第34話 急転
通話の相手は
その九里の声はいつになく緊迫している。
『そうしたら、灰色のフードを被った誰かが理梨さんの腕を引いて、何処かに連れて行ったんです!』
「何だってっ!」
白雪が
『盆田センパイに続いてアタシも追っかけたんですが……』
「逃げられたのか?」
『はい……。盆田センパイが細い道で引っかかっちゃって……。道が塞がってしまいまして』
「マジか……」
通話の裏で、『ぬ、抜けないでござる!!』『もう、無理してこんなとこ通ろうとするからですよ! えい、えい!』『ふぉおおおおお~~! 九里殿、お尻を蹴らないで欲しいでござる~!』というやり取りが聞こえた。
『とにかく! ヤバい状況なんでセンパイ早く来てください!』
ブチッと通話が切れる。
なんて強引なんだ。ていうか俺に話す暇があればスタッフにでも連絡したらいいのに。
しかし、謎の灰色のフードの人物が現われて白雪を攫ったとか、急展開すぎて脳がついて行けてない。
「……ん?」
脳裏で何かが引っかかった。
そういえば、さっき俺はフードを被った男とすれ違った。
まさか白雪を攫った人物は、その男のことではないか。
それに、あいつなら動機もありそうだし。
――なんてこった。今日の俺めっちゃ冴えてるじゃん。
「不測の事態のようですね」
通話が終わったのを見計らって、六瀬から声がかかる。
「ああ、お前のとこの王子様がお姫様を連れ去ったんだとよ」
俺は手短に事情を説明した。
聞き終えると、六瀬は俺を嘲笑った。
「ふっ千里様が外に出るだなんて、そんなわけありませんよ。なにせ白雪理梨に
「だが、俺はさっきここに来る間に確かにすれ違ったぞ!」
「そこまで自信がおありなら、確認いたしましょう」
六瀬と共に何度かお邪魔している清滝の部屋へ。
白雪の安否は気になるが、ひとまずそのフードマンが清滝かどうかだけ確かめておくか。
六瀬は自信満々に言い切る。
「千里様はこの部屋で寝ているか、ゲームに打ち込んでいるはずですよ」
勝ち誇った顔の六瀬が扉を開けると、そこには清滝の姿が――ない。
「そんなバカな――ッ!」
「だからいったじゃねぇか!」
間違いない。白雪を攫ったのは清滝で確定だ。
仰天している六瀬をよそに、九里に再度電話をかける。
『はいもしもーし!』
「九里! そのフードマンの正体がわかった。そいつは清た――」
シュバ――。
いきなり蹴りが飛んできたので、マトリックス的に上半身を反らして躱した。
「うわ、あぶねぇじゃねーか!」
「よく考えて発言してください。千里様がそのような野蛮なことをなされるわけがない。別人に違いありません」
「いやいや、今のあいつならやりかねないだろ」
また蹴りが飛んできた。身体をくの字にしてなんとか回避。
「気に食わないからっていちいち手を出すな!」
「千里様は白雪理梨を憎からず思っています。まさか彼女に危害を加えるなど、ありえません。それにそのような行為は千里様らしくない」
六瀬はどうしても清滝を犯人だと決めつけたくないらしい。
けど、俺が見た分では、清滝はちょっとしたきっかけで危険行為に走る可能性があると感じていた。
「どうだかな。例えば、さっき俺に見せた報告書でもこっそり読んだんじゃねぇのか? あれを読んだ清滝が暴走する危険性はお前も考えていたんだろう?」
「確かにそれは危惧していたところです。ですからワタシは資料を施錠して管理していました。千里様には見られていないはずです」
「信用ならねーな。もう一度言うぞ、白雪を攫ったフードマンは清滝で間違いない」
「それ以上ほざくようなら、その舌叩き潰しますよ」
「やれるか試してみるか?」
俺と六瀬は一触即発で睨みあう。
お互い無言で、数秒後には激突する想定で構えを作り呼吸を整える。
が――そこに、くぐもった音声が横切った。
『ちょっとー! 聞こえてます!? 揉めてる場合じゃありませんって!』
「「…………」」
『そこで争ってどうするんですか! フードの人が清滝センパイかどうかは、こっちに来て直接確かめてみればいいじゃないですかー!』
「「…………」」
九里の言うことは珍しく正論だ。
俺としたことが、頭に血が上りすぎていたようだ。
深呼吸をして、警戒態勢を解く。
「とりあえず遊園地に向かうぞ。いいな」
「仕方ありませんね」
六瀬は片眼鏡をクイクイして同意した。
「車を用意させます。アホ女、その遊園地とやらの場所は?」
◇ ◇
目的地は幸運にも近い位置にあり、十数分で到着する。
昔潰れたテーマパークを解体し、最近リニューアルオープンしたというその遊園地はパーク全体が真新しい輝きを放っていた。
けど、俺の目にはピカピカの外装だけではなくて、もう一方の古い景色も同時に映る。
「ここは――そうかあのときの……」
などと感慨に浸る暇も無く、
「さ、降りますよ」
急かされて車から出ると、いつの間にか手配されていたチケットで入園した。
地図代わりのパンフレットを受け取ったがパークはダンジョンみたいに広く、人を一人探すのは骨が折れそうだ。なので、
「固まっていても仕方ありません。分かれましょう」
必然的にそう提案される。
ここからは手分けをして白雪と謎のフードマンを探すことになるが、それは協力作業ではないことを俺は知っていた。
「ひとつ質問だ。もし白雪を攫ったのが清滝で、何かよからぬことを考えていたとしたら、お前はどうする」
「フンッ、わかりきったことを。ワタシは千里様の味方です。少なくとも千里様に敵対はしませんよ」
「そうだろうと思った」
そう、どちらかが白雪を見つければいいという話じゃない。
俺は六瀬より先に白雪を見つける必要がある。
俺の見立てではフードマンの正体は確実に清滝だ。
六瀬も、口では否定しているが清滝である可能性はあり得ると思っているはずだ。じゃないとここまでついてくる理由がない。
六瀬が先に二人を発見した場合、六瀬は清滝の味方をするだろう。
そうなると白雪の安全は保証されない。
だから、絶対に俺が白雪を見つけ出す! それも、六瀬を出し抜いて。
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