第38話 四面楚歌
広いパーク内をやっと4分の1は見回っただろうか。
いいや、結構な距離は稼いだが、施設の中までは細かく見れていない。4分の1は盛ったな。
「無理がありすぎるだろ。ウォーリーでももう少し探しやすい場所にいるわ」
大量の人垣に首を回していると、時々自分が何を探しているのかわからなくなる。
この人集りの中でも、一等星のごとく輝く
途方に暮れて立ちすくむ。
もしかして、もう遊園地の中にはいないのではないだろうか。迷子の我が子を探す親の気持ちが初めて実感できた。
「……ん?」
誰かからの電話だ。
九里からの連絡か、あるいは……。
「……げっ」
電話は嫌な方からだった。
無視するわけにもいかず応じる。
「何だよ六瀬。白雪は見つかったのか?」
『いいえ、ですが……異様な事態になっているので連絡を差し上げようと』
「異様な?」
問い返すと、スマホから轟音が鳴った。
それはバイクの排気音に酷似していて、更に人間の声も聞こえる。
『行くぞ! 我が愛馬、ゴールデンダビッドソン!』
『ぬおおおおおおお!』
かっこつけた男の荒声と、盆田らしき悲鳴が響き。
『うわああああああ!』
『なんで俺達までええええ!』
『荒井さん狭いんだから、バイクを乗り回すのはやめてくだせぇ!』
その他の声も聞こえる。
『ちょ……あぶなっ! アタシまで巻き込まないでくださいよ!』
めちゃくちゃ聞き覚えのある声も混じっている。
「九里もいるのか!? そこで何が起きてんだよ」
『逃げまどう群衆の元を辿っていたら、盆田泰治と九里小凪が建物内でウィリー走行する男に追い回されているのを目撃した訳です』
「どういうことだ……」
意味がわからん。けど遊んでいるわけではなさそうだ。
「よくわからんがピンチなんだろ? 助けてやってくれよ」
あきれ気味に返事を返す。六瀬ならなんとかするだろう。
と――数メートル先で人だかりを発見した。
サーカスでも行なわれているのか、ひときわ人が密集している。
目の前を通り過ぎる通行人の噂話が耳に入る。
「あの下でカップルが不良に襲われているらしいぞ!」
こっちでも乱闘騒ぎか。
この園内の治安悪すぎだろ。
他の見物人に並んで、通路と通路を遮る狭間、整備途中なのか堤防に挟まれた川のように低地になっている通路を見遣る。
そこでは確かに、金髪の男と白髪の女、高校生くらいのカップルが金属バットを担いだ集団に挟み撃ちにされていた。
「――って! あれ白雪と清滝じゃん!」
思い切り知人だった。というか探しに来た二人だった。やはりフードマンは清滝だったか。
こちらもいったい何故こうなったのかわからないが、計7名の不良達は今にも二人に襲いかかる勢いだ。
清滝は前後から迫る敵から、白雪を庇うように立ち塞がっている。
「なんてこった」
無論、白雪をアイツに任せてはおけない。もしものことがあったらどうするというのだ。
助けに入ろうと思っても、白雪の立つ場所とこの場所とはおよそ10メートルの高低差がある。普通ならまず飛び降りようとは思わないだろうが……そこは俺だ。
学校の3階から何度も飛び降りる訓練をしているので、これくらいの高さなら難なく着地できるだろう。
「しかし、
俺は手すりに脚をかけて、
『待ちなさい』
「…………」
まだ通話が繋がっているのを失念していた。
「今白雪と清滝がピンチなんだよ! 清滝は俺がついでに助けてやるから邪魔するな!」
『状況はおおよそ把握しています。だからこそ待てと言っているのです』
「なぜだ」
『千里様の顔を立ててください』
こちらの心境はどこ吹く風で、そんな要求を言い出す。
この期に及んで清滝の顔を立てろというのだ。
「あのなぁ……」
『貴方ならそれくらいできるでしょう。そこにいる無法者を一掃することなど訳ないはずです』
「そりゃまあ、やられるとは思わないが……」
けれど、別に俺は清滝に忖度したいとは微塵も思わない。
そこに余力を使うくらいなら、不良をなぎ払った後、白雪にどんな言葉をかけるべきか思案する方が有意義だ。
六瀬との会話を打ち切ろうと通話終了ボタンに指を伸ばす。
『盆田泰治と九里小凪がどうなってもよいのですか?』
「うっ……」
忘れてた。そっちはそっちで危機だったっけ。
「てめぇ、俺が要求を飲まなかったら二人を見捨てるってのかよ! それが人間のやることか!?」
『ワタシは元々善人ではありませんので……ギブアンドテイクです。口約束で構いませんから、なるべく千里様の面目を立てると誓えますね?』
電話越しに圧をかけてくる六瀬。
ああ、ようやく思い出した。こいつは自分の目的のためなら手段を選ばないやつだって。
「わかったよ! 清滝の顔を立ててやればいいんだろ!」
『ではお願いします』
短い返事と共に通話が切られる。
「でもどうすりゃいいんだよ」
混乱した両手で柵を叩く。
要は俺が乱入して、状況を解決するのは辞めろってことだろ。
そうしたら清滝の立場がないし、そうしたら白雪がうっかり俺にゾッコンになってしまうかもしれない。やれやれ困ったな。
そうこうしている内に下では、
「ぐッ!」
「どうした? 意気込んだ割りには女一人守れねぇのかよ」
「千里くん!」
「大丈夫、僕の後ろに隠れていて」
清滝が追い詰められていく。放って置いてもこのままリンチだろう。
迷ってる時間も少ない。本当にどうしたらいいのか。
そのとき――俺の後ろを小さい影が横切った。
「ままー、みてー。ぷいきゅあー」
それを見て、俺はある考えにたどり着く。
一瞬、『無理がないか』と弱気な声が頭を横切るが、もう時間的余裕がない。
「やるしかねぇな……」
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