第19話 後輩の想い

 アタシが抱いていた南条センパイの印象。

 それは――よく言えば普通の人、ワルく言えばモブキャラ。

 あとたまに妹さんからメッセージが来るとニヤニヤしてる、シスコン。


 特別活躍はしないし個性も薄い。

 まあ、アタシとしては女の子メインのエロゲーの主人公っぽくてそれなりに好感を抱いていたんだけど。


『ウチの風紀委員ってのは、もれなく委員長――3年の黒道先輩を支持して特殊な訓練を施されている異常者だから。小凪こなぎちゃん、悪いこと言わないからその人には近寄らない方が良いよ』


 センパイと出会う前、センパイを探していたとき、耳にした噂だ。

 でも実際に会ったセンパイは普通の人で、異常者なんて尾ひれのついた噂だと得心した。

 だって意味わかんないじゃん。学園内に潜む戦闘訓練を受けた集団なんて。

 それこそどういうエロゲーの設定なんだって思ったわけ。


 だから――戦慄した。

 複数の大人をまとめてシバいた異名通りの怪物、(そしてアタシのエロゲーを奪ったにっくき)六瀬センパイ。

 それと対峙して、何てことのないようにで居て。

 当然のように暴力を捌いて、六瀬センパイを退けた。

 それらの所業を平常運転で淡々と実行するようすは、の二文字だった。


 その瞬間――アタシの中のセンパイ像がガラガラと崩れ落ちて、同時に好奇心が刺激された。

 どういう過去があって、ああいう人になったんだろう。よく考えたら、アタシセンパイのこと何も知らないなーって。


 六瀬センパイが立ち去った後、センパイに話を聞いてみたくなって、顔を向けた。

 でも――アタシの顔を見た瞬間、どこかに飛んで行っちゃった。

 なんでだろ、急に恥ずかしくなったのかな?

 トートバッグを持ってセンパイの跡を追う。


「小凪ちゃん!? どこに行くの!?」

「ごめんなさい、私先に帰ります」


 急げば間に合うはず! 

 と思ったら意外にも部屋を出てすぐ近くに足を止めていて。しかもそこには六瀬センパイもいて。


「貴方まだあのゲームを諦めていなかったのですか……」

「いいから返せよ。俺のエロゲー」

「貴方のではありません。買ったのはワタシですので」

「でもお前、なんか正当な手続きしてなかったじゃん。金ばら撒いただけだったじゃん」


 エ、エロゲーを取り返すために交渉してる……。

 アタシですら色々ありすぎてエロゲーのことは頭から抜けてたのに、なんたる執念……。

 そうか、センパイはそんなにも一心にエロゲーを追い求めているんだ。


「何故、貴方はあのゲームにこだわるのですか」

「まあそれは、言ってしまえば愛する人のため……かな」


 照れくさそうに鼻下をかくセンパイ。

 違った、追い求めてるのはシスコン道だった。


「フッ……あの欲望まみれの物品で愛を語りますか」

「うるせぇな。お前こそ、なんであんなのが必要なんだよ」

「ワタシは端的に言えば、『保険』ですかね」


 なんか2人とも理由が不純そうで、少しムカつく。

 ごちゃごちゃした感情を押しやって、ストレートに湧いた感情。

 アタシ――負けたくない。柚葉(エロゲキャラのこと)を誰よりも知り尽くして、愛しているのは、アタシだから!

 沸き立つ感情に従って、歩を進める。


「2人共、勝手に話を進めないでください! 『ラブカツ』メロンボックス予約特典CD『柚葉とず~と一緒イチャラブ同居生活♡ ~先輩、柚葉と一日中あまあまえっちしちゃいましょう♡~』はアタシのモノです!」


 多分正式名称を一字一句間違えずに言えるのはアタシだけ。にわか共には負けたくない!

 アタシは言い争う2人を押しのけて、宣誓をした。

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