第23話 助けの手
「情報は集まってきたな……」
ベッドに転がった俺は、脳内でここ数日を振り返る。
ギルドの依頼を受けてから、俺とヴィクトリアは地道な監視を開始した。
麻薬の供給源を断つとは言っても、まずは情報収集からだ。
流通の拠点になっている港湾を監視して、怪しげな奴をリストアップし、ギルドの情報と突き合わせて全体像を調べていく。
……街中で動くタイプの冒険者は、意外とこういう仕事が必要になる。
最終的には殴って解決できる依頼だとしても、誰をどこで殴るかが分からなきゃどうしようもないからな。
情報収集の結果、麻薬の生産をやっているのは〈タランテラ〉というマフィアだと判明した。俺が潰した〈海岸党〉とは協力関係にあったようだ。
どうやら、水棲の異種族と関係の深い海岸党へとタランテラが金を払って海路を確保し、そのルートで密貿易を行っていたらしい。
海岸党が潰れて密輸ルートを失い、資金繰りに困っている、という噂がある。
新種の麻薬〈ヒッポ〉への設備投資で借りた大金が焦げ付いているらしい。
どうにかして付け込めるだろうか。
金に困っているとはいえ、〈タランテラ〉は強い組織だ。
同名のBランク冒険者パーティが母体になった連中で、小規模ながらもかなりの武力を誇っている。
こいつらがレオポルドの後継者争いを支援してるなら、既に二人が失踪しているのも無理はない。
もし〈タランテラ〉が壊滅すれば、レオポルドは武力と資金を同時に失う。
一気に弱体化するはずだ。
どういう理由で俺たちを狙ってるにせよ、手を出す余裕はなくなるだろう。
わかったのはここまで。ここから先に調査を進めるのは難しい。
なにか別の角度から調べられればいいんだがなあ……。
ベッドでタランテラについて考えていると、いきなりノノが入ってきた。
ノックも何もなしだ。俺を見て驚いたような顔をしている。
「あれ、ご主人様? 今夜はバセッタと一緒に行かなかったんですか?」
「ノックぐらいしろよ。バセッタの護衛はヴィクトリアに頼んであるんだ」
あいつも賭場に慣れてきて、喧嘩沙汰にならない程度に儲けをコントロールする術を身に着けている。うまいもんだ。俺が睨んでなくても大丈夫だろう。
狙われてるって話がある以上、バセッタよりはノノの身辺を固めておきたい。
「あ、そうだったんですか」
ノノは引っ込んでいった。
……何しにきたんだ?
- ノノ視点 -
「ご主人様、外出してませんでした! バセッタの護衛はヴィクトリアさんに任せてるみたいです!」
アルルカのベッドの布団に潜り込み、私は報告しました。
最近のご主人様が妙にピリピリしてる原因はわからずじまい。
バセッタと一緒に賭場へ行かないんじゃ、留守中に忍び込んで調べる作戦も無理っぽいですし。
せめて理由が分かれば、私達にできることもあるかもしれないのに。
「もしかすると、バセッタよりボクたちの護衛を優先しているのかな」
「護衛? 何でですか?」
「何でだろうね。もしかすると、ボクたちは狙われているのかも……」
「え!?」
「声が大きいよ、ノノ」
あ、はい。布団の下のひそひそ話らしく、ささやき声じゃなきゃいけませんね。
「ノノ、狙われるような心当たりはあるかい?」
「うーん。ストーカーとか? 私ってかわいいですし」
「……心当たりはないんだね。じゃあ、狙われてるのはボクのほうかな? いずれにしても……ボクたちのほうでも、ちょっと情報を集めておきたいよね」
「そうですね」
私もバセッタもアルルカも、ご主人様がピリピリしてるのを見逃しはしません。
みんなで話し合って、出来る限りの手助けをしようと決めてます。
当然です。だってみんな、ご主人様のことが好きなんですから。
- バセッタ視点 -
銀貨のタワーを積み上げて、同席するプレイヤーたちの顔を見回す。
不機嫌だけど、まだみんな自制が効いてる。これなら襲われない。
今日はこんなところかな。稼ぎは
「ヴィクトリアさん。今日は帰ろ」
「へえ、ここで切り上げるんですか。手慣れてらっしゃる」
「……ん。わたしのご主人にも褒められた」
今までの稼ぎと合わせて、もう金貨が二十枚ほど貯まった。信じられない額。
だけど、油断しちゃいけない。一瞬で勝てるんだから、一瞬で負けられる。
「ところで、最近、ご主人が疲れた様子だけど。今、何の仕事をしてるの?」
「そうですねえ……世の中のためになる仕事をしていますよ」
「もっと教えて」
ヴィクトリアさんは微笑んだ。
「あなたのご主人様を助けたいんですね?」
「うん」
「……そうやって純粋に好意をぶつけていくほうが、彼も立ち直るかもしれませんね。あの人は、色々なものを背負い込む質ですから……」
「立ち直る?」
「彼、本当はもっと明るい人なんですよ? 古代遺跡のお宝探しやってた頃なんか、普通にキラキラした目でしたからね」
え、あのご主人が? 想像もつかない。
「……見てみたいかも。そういうご主人の姿」
「私もですよ。では、準備をしましょうか」
ヴィクトリアさんは道の馬車を呼び止めた。
運ばれた先は、そこそこ高級な住宅街。この人の家だ。
「何の準備……?」
「少し、王道の情報収集が行き詰まってきましたから。あなたの特技を生かして違う角度から攻めてみることにしましょう」
ヴィクトリアさんはクローゼットを漁り、小さなドレスを取り出す。
「……え?」
「うん、サイズは合いますね。差し上げますから、どうぞ持ち帰ってください」
「え、あの、え……」
言われるがままにドレスを受け取る。
高そうだ。汚したりしたら大変。わたしの全財産でも買えないかも。
どうしてこんなものを? すごく気が引けた。
「あなたのご主人様に、”サロン・ド・レジヌール”について尋ねてみてください。たぶん、それで明日には新しい賭場へ行けますよ。ドレスを忘れずに」
「さ、さろん?」
おしゃれな響き。ドレスが必要な賭場?
……それっていわゆる、社交界?
「あなたの腕なら問題はないはずですよ。説明はあなたのご主人様から聞くといいでしょう。では、帰りましょうか」
「う、うん……」
大丈夫かな。
……不安だけど、わくわくする。
これで、ご主人様と一緒に戦える。
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