第35話 様子のおかしい村


- ノノ視点 -



 私達が受けた依頼は、「畑を荒らす魔物を見つけて討伐してくれ」というものでした。報酬は大銀貨三枚。命を賭けるにしちゃ安い値段ですよね。

 ここから交通費とか消耗品が引かれるわけで、下手したら赤字かも。

 低ランクの冒険者なんて全然稼げませんね。


「バセッタ、この報酬を賭場で増やしてくれません?」

「……断る。どうせろくなことに使わない」

「えー、ケチー」

「ご主人も、他人の金でギャンブルはするなと言っていた……」

「ギャンブラーのくせに保守的すぎますよ! 借りまくってレバレッジしましょうよ、レバレッジ……ぎゃあ!」


 尻尾を引っ張られた! 理不尽!


「騒いでないで、ちゃんと魔物を警戒してよ?」

「警戒するのはアルルカの役目ですよ! 私は撃つ係ですからね!」

「あのさ……。バセッタ、あれ引っ張ってもいい?」

「やっちゃって」

「何でバセッタに聞くんですか!? 私の尻尾なんですけど!?」


 尻尾を片手で守りつつ、私は全力疾走で逃げ出しました。


 そんな調子で、数時間後。

 私たちは森に面した小さな農村へたどり着きました。


「すいませーん! 依頼を受けてきた冒険者ですけどー!」

「……」


 農作業をしていた男性が、私達を無言で見つめています。

 彼は何も言わずに村の中へ帰っていきました。


「雰囲気が妙……」


 私たちが忌み子だから、って感じでもなさそうです。


「よそ者が嫌いな村なのかな?」

「ま、行って確かめてみましょう!」


 私たちが村に入ると、村人たちはみんな家の中に戻っていきました。

 窓がパタパタ閉じられてます。なんで? 忌み子差別?


「君たち、冒険者かね? ずいぶんと若いが」


 年老いた人が出てきました。村長でしょうね。


「はい!」

「……すまんが、帰っとくれ。報酬が出せなくなった」

「そんなこと言われたって困りますよ! 私達、途中まで馬車で来たんですけど! せめて往復の交通費ください!」

「う、うむ……そう言われても、無い袖は振れんのだよ」

「自分から依頼を出しといてそんなこと……!」


 怒る私の肩を、バセッタが掴みました。


「この村に冒険者がいると、何かまずい?」

「……君たちまで巻き込む訳にはいかん。帰っとくれ。その年じゃ、まだ経験もない駆け出しだろう? 君たちには荷が重いよ……」

「なるほど。ノノ、アルルカ。帰ろう」

「え!? どうしてですか!?」

「で、でも、良いのかな? 何だか……トラブルを抱えてるんじゃ?」

「アルルカ、わたしたちはご主人の奴隷。勝手に命を落としたらダメ」


 意見がまとまらない私達を、村長がハラハラと見守ってます。


「村長さん、この村で何が起きてるんですか?」

「……帰っとくれ、と言ってるだろう」


 村長が冷や汗かいてます。ただ事じゃない様子ですね。

 でも、いったい?


「そういえば……この村に入ってから、一人も子供を見なかったね」


 アルルカが言うと、村長は俯いてしまいました。


「……そうだ。村の子供たちは皆、森の中にいる盗賊団の人質に取られている。冒険者を呼べば命はない、と脅されているのだ」


 ってことは、魔物の討伐依頼を出した後に盗賊団が来ちゃったんですか。

 依頼の取り消しも出来ずに、そのまま残ってた、と。

 誰が悪いかといえば、もちろん盗賊団が悪いですね。よし、倒しましょう。


「帰ろう。わたしたちが戦うのは危険すぎる」

「見殺しにするんですか? 私は戦いますよ、バセッタ!」

「帰ってご主人を呼べばいい」

「いや、それもどうかな」


 アルルカが、閉じた窓の外の隙間から外を確認しています。


「この村が妙な動きをしないか、盗賊団が見張りを立ててるはずだよ。ボクたちが村に入ったことはバレてると思った方がいい。人質が殺されるかも」

「……知ってる。それでも、逃げたほうがいい」

「でも、バセッタ。ご主人様だって、無謀な戦闘をやってまで私達を助けてくれたじゃないですか。あのご主人様が、私達に逃げろって言うと思いますか?」

「ノノの狙撃能力は一流だし、バセッタだって頭がいいじゃないか。……ボクはまあ、ともかく。危険だけど、戦えないことはないと思うよ?」

「でも……」


 私達が話し合っていると、突然、弓矢が窓に突き刺さりました。


「そこに隠れてる冒険者のガキども! 武器を捨てて、出てこい!」


 バレましたか……!


「こうなったら籠城戦です! やってやりましょう!」

「やめてくれ! わしらの子供たちが殺されてしまう……!」

「ノノ。わたしたちが失敗すれば、ご主人まで悪評が行く」


 むむむむ。


「逆転できる作戦とかないんですか!?」

「勝てるとしても、人質の子供が皆殺しにされてもいいの?」

「う。仕方ないですね、もう!」


 私達は盗賊団に投降しました。

 武装を取り上げられ、縄で縛られて森へ連行されます。


「……へえ、かわいいじゃないか? エルフみてえに整った顔しやがって、冒険者にさせとくのは勿体ねえや。こいつは金になるぜ」


 アルルカの仮面を剥ぎ取った盗賊が、露骨に舌なめずりしました。

 ……えーっと。

 都合よくご主人様が助けてくれたりしませんかね? しませんか。


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