第11話 異世界DIY
無心に草をむしる。むしむし。あ、虫。無視。むしむし。
手を抜けない。下手に根が残っていると、石の隙間から草がこんにちわする事態になりかねない。で、石を剥がして草をむしるんだけど、微妙に残ってたりして、数ヶ月後ぐらいにまた大掛かりな作業をやる羽目になって、うわあ嫌にリアルな想像が湧き出てくるぞ。DIYってもっとキラキラしたものじゃないのか。
むしれ俺。将来の俺のために。腰を犠牲に快適な寝室ライフを手にするんだ俺。
……作業しているあいだ、ずっと背後から視線を感じた。
振り返ってみれば、三人の少女が目をキラキラさせて俺を見つめている。
「いや、俺を眺めてないで間取りを考えろよ!?」
「はい! 私に案があります!」
「嫌な予感しかしないけど、聞こう。ノノの案は?」
「中心にキングサイズのベッドを置いて私とご主人様が使います! あとの二人は隅っこにテント張って暮らしてください!」
俺はバセッタに無言で目配せをした。
「真面目に考えろおばか尻尾ー!」
「ぎゃーんっ!」
これでよし。
「ほら、向こうにちょうど座れる感じの崩れ方してる所があるだろ。ああいうところで話し合うとかしとけよ。俺のこと見てるんじゃなくて」
「いやしかし、ボクはやっぱりご主人さまにだけ労働させてるのは落ち着かないような……」
「肉体は労働しなくていいから、頭脳を労働させてくれ」
「……うん。ご主人さまの言う通りだ……」
「ノノ、アルルカ。来て。いい感じに削れる石あったから、これで図を書ける」
バセッタのおかげで、何とか彼女たちは仕事にかかってくれた。
……いや冷静に考えるとこいつもさっきまで俺のこと眺めてたけど。
おっさんに入門しかかってる冴えない男の背中を眺めて何が楽しいんだ。もっと他に見るものあるだろ。洋ゲーの三人称視点じゃないんだから。
むしむし。この雑草全部燃やして解決したくなってきた。むし。
石造りだし燃えても平気だよな。ついでに石窯作ってピザでも焼くか。
ってか日本だと引退したおっさんが蕎麦打ち出すけど、引退したイタリア人のおっさんって石窯作ってピザ焼き出したりするんだろうか。
いや、イタリア人が趣味で店なんか作って労働するか……?
むしり。
「……ふう」
あまりの単純作業に思考がクッソどうでもいい方向に飛んでいた気がする。
おかげで雑草は綺麗さっぱり消え去った。あとは崩れた石を綺麗に並べてやれば、草も生えない素敵な床の出来上がりだ。また一つ人間に自然が征服された。
あいつらの様子を確かめてみれば、楽しそうに石で何かを書いている。
「……って間取りじゃなくて落書き書いてるじゃねーか!」
「ご、ご主人様! 違うんです! これはバセッタが!」
「その尻尾が丸焼き直前の七面鳥みたいになるまで毛を引き抜かれたい……?」
「うわあ出来ないくせに怖いこと言って脅してくる!」
うーん。俺は出来る気がする。
バセッタの地雷を踏まずに暮らせるといいな、ノノ。
でも俺、踏むか踏まないかじゃなくて、いつ踏むかの問題な気がしてるぞ。
がんばれ。尻尾がハゲネズミ化しても強く生きろ。
尻尾って植毛できんのかな。
「ご主人様の優しい目が逆に怖いです!」
「ご主人さま、違うんだ! ボクが部屋に飾る絵の話をしただけなんだ!」
「……ま、お前らの部屋なんだしな。俺が急かす意味もないか。多少は遊んでてもいいけど、数日中には決めてくれよ」
彼女たちを適当に遊ばせておき、俺は崩れた床の補修に移った。
視線を感じる。
「……だから、そのキラキラした目で見つめてくるのは何なんだよ!?」
「鈍感系ご主人……」
「うん、これは間違いなく鈍感系ご主人様ですね!」
「ボクが思うに、河原の丸石だってもう少し鋭い」
「何が悲しくて俺は水切りしやすそうな石と比べられなきゃいけないんだ。お前らが俺のこと好きらしいのはよーく分かってるけど、じゃあどうすればいいんだよ!? ”あんまり見てると火傷するぜ”とか言っとけばいいのか!?」
「アー……いいですね! そういうのもっとください!」
「やらねえよ!?」
……まあ、気楽に接してくれてるのは、俺を信頼してくれてる証か。
ご主人様に罰されないかとビクビクしながらご機嫌を取られるより、こっちのほうが全然マシだ。
でもちょっとノノの尻尾は引っ張りたくなってきたぞ。
「考える気がないんなら、俺の作業を手伝ってくれ」
「はーい!」
すごく前向きな考える気ないです宣言をもらったので、三人には俺の作業を手伝ってもらった。
どうしようもない石を剥がして同寸法の石レンガを並べ、同じく壁も積み直す。レンガの隙間を漆喰で埋め、魔法で乾燥させてやれば、ひとまず穴はなくなった。
朽ちたドアを外し、木板を組み合わせて切り出した新たなドアと入れ替える。
ここの天井はまだ無事だから、これで雨風が防げるようになったな。
「よっし、掃除だ! 掃いてから雑巾かけるぞ!」
便利な魔法グッズとかは買っていないので、昔ながらの方法でいくしかない。
別に金の節約とかじゃなくて、単純に俺が買い忘れていただけだ。内緒だぞ。
ほうきで葉っぱやら埃やらを飛ばしたあと、並んで一斉に雑巾をかける。
うーんレトロ。
「うおおお! 私が世界一位の雑巾レーサーですっ! コーナリングは誰にも負けない! インのそのまたインを突く……っ!」
「ボ、ボクとラインを交差させた……!? これが世界一位の力……!」
「掃除でショートカットするなおばか尻尾!」
「んぎゃい!」
ごもっともな指摘すぎて、俺は思わず腹から笑った。
……こんなふうに腹から笑うなんて、何時ぶりのことだったか……。
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