第37話 決意
ズンズンと前へ歩む白雪を阻むため、清滝は行き先を両手で塞いだ。
「こんな話をしたくないけど、君のお兄さんに嫌がらせをしていた学生は相当悪い繋がりがあったみたいなんだ。父さんはそれを利用して、君と盆田くんに危害を加えるように仕向けた」
著名財閥企業の会長である清滝の父は、息子が不登校であることを決まり悪く感じていた。
本人にはこれ以上欠席が続くなら、家を追い出すといったものの、勘当まがいのことをすれば、これまで優秀一辺倒であった息子の評判に泥がつく。
そこで、「そもそも息子を不登校に追いやった原因は何であるか」。そこに焦点を移す。
男女関係のもつれであることを知った清滝の父は、相手側に怒りの矛先を向けた。
自慢の息子を
丁度部下が
決行の日、せめてもの慈悲として清滝千里にすべての事実を伝えた。
白雪の過去や、今日起こすことを包み隠すことなくすべて。
『奴等の標的は太った男の方になる。女をどうするかはお前の好きにしろ』
父からの連絡を受けた清滝は急ぎ部屋を飛び出して白雪の元へ走る。
盆田と白雪を分断し、白雪だけでもどうにか逃がすつもり……だったのだが……。
「どいてください! わたしは盆田くんのところに戻ります!」
「連中は本当に危険なんだ! 君を行かせるわけにはいかない!」
「あなたの言い分なんか知りません! もしものときは、そんな人たちわたしが成敗してみせます! えい! えい!」
白雪はその場で、切れの悪いシャドーボクシングをはじめる。
お転婆な仕種に清滝がどうしたものかと頭を抱えていると、その時、シンとした空気におそわれる。
知らぬ間に
前方から嫌な気配を纏った男達が顔を見せた。
「あんれぇ~? 妹だけかよ。兄貴はどうした」
「くっ……!」
前と後ろから仲間がやってきて挟まれる。
今いる通路はそこだけが谷のように沈んでいて、左右の壁、前後の敵に阻まれて逃げ場がない。
(しくじったな。やはり無理矢理でも彼女だけを逃がすべきだった)
清滝の内心を嘲笑うように、ならず者が口を大仰に開く。
「なあ妹ちゃん、兄貴がどこにいったか知ってるか?」
清滝が焦る中、白雪は凜とした態度で応じる。
「お兄ちゃんはこの場所には居ません」
「嘘はよくないなぁ。俺達はちゃーんと証拠があって探してんの」
男の言動を無視して、白雪はある質問をぶつける。
「あなたたちがお兄ちゃんをいじめていたんですか」
「その通り! そういやまだそのときの写真とかあるぜ。みたいかい?」
特にこれは滑稽だとヘラヘラ笑って写真を見せつける男。
白雪は男を睨み付けて、
「もう我慢なりません。わたしがあなたたちを成敗します!」
シュッシュッと可愛らしいパンチを繰り出す。
男は下卑た視線でそれを見届けてニヤリと笑った。
「へぇ、そうかい。妹ちゃんは俺達と遊びたいのか。なら、お兄ちゃんに泣きつきたくなるまで可愛がってやるよ!」
たまらず、清滝が割り入る。
「口を慎め……彼女に手出しはさせない!」
「あん? 誰だよお前は。部外者は引っ込んでろや」
ゴキゴキと指を鳴らして、男は清滝に詰め寄る。
清滝には自分がこの場にいる数人に喧嘩で勝ち、そして白雪を守り抜く、そんな未来像はまったく浮かばなかった。
(それでも、少しでも罪滅ぼしになれたら……)
清滝は伸びた爪が皮膚を食い千切るほど、強く手を握りしめた。
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