第5話 逢引場所どうする?
担任の先生と付き合うことになった翌日。
周囲にバレないために気を付けることや、その上で恋人らしくデートする方法をまとめて、生徒指導室へと向かっていた。
生徒指導室の使用頻度が極めて低いようで、篠宮先生が鍵さえ入手してしまえば簡単に私的利用できてしまうようだ。
コンコン、と二回ノックをする。
「法律なんて?」
「クソ喰らえ」
昨日のうちに、スマホのメッセージアプリ内で決めた合言葉を言う。
全くもって、最低の合言葉である。
法律は絶対に厳守すべきだからな。くれぐれも、俺たちみたいな真似はしないように。
ガチャリと鍵が開く。
念の為、周囲を入念に確認してから俺は扉を開けた。
「来るの遅かったね」
生徒指導室に入るなり、篠宮先生が少し不貞腐れたように言う。
唇を前に尖らせ、恨めしそうに俺を見つめてきた。
「普段は割とすぐ帰っちゃうので、居残ることを友達に怪しまれまして」
部活には所属していないし、放課後は比較的早めに帰っている。
昨日は直接的に、篠宮先生から呼び出しを喰らった経緯があったが、今日は自主的な居残りである。
その不自然な行動を、友達に怪しまれてしまい余計な時間を喰ってしまった。
「あ、じゃあ、昨日みたいに綾辻くんは残ってって
「余計に怪しまれますよ、それ……」
一度や二度ならともかく、毎回のように教師から居残りを命令されていたら立つ瀬がない。一体、なにをやらかしたのかと不信感を抱かられるだろう。
結果的に、俺と篠宮先生との交際が発覚する危険もある。
「そっか。まぁ、その点はおいおい考えるとして、昨日言ったことちゃんと考えて来たかな?」
「はい。もちろんです」
各々が考えて来たことを共有する。
意見を交わしたものの、結局のところ。
周囲の目につかないこと。その点を留意するという結論に至った。
当たり前だが、誰の目にも付かなければバレるわけがない。
そう言った意味では、スマホの中身にも気を付ける必要がある。
着信履歴などは随時、削除する必要があるし、とにかく、お互いに関する情報を秘匿しなくてはいけない。
「じゃあ、チャットの履歴とかも一々消した方がいいってこと?」
「そうです。わずかでもリスクがあるものをデータとして残すべきじゃありません」
「そう、だよね。タクマくんが望むならエッチな写真とか送ろうかと思ったけど、そういうのも避けた方がいいよね」
「え、あ、いや、その、えっ──そ、それはその、例外的というか!」
「ふふっ、冗談だってば」
「か、からかいましたね……」
男子高校生の純情を弄びやがって……!
いや、だいぶ穢れているけども。
「タクマくんってなんというか、正直な人だよね。嘘を吐けないっていうか」
「は、はぁ。ていうか、話がズレてるので戻しますけど、とにかく、人目につくリスクは最大限なくしましょう」
「うん。……あ、てことは、この生徒指導室で会うのもなしってこと?」
「ですね。かなりリスキーなことしてますし」
学校の中で不必要に接触する回数を増やすのは得策じゃない。
あくまで普通の教師と生徒の距離感を維持するべきだ。
「じゃあどこで会えばいいの?」
当然、その疑問に行き着くよな。
「そこが難しいところですよね。……俺が一人暮らしでもしてれば良かったんですけど」
ウチで俺が一人きりになるタイミングは、そこまで多くない。
母さんはパートしているが18時には帰ってくるし、妹も早ければ16時過ぎに帰ってくる。我が家を逢引の場所に使うことは現実的じゃない。
「あ、それなら私の家に来る?」
「え?」
「一人暮らしだし。あんまり広くないけど」
「いいんですか?」
「うんっ。だって、彼氏を家にいれるのって普通でしょ?」
「……そ、そっすね」
まぁ、恋人の家に行くと考えれば普通だ。担任の先生の家に行くと考えるとアレだが。
「ただ問題なのは、俺が先生の家に行っていることがバレた時に、それこそ言い訳がつかないってとこですよね」
篠宮先生の家を逢引の場にするのは、都合はいい。
ただ、万に一つバレてしまった時が厄介だ。
そうそうバレるとは思わないが、ノーリスクってわけじゃない。
「その時は、えっと、あ、そうだ。突発的な雨に降られて、やむなく私の部屋に避難してきたってことで!」
「雨降ってなかったらどうするんですか」
「あ、どうしよ……」
教師と生徒の恋愛は、中々どうして前途多難である。
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