第33話 少女たちの初仕事
登録のため冒険者ギルドに向かったら、テンプレイベントが発生した。
「おいおい、ギルドはガキの来るところじゃねえぞ? しかもこいつ妙な変異があるじゃねえか、〈忌み子〉かよ! 失せな、しっしっ!」
「お前が失せろ」
「うげ鳥足! てめえの奴隷かよ!?」
テンプレは一言で終了した。
簡単な書類を作ったり何だりの手続きが終わり、硬質なギルドカードを携えた三人が戻ってくる。
これで彼女たちは最下位のGランク冒険者として登録された。
……カードの備考欄には、ばっちり〈忌み子〉だと記載されている。
ギルド職員にコネでもないとろくに仕事は回してもらえないだろう。
普通なら誰もやりたがらないような仕事で実績を積むしかない、んだが。
「おーい、ヴィクトリア」
「分かってますよ」
あいつらには俺みたいな下積みの苦労を経験してほしくない。
本当に大変だった。下水道に浸かりすぎて、俺を見たホームレスが鼻をつまんで逃げていったこともある。
「では、この下水道の大ネズミ討伐の依頼をお願いしますね」
「おいヴィクトリア!?」
「言いたいことは分かりますが、駆け出し冒険者の依頼といえば下水道の魔物掃除なのです。こういう経験が、冒険者を強くするのですよ」
……うん。まあ、確かに。
汚いとこに足を踏み入れることもできないんじゃ、冒険者失格だ。
「ノノ。がんばれよ」
「ええっ!? ご、ご主人様!? 行かなきゃダメ!?」
「ダメ」
「じゃ、じゃあ……」
そっと遠ざかるバセッタとアルルカを、ノノが素早く掴まえた。
「三人で行きます!」
「ボ、ボクはバイトが」
「休みでしょ! 私も休みなんだから! アルルカも!」
「わ、わたし、下水道の臭いを嗅ぐと吐き気がする体質……」
「皆そうです! ほら行きますよ! れっつごー!」
「真新しい首輪が……下水臭くなっちゃううう……」
ノノは強引に二人を連れて行った。かわいそ。
「……ヴィクトリア、あいつらは安全なんだよな?」
「ええ。あなたが〈タランテラ〉に致命傷を入れてから、レオポルドの動きは皆無です。彼女たちを襲撃するような余裕はありませんよ」
それはよかった。
手のかかる子供たちが居なくなって、久々にゆっくりできるな。
久々にビールでも飲むか。いや、でもなあ。
「……あいつら、本当に大丈夫かな……」
「大丈夫でしょう」
ヴィクトリアは仕事に戻る。
俺はギルドの前に出て、そわそわと道を往復した。
全然ゆっくりできない。
まあ、ノノ一人だったら心配だけど、アルルカとバセッタも居る。
尻尾でブレーキをかける役さえいれば大丈夫のはずだ。
ってのは分かってても、心配だなあ……。
居ても立っても居られなくなり、俺は歩き出した。
「ウワアアアアアもうダメだあああああっ!」
マンホールの下からアルルカの叫び声が聞こえてくる。
ああ、この下に居るんだな、あいつら。
「当ててるのに貫通しない! 武器が悪いですよ武器が!」
「二人とも、落ち着いて……」
地中から聞こえる声を辿っていくと、やがて川に出た。
下水道から川まで逃げてきた三人の少女が、ドタドタと必死に逃げている。
その三人を背後から追いかけているのはヘドロに覆われたカニだった。
見た目の通り、〈ドロガニ〉と言う。脅威度はDランク。
依頼の対象外だ。運悪く絡まれたんだな。
「ノノ、落ち着け! 弱点を狙え!」
俺は川べりから叫んだ。
「あっ、ご主人様! 来てくれたんですね! あれやっつけてくださーい!」
「……お前なあ! 冒険者になりたいんだろ! 自力でやれ!」
「あの甲殻、硬すぎるんですけど!? 無理です!」
「ご主人が出来るって言ってる! やれこのおばか尻尾!」
「ぎゃあ!」
尻尾を引っ張られて止まったノノが、ひとまずクロスボウを構える。
射撃はあっさり胴体に弾かれた。
「ノノ。弱点って、ご主人も言ってた」
「具体的にどこですかー!?」
「目、鼻、口、甲殻の隙間……鼻が一番。脳まで貫通する」
「あんな動き回るカニの鼻の穴とか、さすがの私でも無理ですよ!」
「なら動きを止めればいい……アルルカ?」
「え、ボク?」
「囮になって」
「やだよ!?」
言い争いの末に、アルルカが無理やり押し出された。
「ウワワワッ!? なんでボク!? なんでボクなの!?」
彼女はオドオドしながらも攻撃を華麗に回避している。
元から器用な身のこなしをする子だ。危なげない。
カニが思いっきりハサミを振り下ろして動きが止まった瞬間、ノノが放ったボルトが鼻の穴へとすっぽり入り込んだ。
即死するかと思いきや、カニの魔物は全然弱った様子がない。
「全然ダメじゃないですか!? 助けてご主人様ー!?」
「す、すまん。そこまでの威力不足は予想外だった」
ノノのクロスボウって、あいつが二日分のバイト代で買った安物だったな。
俺が出るしかない。
「よっ、と!」
右足の靴を脱ぎ捨て、川岸から飛び降りる。
その勢いでカニの脳天に爪を突き刺してやれば、デカブツが一撃で即死した。
「うわー! さすがご主人様!」
「ご主人……格好いい」
「美しい蹴りだ! まるで軽業師だよ!」
格好つけて無表情で通そうとしたが、俺の頬がピクピク反応してしまう。
人殺しじゃなくて、まともに格好いいところを見せられたな。気分がいい。
……しかし、威力不足で倒せなかったとはいえ、さっきの戦闘。
こいつら三人、冒険者としてパーティ組んでもやってけるやつだな?
戦闘用のスキル持ってるのはノノだけだけど、相性はバッチリだ。
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