカードを受け取るチサキ。
貰うのか……。
まぁ、あのまま篠宮先生の手元にあっても持て余しそうだから、チサキの手に渡った方がいいだろうけど。
篠宮先生は両手を擦り合わせると、遠慮がちにチサキに目を合わせた。
「わ、私ね……ちゃんと、タクマくんのこと好き、だから」
「な、なんですか急に。そんなこと、あたしに言われても困ります」
「あ、あはは……そうだよね。でも、それだけは信じてもらいたくて。私のことは嫌いでもいいからさ」
こっちが恥ずかしくて死にたくなるようなことを、大胆にも言ってのける篠宮先生。
やばい。
顔が熱くなってきた……。
困ったように笑う篠宮先生。チサキは唇を前に尖らし。
「それ、嘘だったら許さないから」
「えっ、信じてくれるの?」
「ち、近いな……。近づかないでよ」
「あ、つい」
「ま、お兄なんて誰も貰い手いないだろーし、勝手にすれば?」
「うん。じゃあ勝手にするね」
突き放す物言いのチサキ。
口調はタメ口に変化していた。
この変化がいいか悪いはさておき、少しは疑いの目を晴らしてくれたと考えてよさそうだ。
最初、プリペイドカードを持ち出したときはどうなることかと思ったが、いい感じに終着点が見つかりそうだな。
チサキはぽちぽちとスマホをいじりながら。
「一応、連絡先」
「え?」
「別にお兄ちゃんの帰りが遅いときに心配だから連絡して安否知りたいとか、そんなんじゃないから。一応、交換しといた方が都合いいかなって」
「そっか。チサキちゃんって可愛いね」
「は、はぁ? い、意味わかんない!」
「じゃ、これ。私の連絡先」
チサキは真っ赤になりながら激昂する。
篠宮先生は一切動じることなく、連絡先を交換する画面を表示していた。
この短時間で、チサキの扱いになれてきたようだ。
篠宮先生はすっかりご機嫌な様子で、つらつらと口を開く。
「あ、そうだ。もし、普段の勉強とかでわからないとこあったら聞いてね。理系はあんまりだけど、文系分野と英語なら大体答えられると思うから」
「ふーん。頭いーんだ?」
「一応学校の先生だからね」
「え?」
「あ」
瞬間、リビングの室温が下がった気がした。
凍りつくような空気が広がり、数秒間の沈黙が流れる。
篠宮先生と目が合う。
だくだくと、見たこともない量の汗を流していた。。
どうやら、詰んだみたいです……。
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