第35話 捜索

 親子連れ、カップルの群れに分け入り、白雪を探す。

 威勢良く飛び跳ねるユニコーンに空を飛び交うコースター。

 オンボロの廃墟と化していた数年前とは見違えるようだ。


「ここも立派になったものだな」


 不思議なもので、景観はまるで違っていても、その場に両足で立つと土地がノスタルジアを訴えてくる。

 そうだ、ここは昔俺と斉藤が出会った場所だ。

 何とも奇妙な縁。こんな焦っている時じゃなければ、移りかわった建造物を見て回って、そしていつかまた会うという約束を胸にそいつの面影を探していたことだろう。

 でも、今優先すべきは白雪を見つけること。

 清滝があんなことやこんなことをしでかす前に絶対に止めるのだ。

 休日でオープンしたばかりの遊園地は賑わっていて、人捜しはキツい。だが、六瀬と違い俺には頼もしい味方がいる。スマホを取り出して。


「九里、お前今どこにいる」

『アタシはえっと、その……』


 どうも歯切れが悪い。


『オークセンパイが暑さで倒れそうだったので、建物まで運んで休ませてます』

『ぬぬぬ……。白雪殿がピンチのときに情けないでござる……』


 使えなっ!

 白雪は本当にこんなやつが好きなの?


「白雪のことはスタッフには連絡したのか?」

『それはもちろん。ですが、この盛況なので運営側も人手不足らしく』


 一応探してみるとは言われたらしい。

 だが、常時迷子の案内が飛び交う園内でどこまで人員を割いて探してくれるかは怪しい。小さい子が数名行方不明になっている状況で、高校二年生の捜索に手を回す余裕がないのは、仕方のないことだ。


「くそ、結局は自力で探すしかないのか」


 通話を切って、捜索を再開する。




    ◇    ◇




 南条が園に到着する数分前。 

 パークを走るモノレールの真下。

 周囲にアトラクションはなく、また通り道としても利用されない、園内でも屈指の穴場に着いて、ようやく男は手を放した。

 手を引いて連れ出した女性の顔を見ることができず、顔を背ける。

 その女性――白雪理梨しらゆきりりはキョトンとした顔で尋ねた。


「えっと……どなたでしょうか?」

「理梨……」


 短く呼ばれた自分の名前にハッとして、白雪は両手を合わせた。


「もしかして……みなみくん? みなみくんじゃないでしょうか!」


 白雪は遠い昔、パークが改装される前に出会った少年のことを思い浮かべた。

 当時は南条のことを南と略して読んでいたのだが、そのことを彼女は忘れていた。

 昔馴染みの相手の名は、南なんとかくんと認識していた。


「お久しぶりですね。怜音れおんちゃんとは仲良くしていますか?」

 

 明らかに怪しむべき事態なのに警戒心や緊張感の欠片もない態度は、男が思い描く彼女の姿のままであった。思わず男の頬が緩む。

 男は振り返ってパーカーを剥いだ。

 野放しになった無精髭と、根元だけ黒くなった手入れの悪い金髪。

 凡夫では見るに堪えない有様だが、その男は野性味のある映画俳優のごとき風格を纏っていた。

 

「……千里くん?」


 そこでようやく、その男の正体に気がつく。

 清滝千里はコンクリート壁に手をついて、白雪の逃げ道を無くす。


「君に聞いて欲しい話がある」


 清滝は白雪を追い詰め、言葉で畳みかける。

 白雪は、清滝の圧迫する視線に対し、キッとにらみ返すと。


「わたしはお兄ちゃんの悪口を言うような人とは話しませんから。あっちいってください! ぷいっ!」


 白雪は決して雰囲気に飲み込まれることなく、拗ねる子供みたいな態度を取った。

 だがこういう自由奔放なところを清滝は気に入っていた。


「でもその拒絶は心に来るな……。それでも、この忠告だけはどうしても聞き入れてくれ。――君に早急に、素知らぬ顔でここを立ち去って欲しい」

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