第36話 復讐

「ふぅ……」


 アタシは椅子に腰掛けて小休憩をする。少しだけ休んだら、また理梨りりさんを探しにいこう。

 センパイらが来たとは言え、理梨さんが心配だ。

 かわいいくせにかなり抜けているから、フードの人に変なことをそそのかされていやしないだろうか。


九里くのり殿かたじけないでござる……」

「もういいですから、盆田センパイはここで休んでてください」


 少し動き回っただけで死にそうになっていたオークセンパイを転がすように運んだため大変疲れた。

 アタシはひとまず遊園地にあるラブホみたいな施設に逃げ込んだ。

 まあ、中身は大人の遊園地じゃなくて、ただのフードコートだったけど。

 オークセンパイは、まるで事後のようにハァハァと息を荒げて寝転んでいる。


 休憩していると、一人の女性が血相を変えて、アタシの側を駆け抜けていった。

 なんだろう、トイレかな?

 そうしていると、ヌーの群れのように続々と、人々が慌てた様子で通り過ぎる。


「うわあ!」

「キャアアアアア!」


 向こうからは悲鳴と破壊音まで聞こえる。

 火事でも起こったのか、ただ事ではない気配を感じて、オークセンパイに呼びかける。


「盆田センパイ、なんかヤバそうなんでアタシたちも逃げましょう」

「うむ」


 どうにか立ち上がったオークセンパイに、出口に向かうよう促す。

 が、それは後ろから迫ってきた。

 ブルルルルルルとけたたましい鼓動が鳴り響く。


「ええ……」


 目の前の光景が信じられない。

 だってそれは遊園地のほのぼのした建物の中に土足で踏み込んだ二輪車の音で。


「見つけたぜぇ~! 斉藤勇人さいとうゆうと


 バイクに跨がった男が叫ぶ。

 黄色の髪に青いエクステ。右手の金属バットで背中をコンコンと叩いている。

 かなりイっちゃっている感じの人。

 彼に続いて、3人の個性的な髪型の連中が徒歩で到着する。

 バイクの男はエンジンをブルンブルンと吹かした。


「きたぜきたぜぇ! このときが! テメェがシャバに出てくる日がなぁ!」


 な、なんなの。ドン引きなんだけど。

 ていうかこの人達、盆田センパイに話しかけてる!?


拓馬たくまの仇討ちだ。そのパンパンなツラをかち割ってやらぁ」

「ひっ、何のことでござるか!?」

「とぼけんじゃねぇ!」


 ガンッと金属バットが振り下ろされ、テーブルがへこんだ。


「さっき、ここにテメェがいるとリークがあったぜ。テメェと妹が仲良くデェトをしている写真と一緒になぁ!」

「ふぁっ!? 拙者には架空でしか妹はいないでござるよ!?」


 何言ってるのかわからない、けど。

 この人達、オークセンパイを狙っているの?

 ということは……まさか、そういうことでは!?


「待ってください!」


 アタシはオークセンパイを庇うように割り入る。


「盆田センパイは――モンスターのように見えるけど人間なんですよ!」

「ふぉっ!!」

「だからハンターの皆さん、盆田センパイをハントするのはやめてあげてください!!」


 きっとこの人達は闇に潜むモンスターをハントする集団的な存在なんだ。

 普段は世を忍んで表に出ない、影から社会を守る組織的なやつに違いない。


「この子なにいってんだ?」「でもマブイよな?」「ああ、激マブだべさ」


 オトモたちが審議をしている。

 バイク男はアタシを認識すると、


「おっとそこのキュートなお嬢さん。よければオレと熱いディナータイムでもどうだい? 無論、斉藤を血祭りにした後でなぁ!」


 ダメだ。全然聞く耳を持たない。


「はわわ、拙者は斉藤なにがしではないでござるよ!」

「ねぇ、こっちの話を聞いてくださいよ!」




    ◇    ◇




 白雪理梨しらゆきりりが大股で歩を進める。

 それに引っ張られるように清滝千里きよたきせんりが追い縋る。

 つい先ほどとは逆の構図になっていた。

 

「待ってくれ、話しただろう! もうすぐここには盆田くんと……そして君を潰すために彼らが来る! 君を巻き込みたくないんだ!」

「だからです! 盆田くんを放っておけません!」


 白雪は立腹したようすで、清滝を払いのけた。

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