第21話 最後の仕事ふたたび


 ヴィクトリアによる後継者争いの調査資料いわく。

 最も後継者争いを優勢に進めている長兄レオポルドが、俺と敵対した〈海岸党〉の後援者だった可能性が高い、とある。

 それに、どうやらレオポルドが組んでいるのは海岸党だけじゃないようだ。色々な犯罪組織と接触しているらしい。


「……〈ヒッポ〉の供給には長兄レオポルドが関わっている、か」


 そうやって関係を作った組織が、秘密の農場でヤバい麻薬を生産している。そこから出た資金で後継者争いを優勢に進めているようだ。

 実際、長姉アドラシオンに加えて次男フェルナンドも失踪したらしい。

 残っているのは長兄レオポルドと末の妹オーフェリア。

 もうすぐレオポルドが勝つだろう、とヴィクトリアは予測している。

 同感だ。そう時間のかからないうちに、レオポルドは兄弟姉妹を処刑してエルフの国から迎えた女性と結婚し、即位式を完了させるだろう。


「しっかし、次期国王を任せるにしちゃろくでもない奴だ」

「同感です」


 ヴィクトリアが戻ってきた。

 あいつらの姿はない。バイトの面接でも受けてるんだろうか。


「冒険者ギルドの内側でも、芯まで腐敗しきったレオポルドが次期国王になることを問題視する声は多い。そこで私からの依頼ですが」

「おい、ちょっと待て……」

「〈ヒッポ〉の生産元を突き止めて、供給を断ってください」

「流石にそれは無理だ。Cランク冒険者に手の出る依頼じゃない」


 Sランク連れてこいよ、Sランクを。


「そうですか? あなたなら出来ると思いますが」

「無理だ。大体、もっと強い奴らが居るだろ。Sランクにやらせろよ」

「いいえ。少し、最前線の戦況が悪いようでしてね」


 ……最前線。

 王都から遠く離れた砂漠に、古代魔法文明の廃墟地帯がある。

 危険な魔物がうろつき〈遺物〉の眠る危険地帯だ。

 あそこは今、人間と魔族が繰り広げる小競り合いの最前線でもある。

 一方的に遺物を発掘することができれば、圧倒的優位に立てる。最重要地点だ。


「まともに戦える冒険者は大半が前線ですよ。戦況が落ち着くまで待っていては、後継者争いが終わってしまいます」

「にしたってなあ……」

「あなただって最前線帰りでしょう? 内地で培養されたSランクの人工英雄より、よほど優秀だと思いますがね」


 いや、そりゃ、PR用のイケメン勇者よりは強いかもしんないけどさあ。

 でもCランクだぞ。


「貸し一つ、ありましたよね?」

「貸し借りの大きさが釣り合わないだろ」


 この話を受けるわけにはいかない。


「だいたい、俺は引き取った奴隷たちを守らなきゃいけないんだ。無理だよ」


 ヴィクトリアの口元が微妙に吊り上がった。勝ちを確信した顔だ。


「調査の最中、何やら聞き込みをしている集団と出会いましてね」

「……それで?」

「尻尾のある忌み子の奴隷を見たものが居ないか聞いて回っていました」

「ノノを?」


 そういう事態があるかもしれない、とは思っていたけれど。

 でも予想外だ。俺はアルルカが怪しいと睨んでたのに。


「そいつらが探してる相手はノノで間違いないのか?」

「ええ」

「聞き込みをやってた奴らの素性は?」


 にやりと笑い、ヴィクトリアが言う。


「長兄レオポルドの傘下にいるマフィアですよ」

「……なるほど、そう来たか」


 タイミングがタイミングだ。

 俺に手下を潰されて、レオポルドが復讐を狙っているのかもしれない。

 あるいは、ノノが後継者争いに関わってるとか? いや、まさか。


「やるしかなさそうだな。こっちを狙ってる男が国王になったらマズい」


 あいつらの安全を守るためなら、俺は何だってやってやる。

 相手が国王候補だろうがマフィアだろうが容赦はしない。

 上等だ。必要なら、俺自らレオポルドを蹴っ飛ばしてやる。


「ええ。あなたが仕事をしている間、あの娘たちの身柄はギルドがしっかりと守ります。ここの酒場でバイトというのも、ちょうど渡りに船ですね」


 ギルドに守られてれば安全の心配は要らないはずだ。

 ここに手を出せば、国軍より強い冒険者たちが怒り狂って湧き出してくる。庭先の蜂の巣をつつくほどバカじゃないだろう。


「ヴィクトリア。これが本当に、引退前の最後の仕事だからな」

「最後の仕事はこれで二度目ですね」

「三度目はない。さ、俺にブリーフィングしてくれよ、調教師ハンドラー

「あなたを飼っている覚えはありませんが」


 彼女は書類を机に広げた。


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