第10話 後輩と交渉

 あの女、まさか同じ学校の後輩だったとは……。横須賀まで遠征したのに同高と遭遇するなんてどんな奇跡だよ。


 しかし、六瀬がどこに居るかだって?

 それなら俺はさっき元P4に聞いてはいるが。


「言うわけがないだろ、お前に。邪魔者を増やすつもりはない」


 この女も『柚葉CD』を狙う一人だ。ならライバルは少ないにこしたことはない。


「『言わない』ってことは、センパイは居場所を知っているということですか?」

「ぐっ……」


 しまった。うっかり口を滑らしてしまった。

 知らない振りをした方が利口だったか……。

 仕方がない、ここはもう開き直ってしまった方がいい。


「そ……そうだが? 俺は知ってるけどお前に教える気は無い。どっちにしろ同じことだろ!」

「なるほどー、そう来ますか」


 九里は勘案しているようだが、無駄なことだ。

 どうしたって重要な情報を伝える必要は無いはずだ。


「ねぇセンパイ。アタシたち協力し合うことが出来ると思います」

「協力? そんなの無理に決まってるだろ」


 ゲームは一つしかないんだから。


「今はアタシ、南条センパイ、六瀬センパイでエロゲーを奪い合ってるじゃないですか? 今のままだと、それぞれ手に入れる確率は1/3です。いや、すでに手中に収めてる六瀬センパイが1歩も2歩もリードしている状況です」

「リードしてるっていうか、すでに勝ってるようなもんだけどな」

「だからぁ、まずはアタシと南条センパイで協力して、六瀬センパイを潰しませんか? その後手に入れたエロゲーを2人で公平に競り合いましょうよ。そうしたら、お互い1/2で入手できますよ」

「潰すって……お前結構あくどいこと考えるな」


 でも確かに、バラバラに動くよりもその方がマシかも。


「まずは六瀬センパイの魔の手からエロゲーを奪い返すのが先だと思いませんか?」

「……それはそうだ」

「でしょ! だから協力しましょうって! 協力してくれたら1分間アタシのおっぱい揉んでもいいんで!」

「そのオプションは求めてない」

「え~即答? 傷つくなー。アタシ、自分のおっぱいにはかなり自信があるんですけど」


 どうせ脅しの材料に使うつもりだろう? (普通女の方からそんな提案するかは置いといて)

 その手には乗らない。

 俺とれおちゃんの絆は、そんな誘惑で揺らぐほど浅いモノじゃない。見守っていてくれ、れおちゃん。俺はこんな女の誘惑に引っかかったりしないから!


 だが協力する提案自体は、悪い提案……ではないよな? なんか言いくるめられてる気がするのが引っかかるが……。


「わかった……あくまでも一時的にだが協力しよう、九里」

「そうこなくっちゃ! センパイもおっぱいの誘惑には勝てませんね~!」

「それは要らないといったぞ!」


 制服のボタンを外し始めた九里を止めた。


 え……ちょっと待って、こいつまさかここで脱ぐつもりだったの? そもそも脱いだ上で揉ませるつもりだったの? うわ、発想と行動力が恐ろしい……。羞恥心とか持ち合わせてないのかな?


 今さらだけど、さっきの選択間違いではないよな? ちょっと怖くなってきた。


 いったん俺は今の状況を九里に説明した。イケメン王子の清滝と、その従者の六瀬の関係、不登校の原因、元P4が自宅を訪ねても出てこないこと。


「了解です! とりあえず、清滝センパイの自宅付近で落ち合いましょうよ」


 スマホを出し合い、九里をメッセージアプリの連絡先に登録する。

 女子と連絡先交換するの、すげぇ久々だな。入学初期にアクティブな女子に一方的に聞かれたときぶりだ。


「じゃあ着いたら連絡しますね」


 九里は一足先に屋上を去ろうとしたが、途中一度立ち止まった。


「あっ、そうだ。センパイもこの後1階に下りるんですよね?」

「あたりまえだろ。何の確認だよ」

「だったら、どうせならあれやってくださいよ! あれ!」

「……あれ?」

「ほら、屋上から飛び降りるやつ! 風紀委員なら訓練してるからできますよね?」

「やるわけないだろ!! 大体あのとき飛び降りたのは3階だ!!」

「えっ……あの噂冗談じゃなかったんですか? こわ……」


 ドン引きした様子で後ずさり、そのまま九里は姿を消した。


 ……ちくしょう、あいつのせいで嫌な記憶が蘇ってきた。


『南条……お前は、愛する者が眼下で暴漢に襲われる、まさにその時。いちいち階段を下りてから助けに入るのか? そんな体たらくで守り切れると本気で思っているのか? 俺の言っていることはそんなにおかしいことか? ――――口答えするな。俺は、それがお前の正義なのかと聞いている』


 精神を安定させるため、しばらくグラウンドで部活動をする生徒を眺める。

 ……俺もそろそろ帰るか。


 途中、廊下で怪しげな集団を目にした。


小凪こなぎちゃーーん!! こっち向いてーー!」

「は……はい。私、ですか?」

「小凪ちゃん今日も可愛いね!」「うんうん!」「超可愛い!」

「も、もう。皆さんお世辞が上手なんですから//」

「僕たち今日小凪ちゃんのファンクラブ作ったんだ! あ、ちなみに僕がファン一号ね!」「いや何言ってんの? 僕が一号でしょ」「ふざけるな! オレが一号だ!」

「あわわ、皆さんケンカはやめましょうよ、ね?」


 ……あいつ、何道草食ってんだよ。

 てかそのキャラ何なの?

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