第37話 広まりだす名声


 盗賊団が人質にされていた村の子供たちは、当然だが、不安そうだ。

 俺の顔を見た瞬間、もっと怯えた様子になる。

 ……いきなり正体不明の男が虐殺し始めたら、そりゃあ怖いよな……。


「ご主人さま、ちょっと芸をしてもいいかな」

「ああ」


 アルルカは子供たちの前に飛び出し、楽しげに芸をやってみせた。

 適当な木の棒を使い、ノノの投げる皿を空中でキャッチして回している。

 ギリギリのバランスだ。子供たちも目が離せなくなっている。


「さあ、ボクの芸は回すだけじゃないよ! こんなことだって!」


 アルルカは木の棒で三枚の皿を回転させながらジャグリングした。

 すげー。


「じゃーん、っと! さあさあ、お次は……おっ! 透明な壁が!」

「……出来るんじゃないか、アルルカ」


 あいつが冒険者ギルドの酒場でやってる芸は失敗続きだ。俺も前に忍び込んで様子を見てみたが、ガチガチに緊張しててひどい有り様だった。

 でも、今はしっかりと子供たちを夢中にさせている。


「案外、やる時はやる奴なのかもな……」


 パントマイムをしながら、アルルカは俺に目配せしてきた。

 ここの子供たちの面倒は見るから、今のうちに村を監視してる盗賊を倒してくれ、ってことか。

 俺は頷き、バセッタとノノを連れて村へ戻った。


「ご主人。プランは?」

「ノノの狙撃と俺の蹴りで、気づかれないように監視を全滅させる」

「……可能?」

「もちろん可能ですよ! 失敗した分は取り返してみせます!」

「ああ。止まってる相手の喉ぐらいなら狙い撃てるよな、ノノ」

「まっかせてください!」


 タイミングを合わせて監視を殺していく。

 誰一人として俺たちに気付けないまま、残りの盗賊は全滅した。

 いい狙撃手だ。射撃の腕だけなら、既にC級冒険者ぐらいの域には達している。


「よし、俺はこれで仕事完了だ。あとの処理は自分でやれ」

「え、帰っちゃうんですか?」

「ああ。ヴィクトリアにも、あんまり過保護じゃお前らの評価が下がるって言われたしな。俺は通りすがりの無関係な匿名冒険者ってことにしといてくれ」

「私達の評価が下がる……」


 ノノが顎に手を当てた。

 欲につられて自分の評価を優先してくれるだろうか?


「じゃ、日が暮れないうちに帰ってこいよ」



- ノノ視点 -



 ご主人様、ほんとに帰っちゃいました。


 今回ばかりは自力で何とかするしかないと思ってましたけど、結局助けてもらっちゃいましたね。

 もし助けに来てもらえなかったら……アルルカが縄抜けできることを考えても……色々と取り返しのつかない事になってたでしょう。


 もっと強くならなきゃ。

 ご主人様が保護してくれるのは嬉しいけど、このままじゃダメです。

 ……だって、私の最終目標はご主人様との結婚ですよ! 子供扱いされてたら結婚出来るわけないじゃないですか! ロリコンでもないかぎり!

 一人前にならないと!


 それに、私。やりたい事して、欲しい物手に入れて、そうやって好きに生きてくのが人生の方針なので。

 力がなきゃ、そういう感じで自由に冒険者やるのなんて無理ですし。他人に迷惑かけまくるだけの口だけ雑魚尻尾女とか言われるのは絶対に御免ですよ。

 強くなってやりますからね。絶対。


「ノノ。ご主人は、わたしたちの評価が下がるって言ってたけど……」

「逆にご主人様の功績をアピールすれば、ご主人様の評価が上がりますよね?」

「ん。その通り」

「ご主人様って、もっと評価されるべきだと思いません?」

「ご主人、絶対にCランクじゃない。Sランクが妥当」


 ですよねー。

 あれ? じゃ、私がご主人様と並び立とうと思ったら、自分もSランク相当にならなきゃいけないんですか?

 うわー、目標が遠い! ま、やってやりましょう!


「それに、私達ってどうせご主人様の奴隷なんですから、私達のランクよりご主人様のランクを上げたほうが美味しいですよね。どうせGもFも変わんないですし」

「……素晴らしさを布教、する?」

「しましょう!」


 だいたい、私達は上手くいかなかったのにご主人様から功績を奪うなんて論外ですよ論外!

 そういうわけで、アジトの子供たちとアルルカを連れて村に戻った私達は、集まった村人たちに事実を話しました。


「ってなわけで、私達のご主人様が一人でアジトを壊滅させたんです! あ、討伐依頼対象の魔物も殺してくれましたよ!」

「一人で? 嘘をつくな」


 私の尻尾とか見て嫌そうな顔しながら否定してくる人もいましたけど。


「ほんとだったよー! 血まみれだった!」

「こわかったけど、かっこよかった! でも、すごいこわかった!」


 子供たちが証言したので、村人たちも信じてくれました。

 村の恩人が〈忌み子〉だと知って面白くなさそうな人も居ますけど、大半は素直に喜んでくれてます。


「君たちの主人、サクラダという人は……凄いんだねえ」

「でしょう!? 凄いんですよ! どんどん噂とか広めちゃってください!」

「噂を広めてくれるなら、報酬は不要……」


 バセッタの提案を聞いて、村長がごくりと唾を飲みました。

 節約できれば大きいですよね。ここ貧乏そうですし。


「分かった! 君たちのご主人様がどれだけ凄いか広めるとしよう! なにせ、村の子供たちを救ってくれた恩人だ! 村人一同、感謝しかないとも!」

「村長さん。酒場でこの村の話を歌っても問題ないかな?」

「ああ、名前でも何でも好きに出してくれて構わないぞ!」


 ふふふふ。

 私達三人の心が一つになってるのを感じますね。

 この調子で、ご主人様にふさわしい名声を獲得してもらいましょう……!

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