クラスメイト全員の脳が破壊された状態から始まるラブコメ

ツインテール大好き

第1話 プロローグ(2021/6/9)

 私立桐洋とうよう学院高校。神奈川県横丘よこおか市にそびえる中高一貫のマンモス校。

 閑静な住宅地に囲まれた私立の進学校で、アドバンスコースに限って言えば、この辺では高い偏差値だ。

 卒業後は大多数が県内の国立か、日本の二文字のついた大学レベルの私立に行く。

 ま、要するに、校風、教育制度、歴史、それら自体は『普通の高校』の例に漏れない。

 だがその年の1-Bクラスは事情が違った。


「来たぞ! P4だ!」

「なっ!? じゃああれが噂の!?」


 色めき立つ生徒達だが、向こうから当てられるオーラに気圧されて自然と廊下の中央を空けた。その中央を4人の生徒が堂々と通る。さながら、医療ドラマの総回診のようだ。

 生徒達がこのような反応を示すのも無理はない。

 今年の1-Bには、この学園にいること自体奇跡のようなカリスマが――それが4人も集まっているのだから。

 全員揃ってスペックが高く、しかも美男美女で構成された、通称桐洋学院P4。なんでも某少女漫画になぞられて呼ばれはじめたとか。

 ちなみにP4のPはパーフェクトでもペルソナでもない。

 プリンス(Prince)、プラチナ(Platinum)、プライド(Pride)、ファントム(Phantom)、頭文字Pの英単語でそれぞれ4人の特徴を表している。

 複数の女子生徒が手をメガホンのように添えて叫ぶ。


「きゃあああああああああ! 千里さまあああああああああ!」


 片手で声援に応え、我が物顔で先頭を闊歩するのは、清滝千里きよたきせんり。明るい色の短髪で高身長のハンサムボーイ。成績は学年トップで1年にしてバスケ部のエース。おまけに地元の財閥企業の嫡男。まさに王子Princeの称号を受けるに相応しいP4の中でもリーダー的存在だ。

 ただ、が視線を向けているのは、清滝ではなく、その後ろ。

 少し遠慮がちに3人の後に続く白金Platinumの少女。妖精のように白い肌、女子の中では比較的身長が高く、グラビアアイドル並のグラマラスな体型。そして男女問わず釘付けにする白金色に輝く長髪。

 学園内どころか全国最強かもしれない美少女――白雪理梨しらゆきりり

 誰に対しても物腰柔らかで親切、誰が呼んだか大天使リリエル。


「白雪さんだぁ。うわぁ憧れるなぁ」

「白雪が彼女になってくれたら、オレ死んでもいいわ!」

「バーカ、死んだら意味ねーだろ!」


 当然のことながら、モテる。というか男子生徒のほとんどは彼女に夢中だ。

 好奇の目を寄せる男子生徒共に混ざって、白雪を見る。

 何度見ても、えげつない美人だ。白雪を初めて教室で見かけた時の衝撃は、今でも思い出せる。

 彼女に気を取られていると、


「白雪理梨殿、我らが1-Bのマドンナでござるな」


 隣にいたクラスメイト(推定体重100キロオーバー)に語りかけられた。


「同じクラスとは言っても、俺たちみたいな凡人には、縁の無い人種だろ」

「HA、HA、HA! それをいっちゃあおしまいでござるよ」


 妙に演技がかった態度で、ドンと腹を叩くと、ふわふわのホットケーキのように脂肪が揺れた。

 見ていて面白いものでもないので、再度白雪の方を向く……と、


「…………ん?」


 サッと顔を逸らす気配。

 気のせいかもしれないが、今、一瞬白雪がこちらを見ていたような……?


「そういえば、今日は風紀委員の集まりがある日では?」


 またしても現実に戻される。


「そうだった。悠長にしてる場合じゃなかった。……黒道先輩の呼び出しに遅れるとめんどうだからな。あの先輩滅茶苦茶なんだよ、本当に……」

「噂に違わずでござるか。であれば、今すぐ移動するべきかと」

「そうするか」


 ぶつくさ文句を唱えながらも、俺――南条湊斗なんじょうみなとは武道館に向かった。

 喧騒がまだ遠巻きに聞こえる。


「1-Bマジでうらやま-! メンツがもう神じゃん!」

「ほんとほんとー、もうなんでウチの学校来年クラス替えないのー?」


 これは俺が1年のときの、とある一幕だ。


 ――この時彼女が送っていた視線には理由があったわけだが、その理由を完全に理解するまで、結論から言うと一年近くかかることになる。

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