第22話 少女達のアルバイト
- ノノ視点 -
「三番テーブルのお客様、揚げエビとフライドポテトとビール! 昼間っからお酒とツマミらしいですよー!」
「あいよー!」
「五番、パエーリャ一個! エビ多めですってー! ケチくさい!」
「おうよー!」
注文が、注文が多い! 激務! ブラック酒場!
お給金が良くなきゃ初日で辞めてやるところですよ!
「アルルカ、はい! 皿と皿とビール!」
「ウワワワワワ」
アルルカめがけてドカドカ放り投げたお皿が両手と頭で受け止められてます!
すごい! さすが奇術師! あれ、道化師? ま、似たようなもんですね!
「ついでにもいっちょ大皿!」
「ボクの両手も頭も塞がってるよ!?」
器用に膝で受け止めて、アルルカが片足でぴょんぴょん跳ねながら客のところに向かっていきます。冒険者たちの大歓声が裏まで聞こえてきました。
あれでこぼさないんだから神業です。
ご主人様が才能あるって言ってたのも頷けますね。
「ふう、忙しい時間は抜けたな! いやあ、よくやってくれてるじゃないか、ノノちゃんとアルルカちゃん! まかない飯は増やしとくよ!」
「やったー!」
「よくやってるっていうか、ボクが一方的に限界を試されてるっていうか……!」
忙しい昼時を越えて、ようやく休憩時間がやってきました。
「アルルカちゃんって、昔から芸の練習とかやってたんですか?」
「うん? ああ、そうだね。ボク、両親が別居してて、たまにしか王宮道化師のお父さんに会えなかったんだけど……会うたびにいろんな芸を見せてもらってさ」
……羨ましいなあ。
私のお父さんはどういう人なんだろう。
どれだけ思い出そうとしても、何も思い出せません。最初の記憶は見世物小屋の檻だったような気がします。
確かに、私は見物料を取れるぐらいかわいいですけどね!
「ノノのお父さんって、どんな人だったんだい?」
「……何も覚えてないです」
「そ、そっか」
料理を食べるためにずらした仮面の下から、後悔の表情が見えました。
「あ、でも、お父さん代わりの人なら居るかも!」
「え?」
「ご主人様ですよ、ご主人様!」
最近、人生に不足していた成分が一気に補われてる気がします。
優しくて、強くて、カッコよくて。
たくさんの物を貰ってばかり。私からも何かプレゼントしたいです。
ちょうど日割りのお給金も貰えますしね!
「……結婚したいんじゃなかったの? 一気にインモラルになったね」
「細かい事気にしちゃダメですよ! そんなんだからビビってトランプのイカサマひとつ成功させられないんですよ、もうちょい図太くなってください」
何のゲームをやってもバセッタにボコられるので、これはもう組んでイカサマするしかないと睨んでるんですが、一向に上手くやってくれません。
カード当てマジックの時は流麗にイカサマするのに、トランプのゲームとなると、ぎこちない手付きでガチャガチャやって山札崩すんですから。
「今日だって、後で何か芸をやる予定なんですよね?」
「あ、ああ。忘れてた。ウッ、心臓が……」
「アルルカちゃん」
落ち込んだ肩に手を当てて、私は言いました。
「大丈夫ですよ。ここ酒場なんですから、夕方にもなればもうみんな酔っ払いです。お酒入った観客なら何やったってバカウケですって」
「そ、そんなこと言われたって」
「じゃあ、ずっとご主人様にひっついて生きますか? ダメですよ。ご主人様にひっつくのは私のポジションになる予定ですからね!」
「……そんな堂々とダメ人間宣言しちゃダメだよ、ノノ」
「専業主婦って呼んでください」
「主婦をひっついてる扱いするのもダメだよ!? 失礼だね!?」
「細かいことはいいんですってば! とにかく元気出してください!」
背中をバシバシ叩いてやります。
「上手くなりたいんじゃないんですか!?」
「……うん。ボクには、立つべき大舞台がある」
「じゃあ頑張りましょう! 私も頑張ります! ご主人さまと結婚するために!」
「う、うん?」
とにかくそんな調子で休憩時間が終わり。夕方のシフトも終えて、アルルカが壇上に登る時間がやってきました。
案の定、大失敗でした。素人みたいにあたふた焦って、ぎこちない芸を披露して終わり。酔っ払いは楽しそうに囃し立ててましたけど。
道化師っていうか、ピエロでした。あれはあれで面白いかも。
「ダ、ダメダメだった……うう……」
「アルルカ」
額と額を突き合わせて、私は言ってやりました。
「明日があります。いつだって次があるんです。次こそやってやりましょう!」
「どうせ次も駄目だよ……」
「じゃあ次の次です! 大丈夫ですよ、アルルカなら絶対やれます!」
ごほん、と咳払いが聞こえました。
あっ、ご主人様! 迎えに来てくれたんですね!
「ノノ」
「はい?」
「お前にも良いとこあったんだな……」
「私に良いとこないと思ってたみたいな言い方辞めてください!」
「まあ、アルルカ。こいつの言ってた通り、次があるさ。自信つくまで俺が面倒見てやるから、頑張れ、な?」
「ご主人さま……うん、ありがとう」
それから、私たちは一緒に帰ったわけですけど。
「あれ、ご主人様?」
「どうした?」
「私のスキル調べてくれるって話はどうなったんですかー!?」
「……あのな、予約が必要なんだよ。最低でも一ヶ月ぐらい先になる」
「えー。期待してたのに。ガッカリです!」
「悪いな」
「お詫びに結婚してください!」
うぎゃあ! 尻尾!
……くすぐったいけど触ってもらって嬉しい! 嬉しさが勝る!
「ったく、お前は本当にもう」
ため息をついたご主人様は、なんだか疲れているような様子でした。
「ご主人様? 疲れてません? 大丈夫ですか?」
「……分かるのか。まあ、ちょっとな」
安心しろ、とばかりに、ご主人様は私の頭を撫でてくれました。
「心配するな、お前らは俺が守る……」
……あれ? 何でいきなりそんなこと言いだしたんですか?
私はアルルカと顔を見合わせました。
もしかして、ご主人様、なにか大変な事態に巻き込まれてるんでしょうか?
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